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第1話 旅立ち

 ぽつり、ぽつりと乾いた土にまばらな水玉模様が出来上がる。


 ローワンは父の隣に眠る母がいる場所を見下ろした。

 二人は今、その土の下にいる。


 ついにこの日が来たか、と、その薄い唇を動かして独り言ちる。ローワンは存外、落ち着いていた。なんといっても、血がつながっていないのだから。


 雨足は速くなり、人間離れした皺一つない白い頬が雨にさらされる。衰えを感じさせない絹のような長い金髪も同様であった。

 さらり、と顔にかかる髪の一房を長い耳に掛ける。


 ローワンには悲しいという感情もなく、八十年紡がれた一つの物語が終わったのだという安心感だけがあった。この死に対する感情の深浅は、人と、人ならざる者の明確な差だ。


 チェンジリング。


 ローワンに背負わされた一つの運命である。

 この世界は、人間と妖精の距離がずいぶんと近かった。いたずら好きの妖精は我が子と、我が子に似た容姿の人間の子を取り換えることがあるらしい。つまりローワンはたかが好奇心のためだけに、真の両親に捨てられたということだった。


 ぬかるんだ地にしゃがみ込む。

 低いヒールの黒い靴は泥に濡れていた。


 しかしローワンは気に留めることなく、母の棺桶に覆いかぶさった土を掬う。そして、指先ですりつぶした。

 白い指先が黒にまみれる。


「……さて、行かないと」


 ローワンは迷いなく立ち上がる。


 六十年前──物心ついたときから決めていたことだった。両親が土の下に眠ることになれば、真の娘に話をしに、彼女を探す旅に出よう、と。二人が生きているうちに動かなかったのは、彼女が妖精の姿に育っていることを危惧したためだ。

 現に、ローワンは妖精の中では異端、人に近い見た目をしていた。


 ローワンの長い旅路は今、はじまる。

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