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放課後サバイバルゲーム  作者: 柊れい
連戦連敗の日々
9/49

#2-6


「瀬戸くん、今日の放課後も特訓ね!」


美月の元気な声が教室に響く。僕は机に突っ伏していた顔を上げ、彼女の笑顔に苦笑いを返した。特訓。最近この言葉を何度聞かされたことか。


「今日もかよ…」


呟くようにそう言ってみるが、美月は一向に気にする様子はない。彼女にとっては、ボードゲームを極めることが何より楽しいらしい。休み時間でも、土日でも、彼女は「特訓」と称して僕を引っ張り出し、延々とゲームをやらせる。


放課後、学校の中庭にあるベンチに座りながら、美月は自前のボードゲームを広げた。


「今日はここでやるの?」


「うん、空気が良いし、リフレッシュになるでしょ?」


確かに外の空気は気持ちが良いが、リフレッシュになるかどうかは別問題だ。最近はボードゲームのことばかり考えていて、全然リフレッシュなんてできていない。むしろ、頭の中はゲームのことだけでいっぱいだ。



「じゃあ、早速始めようか!」


美月が勢いよく駒を並べ始める。その手際の良さに、僕は相変わらず圧倒される。ルールも戦略も、彼女にとっては全てお手の物だ。僕はというと、まだ基本的なことすらまともに理解できていない。


「なんでこんなにすぐ覚えられるんだろう…」


小声で呟いたが、返事はなかった。美月はもうゲームの準備に集中している。対戦相手として、僕を完全に仕上げたいらしい。



「瀬戸くん、ここの駒はこう動かして、資源をこう配置すると良いんだよ」


美月が親切にアドバイスをくれるが、それが逆に僕を焦らせる。分かってるつもりだが、実際にやってみると上手くいかない。美月の説明を聞いても、頭に入ってこないのだ。何度も負け続けていることが、ますます自分を追い詰めていた。


「もう少し考えれば、勝てるかもしれないよ!」


美月が明るく励ましてくれるのは嬉しいが、その言葉が今はただ重荷に感じる。どうせ、また同じミスを繰り返して負けるんだろう。そんな予感がしてならない。



「よし、次の一手をどうする?」


美月の問いかけに、僕はしばらく迷った末に駒を動かした。しかし、その瞬間、美月の顔に一瞬の驚きが浮かんだ。


「あれ?それ、違う方向に進めるともっと良かったかも…」


やっぱりか。美月の指摘で、僕の選んだ手がまたしても失敗だったことを悟る。何度やっても上手くいかないこの感じが、苛立ちを募らせていく。僕は不器用に駒を戻し、改めて別の方向へ動かしたが、すでに気持ちは焦りと苛立ちでいっぱいだった。


「大丈夫、次の手で取り返せるかもしれないよ!」


美月の励ましが、逆に僕を追い詰める。取り返せるという言葉を信じたいが、今の僕にはそんな余裕がない。頭の中で焦りが渦巻いているだけだ。



「もう、どうしたらいいのか分からない…」


思わず口に出してしまった。美月は驚いたように僕を見たが、すぐにニッコリと笑った。


「大丈夫だよ、瀬戸くん。焦らずに、少しずつやっていけばいいんだから」


彼女のその笑顔に、僕は一瞬だけ救われた気がした。けれど、次のゲームの一手を考えるうちに、その救いもすぐに消えてしまった。僕は再び駒を無理やり動かし、次の失敗を待つばかりになっていた。


---


土日にも、美月は特訓だと言って僕を誘い出してきた。僕はその度に「今日は休みたい」と思うが、美月の熱意に逆らえず、結局ついて行ってしまう。放課後も、休日も、ボードゲームに囲まれている。負け続けている自分が、それでもゲームを続けていることに、もはや意地すら感じる。


「勝てなくても、いつかは勝てるだろう…」


そう自分に言い聞かせるが、その「いつか」がいつ来るのか分からないことが、焦りをさらに増幅させる。


---


特訓の結果はまだ現れていない。毎回、勝利への一手を逃している。美月の言葉では「もう少し考えれば勝てる」と言われるが、その「もう少し」が僕には遠すぎる。


「次の一手を考えるって、こんなに難しいものなんだな…」


僕はまたしても自分の駒を見つめ、ため息をついた。焦りや苛立ちがどんどん膨れ上がり、自分を飲み込んでいく。でも、ここで諦めるわけにはいかない。美月が信じてくれている限り、僕もこの勝負を続けていくしかないんだ。


「次こそは…」


そう呟きながら、僕は再び駒を動かした。

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