#5-10
試合終了のブザーが鳴り響いた。その音が、僕たちの戦いが終わったことを無情にも告げる。目の前のフィールドは、まだ熱気を帯びていたが、全てが動きを止め、静寂が訪れる。
「…終わっちゃった」
美月がかすれた声でつぶやく。僕は応えることができなかった。頭の中では今の戦況がぐるぐると回っている。あと数秒…たった数秒あれば、僕たちは確実に勝てたはずだった。あの冷峰学園を、あと一歩のところまで間違いなく追い詰めていたんだ。
審判がフィールド確認し、判定の準備を始める。僕たちの周囲にも、徐々に観客や応援していた部員たちの声が響いてきた。「すごい試合だった」「本当に惜しかった」と、みんなが僕たちを讃えるように言ってくれている。それが逆に、僕の胸を締めつけた。
「この戦い、冷峰学園の勝利です」
審判の判定が下された瞬間、全てが現実として突きつけられた。ああ負けたんだ…僕たちは。
「…負けた」
その事実を、まだ信じられないまま口にする。フィールド全体を見渡しても、僕たちの方が攻めていたように思える。けれど、フィールドの状況による判定は、冷峰学園のわずかな優位を示していた。あと少し、ほんの数秒あれば僕たちは逆転していた。それなのに…
「悔しい…本当に悔しいよ」
美月が呟く。彼女の手は震えていた。僕も同じだった。悔しさが胸を締め付け、どうしようもない気持ちが湧き上がる。だが、同時に思った。僕たちはここまで来たんだ。あの冷峰学園と互角に渡り合い、あと一歩のところまで追い詰めた。僕たちの成長は確かだった。
「美月、俺たち、頑張ったよな」
振り返って彼女に声をかける。自分の声が少し震えていたことに気付いた。彼女も同じように、どこかぼんやりとした目で僕を見つめている。
「…うん、そうだね。でも、悔しい」
美月はその一言を最後に、急に顔を両手で覆い隠した。次の瞬間、彼女は大声で泣き出した。普段の明るく元気な彼女からは想像もつかないような、心からの嗚咽が聞こえてきた。
「美月…」
僕はどうしていいかわからず、ただその場に立ち尽くした。どうやって声をかければいいのか、何を言えば彼女のこの悔しさや悲しみを和らげることができるのか、全く思い浮かばなかった。ただ、負けた悔しさを分かち合って泣く彼女の姿に、僕は戸惑うばかりだった。
「瀬戸くん…」
美月が泣きながら僕の名前を呼ぶ。どうにかして彼女に寄り添いたいという気持ちが沸き上がったが、言葉が出てこない。ただそばにいるしかできない僕が、こんなにも無力だとは思わなかった。
「美月、よくやったよ。本当に」
かすれた声で、そう言うことしかできなかった。
彼女は涙に濡れた顔を少し上げ、僕の方を見る。涙で滲んだその瞳は、どこか寂しそうで、それでも僕に笑顔を向けようとしているのがわかった。僕たちはこの試合を通じて、何かが変わった。勝てなかった悔しさもあったが、それ以上にお互いに対する信頼感が生まれた。
試合には負けたけど、僕の心の中にはこれまでに感じたことのない達成感が広がっていた。これが本当の意味での成長なのかもしれない。美月も同じだろう。今は涙で顔がぐちゃぐちゃになっているけれど、彼女もきっとこの試合を通じて何かを掴んだはずだ。
僕たちは言葉を交わさず、しばらくの間ただ一緒に立っていた。周囲の歓声や声援が徐々に遠のいていく中で、僕たち二人の間に静かな絆が生まれたのを感じた。美月はもう少し泣き続けるだろう。その間、僕はただ彼女のそばにいる。勝ち負けを超えた何かが、僕たちの間にあると信じて。
次の試合も、きっと一緒に戦うだろう。僕たちがさらに強くなれることを信じて。




