#5-7
冷峰学園の猛攻をどうにかかわしつつ、僕たちは必死で立て直そうとしていた。しかし、相手の実力は圧倒的。普通に戦っていては勝ち目がない。美月も焦っているし、部員たちの応援もさっきまでの勢いを失いつつある。
そんな時、頭の片隅にふと浮かんだのは、まさかの奇策だった。
「いや、待てよ、そんなこと本当にやるのか?」
僕は自問自答しながらも、冷静な戦術で勝てる見込みがない以上、何か奇抜なことをして流れを変えるしかない。自分の中で覚悟を決めた。
「よし…やるか」
僕は深呼吸をしてから、いきなりその場で大きな声をあげながら、猿の動きを再現し始めた。ぐるぐると腕を振り回し、体を前後に揺らしながら、口を開けて「ウキッ、ウキッ!」と叫ぶ。まるで動物園の猿そのものだ。
突然の僕の行動に、冷峰学園の選手たちは一瞬動きを止め、僕をじっと見つめている。相手はきっと、何が起きたのか理解できずにポカンとしているはずだ。
「…何これ?」
彼らの顔には驚きと困惑がはっきりと浮かんでいた。観客席からもざわめきが広がり、部員たちも一斉に僕を見つめている。まるで時間が止まったかのような静寂が広がった。
一瞬の沈黙の後、それを破ったのは美月だった。彼女は僕の奇行を見て、急に笑い声を上げた。最初はクスクス笑いだったが、次第にそれは大爆笑に変わった。
「瀬戸くん! ほんとにそれやっちゃうんだ! 面白すぎ!」
美月はもう止まらないくらい笑い続けている。その笑顔を見て、僕も緊張が一気にほぐれた。美月がこれだけ楽しんでくれるなら、もう何でもいいんじゃないか、と思うくらいだった。
「ウキッ! ウキッ!」
僕はもう一度猿の動きを繰り返してみせた。すると、美月はさらに笑い転げ、ついに試合中であることを完全に忘れている様子だ。
「もう、瀬戸くん、面白すぎだって!もうお腹痛い」
美月が言葉を挟むたびに笑い声が続く。
その瞬間、僕たちの雰囲気は完全に変わった。笑いの中で美月も落ち着きを取り戻し、緊張感が嘘のように消えていった。僕も自然と肩の力が抜けて、冷静にゲームに集中できるようになっていた。
「よし、美月、行こう。楽しんだもん勝ちだろ?」
僕は美月に笑いながら声をかけた。
「そうだね、楽しんだもん勝ち!」
美月は涙を拭いながら、元気よく返してくれた。
それから、僕たちは再び連携を取り始めた。今度は、さっきまでのように焦りや不安は一切ない。むしろ、楽しんでプレイしている。冷峰学園の選手たちも、僕の猿のモノマネに驚きこそしたものの、次第に彼らもペースを取り戻そうと攻撃を再開してきた。
だが、僕たちも一気に連携が噛み合い始めた。美月は笑顔を浮かべながら、僕と呼吸を合わせて動き、次々と相手の攻撃をかわしていく。
「よし、美月、次はこっちだ!」
僕は冷静に指示を出し、美月も素早くそれに応じる。お互いの動きがぴったりと合い、少しずつ相手のリズムを崩していく。
冷峰学園の選手たちは、再び僕たちにペースを握られたことに戸惑っているようだった。今まで圧倒的に優位に立っていたはずが、徐々に形勢が逆転しつつあることに気づいたのだろう。
「これなら行けるかも…!」
僕は心の中で確信を持ち始めた。相手の動きが鈍ってきている。僕たちの勢いがこのまま続けば、逆転も不可能じゃない。
「瀬戸くん、もうちょっとだよ! 最後までいこう!」
美月が楽しそうに声を上げた。彼女も完全にリラックスしている。二人の息が合えば、僕たちはどんな相手でも倒せる、そんな気持ちになっていた。
最後の一手を決めるべく、僕は今まで温めていた作戦に取り掛かった。「瀬戸スペシャル改」を繰り出す時が来たのだ。
「美月、準備して! 行くよ!」
僕は笑顔で彼女に声をかけ、次の動きに全力を注ぐ。そして、ついに試合の流れが僕たちのものになり始めた。




