#5-5
1回戦の熱気がようやく落ち着き、次の試合まで少しの間休息が取れることになった。他の試合はまだ進行中で、僕たちは次の2回戦の開始を待つばかりだ。
「瀬戸くん、次どうする?」
美月が目を輝かせながら僕に話しかけてきた。さっきまでの興奮がまだ冷めやらぬ様子で、息を整える間もなく次の戦術を考え始めている。
「うーん、相手は全国準優勝のペアだし、普通に戦ったらこっちが不利だよな。相手の動きをよく見て、それに合わせて臨機応変に対応していかないと…」
僕は頭の中でいろいろなシナリオを思い描きながら、慎重に言葉を選んでいた。
「でもさ、それってあんまり相手のことを考えすぎると、私たちの動きが鈍くなっちゃうんじゃない?」
美月は軽く首をかしげながら、肩の力を抜いたように言った。僕が深刻に悩んでいる間、彼女は一歩引いて冷静に状況を見ている。
「確かに、相手にばっかり意識を向けてると、自分たちの良さが出せなくなるかもな…」
僕は少し考え込み、ため息をついた。頭の中では緻密な戦術を考えるのが常だが、美月の言う通り、あまり相手を意識しすぎるのもよくない。僕たちは僕たちなりに、楽しむことを忘れてはいけないのかもしれない。
「結論、楽しんだもん勝ちだよ!」
美月が突然、大きな声で笑い出した。あまりのテンションの差に、僕は一瞬驚いたが、その元気さに引き込まれてつい笑顔がこぼれた。
「いや、確かにそうかもしれないけどさ…そんなに簡単に割り切れるか?」
僕は苦笑いしながらも、美月の気楽さが羨ましかった。
「それにね、瀬戸くん、今日はなんだか顔がちょっと怖いよ?」
美月は僕の顔を覗き込みながら、いたずらっぽく笑う。
「えっ、そんなに緊張してるか?」
僕は思わず顔に手を当てて確認してしまった。確かに、さっきまでの試合でかなり気を張っていたから、表情が硬くなっているかもしれない。
「うん、だからさ、笑わないとダメだよ! 楽しむためにはまず笑顔からってね!」
美月は僕の顔をじっと見つめたまま、ニヤリと笑った。
「笑顔って…そう簡単に言うけどさ…」
僕は戸惑いつつ、なんとか力を抜こうと試みるが、なかなかうまくいかない。何しろ、今目の前には全国準優勝のペアが待っているのだ。そんな簡単に笑顔になれるわけがない。
「よし、じゃあさ、何か面白いこと言ってみてよ!」
突然の美月からの無茶振りに、僕は完全に固まってしまった。
「えっ、面白いことって…そんな無理だろ!」
僕は焦りながら言い返したが、美月は全く動じない。
「何でもいいよ! とにかく、ちょっとでも笑えること言ってよ! ほら、今すぐに!」
彼女は相変わらず明るく、僕にさらなるプレッシャーをかけてくる。僕は頭の中で急いで面白いネタを探すが、こんな状況で即興で何かを思いつくなんて至難の業だ。
「えーっと…うーん…」
僕はなんとか考えようとするが、焦るばかりで言葉が出てこない。どうにかこの場を切り抜けるために、少しずつ言葉を紡ぎ出す。
「えーっと、じゃあ…こんな感じでどうだ?」
僕は少し照れながら、思いきって言葉を放った。
「この緊張感の中、たとえば…あれだ、試合の最中に突然モノマネ始めるとか?」
「モノマネ? どんなの?」
美月は目を輝かせて興味津々に聞いてくる。
「いや、まあ、例えば…そうだな、サルの鳴き声とか? ウキーッとか言って、相手の意表を突く…みたいな?」
言っている自分でも何を言っているのかわからなくなりつつ、僕はもう笑うしかなかった。
すると、美月は一瞬ぽかんとした後、急に大笑いを始めた。
「瀬戸くん、それ最高! ウキーッって、まさかのサルの鳴き声って!」
彼女の笑い声につられて、僕もようやく笑うことができた。緊張で固まっていた体が、一気にほぐれていくのがわかった。
「まさかこんなこと言うとは思ってなかったけど、確かにおもしろいかもな…」
僕は苦笑いしながらも、少しだけ気が楽になった。
「でしょ? やっぱり笑わなきゃ!」
美月は満足げに頷きながら言った。
「そうだな、ありがとう、少しリラックスできたよ」
僕は心の底から感謝しながら、もう一度深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
次の戦いも、僕たちならきっと乗り越えられるはずだ。そう思いながら、美月と一緒に再び戦術の打ち合わせを続けたが、僕の心の中にはもう不安はなかった。




