#5-4
「行くぞ、今だ!」
僕の声が響くと同時に、美月が資源を集中管理し、僕が前線に飛び出す。これが僕たちの奇策、瀬戸スペシャルだ。通常なら、前線と後方の役割を分けて相手と対峙するのがセオリーだが、僕たちはそれをあえて逆転させた。美月が資源を管理し、僕が前線に出て混乱を引き起こすという大胆な作戦。
「瀬戸くん、本当にやるんだね!」
美月が笑いながら後方で指示を飛ばしてくる。彼女はまったく動揺していない。むしろ楽しんでいる様子に、僕も少しずつ肩の力が抜けていった。
「そうさ、もうやるしかないだろ!」
僕は半ば開き直りながら、前線で相手の動きを見極めた。これまでの練習では、僕がリソース管理を担当していたが、今回はそれをすべて美月に任せる。彼女の得意分野だからこそ、この賭けが成立する。
相手は明らかに戸惑っている。通常なら僕たちのようなペアは前線と後方で明確に役割を分担するものだが、僕たちの奇襲は相手の予測を完全に裏切った。
「えっ、あいつ、前に出てきてるぞ!」
「後ろはどうなってるんだ…?」
相手ペアが混乱し、立て直しを図る間に、僕はさらに前進。ここで勝負をかけるしかない。リソース管理を完璧にこなしている美月のおかげで、僕は安心して動ける。
「瀬戸くん、いい感じだよ! あと少し!」
美月の元気な声が、僕にさらなる力を与える。
「よし、ここだ!」
相手が焦り始めたのを見て、僕は一気に前進し、相手のリソースを奪い取る。そして美月がタイミングよく後方支援を加え、僕たちの有利な状況が整ってきた。
「やった、これでいける!」
残り時間が少なくなってきた。相手は徐々に追い詰められていく。だが、僕の心臓はまだドキドキしていた。これまでミスを連発していたせいで、最後まで油断できない。
「瀬戸くん、あとは仕上げるだけだよ!」
美月が後方から再び声をかけてくる。その言葉に背中を押されるように、僕は最後の力を振り絞り、相手ペアに決定的な一撃を加える。
「これで…決まりだ!」
相手のリソースが尽き、僕たちは見事な逆転勝ちを収めた。ホイッスルが鳴り響き、試合終了の合図が会場に響き渡る。
「勝った…勝ったぞ!」
僕は歓喜の声を上げ、思わずその場にしゃがみ込んだ。全身が一気に緊張から解放され、力が抜けるのが分かる。
「瀬戸くん、やったね! 逆転勝ちだよ!」
美月が笑顔で駆け寄ってくる。彼女の明るい声が、今度はより一層輝いて聞こえる。
「う、うん…ほんとに勝ったんだ…」
僕はまだ信じられない思いで、立ち上がり彼女の顔を見た。彼女の笑顔に、僕もつられて笑ってしまった。緊張でガチガチだった僕を、ここまで引っ張ってきてくれた美月の存在が改めて大きく感じられた。
「まさか、本当に瀬戸スペシャルが決まるとはね」
「まさかだよ。僕たち、奇跡的にうまくいったけど…本当、練習しててよかったな」
「うん、私たち、最高のペアだね!でも瀬戸スペシャルって名前はやっぱり変だよ」
美月は最高の笑顔を見せながら瀬戸スペシャルを否定してくる。でも今はそれも何故か気持ちいい。
「お前ら! すごかったぞ!」
先輩が駆け寄ってきて、僕たちの肩を叩いた。他の部員たちも続いて近寄り、次々に声をかけてくれる。
「みんなが負けた後、お前らだけが最後の希望だったんだぞ! よくやった!」
先輩の言葉に僕は少し照れながらも、胸を張って答えた。
「ありがとうございます。でも、まだ次があるんです。次は…あの全国準優勝のペアと…」
一瞬、そのことを思い出して気が重くなったが、美月がすかさず元気よく言った。
「そうだよ! 次はもっとすごい試合が待ってるんだから、ここで休んでる場合じゃないね!」
その言葉に僕も気持ちが引き締まる。次はあの強豪ペアとの戦いだ。さっきの勝利で少し自信がついたけれど、今度はさらに手強い相手が待っている。
「そうだな、次も頑張ろう!」
僕たちは部員たちの応援を受けながら、次の試合に向けて気持ちを新たにした。勝利の喜びも束の間、これからさらに厳しい戦いが待っている。
「瀬戸くん、次も厨二臭漂わせて瀬戸スペシャルやっちゃおうか?」
美月が冗談混じりに笑いながら言う。
「いやいや、もうそれはやめよう。次はもっと慎重にいくよ…」
僕は苦笑しながら答えた。あのペアは今の戦いを見ていたに違いない。同じことは繰り返したらそれは奇策でもなんでもなく簡単に対応されてしまうだろう。でも美月と一緒なら、どんな強敵でも乗り越えられる気がしてきている。次の試合だってきっと…




