#5-3
「瀬戸くん、準備はいい?」
美月の楽しげな声が、今にも爆発しそうな僕の緊張感を少し和らげた。彼女はまるでピクニックにでも行くかのようにリラックスしている。対照的に、僕の手は冷たく汗ばんでいた。
「…うん、たぶん」
僕はそう答えたが、心の中はぐちゃぐちゃだった。いよいよ始まる初めての大会、そして初戦だ。これまで何度も練習を重ねてきたが、やはり本番は違う。緊張が押し寄せてきて、頭が真っ白になる感覚に襲われる。
ホイッスルが鳴り響き、試合が始まった。僕はリーダー的に役割分担を確認することを優先したが、足が地に着かず、動きがぎこちない。
「瀬戸くん、前に出るよ!」
美月の明るい声が響く。彼女はすでにゲームに夢中だ。一方で僕は、初めての公式試合というプレッシャーから逃れられず、動きが硬い。
「ま、前に出るって…? ど、どうやって?」
焦って考えた瞬間、ミスを連発してしまった。操作ミスでリソース管理に失敗し、適切なタイミングで行動できずに美月のフォローもままならない。試合序盤で立て直しを図ろうとするが、さらなるミスが続く。
「…う、嘘だろ」
僕は額に汗を浮かべ、頭を抱えた。普通ではあり得ないミスを連発してしまっている。リソースが一気に失われ、戦略が崩れていくのが目に見えてわかる。周りで応援している部員たちの声も、どこか遠くに感じられた。
「大丈夫!まだ始まったばかりだよ!」
美月はそんな僕に対して変わらず明るい。彼女は試合の展開を楽しんでいるようにすら見える。
「瀬戸! 桐島! まだ行けるぞ!」
観客席から大声で応援しているのは、部長や佐藤先輩たち敗退した部員たちだ。他の全員が敗退したこともあり、僕たちへの応援はまさに熱狂的だった。
「頼むぞ! お前らが最後の希望だ!」
その声に心が震えると同時に、僕はますます焦り始める。彼らの期待が重くのしかかり、再び手が震える。
「くそっ、こんなミスばかりじゃ…」
だが、僕が自己嫌悪に陥りかけたその時、ふと美月の声が再び耳に入った。
「瀬戸くん、楽しもうよ! まだこれからじゃん!」
振り返ると、美月はまるで試合そのものをゲーム感覚で楽しんでいるようだった。彼女の表情には全く緊張の色が見えない。むしろ、彼女にとってこの試合は遊びそのもの。対戦相手がどう動こうと、彼女は一貫してリラックスし、僕の動きを待っている。
「…楽しむ、か」
美月の無邪気な笑顔に、僕は少しだけ力が抜けた。確かに、彼女の言う通りだ。緊張してミスを恐れてばかりいては、何もできない。もっと肩の力を抜いて楽しんでみよう、そう思った。
「…そうだな、楽しもう!」
僕は自分に言い聞かせるように声を出し、美月に答えた。そして、次の瞬間、頭の中に一つのアイデアが閃いた。
「美月、これしかない。瀬戸スペシャルだ!」
「えっ、瀬戸くん、それ本当にやるの? すごく突拍子もないけど!」
美月が笑いながら答えた。瀬戸スペシャル、それは練習の中で一度だけ試したことのある、僕たちの秘密の戦法だ。リスクは大きいが、成功すれば一気に逆転できる可能性がある。
「うん、やるしかない。このままじゃ負ける」
僕は覚悟を決めた。試合の残り時間も少なくなってきている。このままじりじりと追い詰められるより、賭けに出た方がマシだ。
「よし! じゃあ、やっちゃおう!」
美月の元気な声が、僕に再び勇気を与えた。僕たちは目配せをし、瀬戸スペシャルを決行するタイミングを見計らうことにした。
だが、その瞬間、相手が突然攻勢を強めてきた。焦る気持ちが再び押し寄せる。果たして、この作戦は成功するのだろうか…?




