#4-12
大会を目前に控えたある朝、僕はいつもよりも早く目を覚ました。いや、正確に言えば緊張でほとんど眠れなかっただけなんだけど。それでも、「いよいよだな…」という思いが頭の中でぐるぐると回っていた。
ベッドに寝転がりながら天井を見上げる。大会のことを考えれば考えるほど、不安がどんどん大きくなっていく。これまで美月と何度も練習を重ねてきたけど、やっぱりあの全国準優勝校との対戦を想像すると、胃がキリキリ痛む。
「僕なんかが、勝てるのか…?」
そうつぶやいた瞬間、スマホがブーブーと震えた。画面を見ると、美月からのメッセージが届いている。
「おーい!ちゃんと起きてる?大会前に逃げないでねっ♪」
僕は思わずため息をついた。さすが美月、朝から元気いっぱいだ。緊張してるのは僕だけみたいで、彼女はいつも通り余裕の表情をしているのが目に浮かぶ。
「逃げてないよ。でも正直、かなり緊張してる」
そう返信すると、すぐにまたメッセージが届いた。
「大丈夫!失敗したらその時笑えばいいじゃん!楽しまなきゃ損だよ~」
…楽しめばいい、か。彼女の言葉に救われたような気がした。そうだ、緊張してばかりじゃ何も始まらない。美月みたいに肩の力を抜いていく方がうまくいくのかもしれない。
「よし、覚悟を決めるか」
僕は心の中でつぶやいて、布団を蹴飛ばして起き上がった。まだ胃の中がモヤモヤしているけれど、少しずつ気持ちが前向きになっていくのを感じる。
朝練に合わせて家を出ると、やはりいつものように美月がそこにいた。彼女は相変わらず元気に腕を振りながらやってきた。
「瀬戸くん、顔色悪いよ!お化けみたい!」
「それはさすがにひどくない…?」
僕は美月に指摘されて、スマホのカメラで確認をする。確かに少し青白い。緊張で顔色まで悪くなってしまっているらしい。
「もう、そんな顔してたら負けちゃうよ!笑顔笑顔!」
美月はそう言って、僕の頬を両手でむぎゅっと引っ張る。強引に笑顔を作らせようとしているのが、何とも…。
「無理に笑わせようとしなくていいって…!」
「だって、楽しくないと負けちゃうじゃん?瀬戸くんはいつも考えすぎなの。もっとリラックスして!」
美月の無邪気な笑顔に、少しだけ肩の力が抜ける。確かに、僕はいつも慎重に物事を考えすぎる傾向があるかもしれない。それに比べて美月は、いつも明るくて前向きだ。彼女のおかげで、僕も少しずつ自分に自信が持てるようになってきた。
「分かった、なるべくリラックスして楽しむよ」
「そうそう、それでこそ瀬戸くんだよ!さぁ、もう一回シミュレーションしよ!」
僕たちは学校に着き、何度か対戦のシミュレーションを行った。何度も失敗しながらも、息を合わせてプレイすることが少しずつできるようになってきた。大会直前の緊張感の中でも、僕たちは笑い合いながら練習を続けた。
その日の夕方、部員全員が集まってミーティングを開いた。いよいよ大会前の最後の作戦会議だ。部室にはみんなの緊張が漂っていて、空気が少し張り詰めている。
「みんな、ついに大会が明日だ。準備は万全だな?」
部長が真剣な顔つきで話を始めた。彼もいつも以上に張り詰めた表情をしている。だけど、僕はもう不安はそれほど感じていなかった。美月の元気さに影響されて、少しずつ覚悟が決まってきたんだ。
「準優勝校との対戦は避けられないけど、俺たちは俺たちの戦い方をすればいい」
部長がそう言うと、今度は美月が部室の真ん中に立ち上がった。
「みんな、怖がらないで!大会を楽しもうよ!失敗しても、それを笑い飛ばせば勝ちなんだから!」
その言葉に、部員たちの顔に少しずつ笑顔が戻っていく。緊張していた空気が少しずつ和らぎ、みんなで一緒に笑うことができた。
「そうだな、失敗しても大丈夫。僕たちなら乗り越えられるよ!」
僕も美月に続いて声を上げた。すると、仲間たちからも「そうだ!」という声が上がり、部全体が一体感を感じられるようになった。




