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放課後サバイバルゲーム  作者: 柊れい
強引な勧誘
3/49

#1-3


その次の放課後、僕はいつも通り帰ろうとしていた。けれど、なぜか足が勝手にボードゲーム部の方へ向かっている。いや、向かっているというより、完全に引きずられている。


「ね、もう一度だけやろうよ!今日で最後って約束するから!」


またもや桐島が僕の腕を掴んで、笑顔で引っ張っている。昨日までの強引な勧誘が頭をよぎり、僕は内心ため息をついた。彼女の「今日で最後」は絶対に信じてはいけない言葉だと、既に気づいている。


「最後って本当に最後?」


「うん、ほんとほんと!」


彼女は大きく頷いているが、昨日も同じことを言っていた。けれど、僕は結局断りきれずにまたもや彼女について行くことになる。なんで僕がこんな目に…と思いながら、ボードゲーム部の部室に足を踏み入れた。



「瀬戸くん、今日こそ本気でやってみない?」


桐島が嬉しそうに言いながら、机の上に広げたボードゲームの箱を手に取る。どうやら今日のゲームは、昨日よりも少しだけ難易度が高いらしい。いや、それどころか、ルールが説明されるたびに僕の頭は混乱していく。


「今回はね、他のプレイヤーとの交渉が鍵になるんだ。資源をうまく交換しながら、自分の領土を広げていくんだよ」


「交渉って…どうやるんだ?」


「簡単だよ!相手に有利な条件を提示して、協力してもらうの。ほら、こうやって…」


桐島は自分の駒を指し示しながら、実際に交渉のやり方を見せてくれる。彼女のテンションに合わせるように、周りの部員たちも盛り上がっている。


「じゃあ、瀬戸くんもやってみて!」


「え、いや…」


正直、全くついていけていない僕にとって、このゲームは完全に未知の領域だ。交渉なんて、僕の日常生活ではほとんど縁のないものだし、そもそも駒の動かし方すらまだ曖昧なままだ。


「でもさ、瀬戸くんってそういう駆け引き、意外と得意そうだよね!」


「いや、そんなことないけど」


「うん、絶対にできると思う!試してみて!」


桐島の目はキラキラと輝いていて、僕に拒否権はない。どうやら彼女の中では、僕はすでに交渉の達人になっているらしい。仕方なく、僕は他のプレイヤーと交渉を始める。


「えっと…この資源を君にあげるから、こっちの領土を譲ってくれない?」


僕はぎこちなく提案してみた。しかし、返ってきたのは予想外の冷たい反応だった。


「いや、それはちょっと厳しいかな」


まさかの断られた。桐島の勧めに従ってやってみたものの、全然上手くいかない。それでも、桐島は諦める様子もなく、さらにアドバイスをくれる。


「もう少し強気に出た方がいいかも!自信を持って提案してみて!」


「自信って…そんな簡単に持てないよ」


でも、彼女は全く気にしていないようだ。僕の不安なんてどこ吹く風という感じで、笑顔で次々と提案を繰り出す。


「じゃあ、こうしよう!瀬戸くんが勝ったら、今度は私が全力で手伝ってあげる!それなら負けても楽しいでしょ?」


なんだか良く分からないけれど、彼女の勢いに巻き込まれて、僕は次々とゲームに没頭していった。そして、気づけばゲームの半ばを過ぎ、僕はなんとか形にはなってきていた。


「おお、瀬戸くん、すごいじゃん!順調に領土広げてる!」


桐島が目を輝かせながら僕を褒めてくれる。それが少し嬉しかったのも事実だ。僕はこのまま順調に進めば、もしかしたら勝てるんじゃないか、なんて淡い期待を抱き始めていた。



「…というわけで、最後の交渉に入るけど、どうする?」


ゲームが終盤に差し掛かり、僕は最後の決断を迫られていた。僕が勝てば、桐島の提案通り彼女が全力でサポートしてくれる。でも、もし負けたら…


「勝てば楽しいって言ってたよね?」


「うん!だから、ここで勝って入部しちゃおうよ!」


…え?入部?


「え、いや、僕まだ入部するつもりは…」


「でも、ほら、今日ここまで頑張ったし、このまま続けたらもっと楽しくなるよ!ね、入部しちゃおうよ!」


彼女はにっこりと微笑み、僕の返事を待っている。まさか、このゲームに勝ったら入部しなければならないというルールがあったとは知らなかった。いや、そんなルールは絶対にないはずだ。


「でも…」


「もう、ここまで来たら一緒にやるしかないでしょ?みんなも期待してるしさ!」


周りの部員たちも笑顔で僕を見つめている。これは完全に逃げられない状況だ。まさかこんな形で僕が入部することになるとは…


「…わかったよ、入部する」


そう言った瞬間、桐島が満面の笑みを浮かべて僕の手を握りしめた。


「やったー!これで瀬戸くんもボードゲーム部の一員だね!」


僕は完全に彼女に乗せられてしまったんだろう。だけど、なんだか少し悪くない気分になっている自分がいた。

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