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最後の男

作者: 雉白書屋

 殺風景な部屋。床に膝をついた彼の荒い呼吸は、その口から出た唸り声に上書きされ、そして咆哮へと変わった。それは汚言を交えて、しばらくの間続いた。

 誰も彼を咎めようとはしなかった。ここには誰もいない。彼は一人だった。そう、この地下シェルターに一人きり。いや、違う。彼はこの地上に一人きりなのだ。彼もそれを理解したから、こうして嘆いているのだ。もっとも、以前からそうなんじゃないかとは思っていた。いくら通信機に呼び掛けても応答はなく、外の環境は生物が、少なくとも人間が生存できるレベルにはない。核戦争により汚染された地上には……。

 

「まさか、こんな終わり方とは……」


 彼はそう、力なく呟いた。こんな終わり方。映画などの創作の世界で飽きるほど想像されていた、人類の終焉。そして、自分がこんな終わり方をするとはという意味でそう言った。

 自殺。膝を折り、床に座り込んだ彼は自分のこめかみに銃を突きつけた。

 一人だ……一人。泣きも笑いも発見も、何もかも一人だ。こんな世界にこれ以上居たくはない。

 他の場所に行きたい……。だから彼は死後の世界を求めた。目を閉じ、その世界を想像すると、温かさが胸の内から肌へ広がっていくようだった。

 彼の瞳から熱い涙が零れ、頬を撫でた。その温度が冷める前に彼は引き金を引いた。



「…………お、おぉ、おぉぉぉ!」


 彼が瞼を開いた先に広がっていたのは、彼が望んだ世界だった。

 陽光に包まれた春の大地。彼が流す涙のような雪解け水が小川に流れ込み、蝶と共に薄着で駆け回る人々の姿があった。

 彼は立ち上がり、人々のもとへ駆け出す。ここは天国。彼の望みはようやく叶ったのだ。


 


 ――違う……違う違う違う!


 目を覚ました彼は、あの孤独な世界が夢であり、そしてその後に見た春の世界も夢で、ただの場面転換だったと知った。

 今、目を覚ました理由は、夢の中とはいえ自殺したことにより生じた強いストレスのせいか、それとも望むものが手に入る直前でそうはならないという夢の特性か、あるいは機械トラブルか。

 コールドスリープ装置の中で、一人目覚めた彼は助けを求めたが、その声は呼吸マスクとカプセルの内壁に阻まれた。

 いくら叫ぼうとも、彼の声は誰の耳にも届かない。地上から核の汚染が消えることを夢見て、皆まだ冬眠中なのだから。

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