ただ女の子にモテたいだけなんだ
「芝ちゃん〜」
学校の休み時間、林檎は助けを求めるようにしがみついた。
「なんだよ、気持ちわりぃ。さわんな」
「中学生のヤンキーたちに目をつけられちゃった」
「ははっ、自業自得だろ。イエロードラゴンに手ぇ出すから」
緑野は足を机の上に乗せて、イスをガクガクさせながら言った。
「助けてよ〜」
「知らねー。第一いま無事じゃん、なんとかなったんだろ? 気にすることなくね?」
「気にするよ、もう街中歩けない。本当は全部芝ちゃんがやったってことにしてよ」
「やだね。それにもう俺も目つけられてるしな」
「はぁー。億劫」
「まっ、なんとかなるさ」
「今度から合意をとってから暴力振るお」
「それがいい」
遠くからまた女子が林檎たちを見ている。林檎は被害妄想で『あいつらもイエロードラゴン!?』と警戒しはじめた。
掃除の時間になり、林檎はひとり外に出てひとけのない用具入れの前に行った。中からホウキを取り出した。
「ねぇ」
林檎はビクッとなった。恐る恐る声のする方に振り返るとそこにはいつもの三人組の一人、高野さんがいた。
高圧的で口も悪く態度も大きいが胸は小学生にしては発育がいい。
しかも顔もかわいいときたもんだから、男からは絶大な人気がある一方で女子には『生意気』と陰口を叩かれていたことがあったのを林檎は聞いたことがある。
「なんでしょう」
「ちょっとこっちきて」
「?」
言われるがままついていくと体育館裏にやってきた。
雑草が好き放題伸びている。地面には植物の中になにやら茶色のものがある。
高野は茶色のものの前にいくとそこに座った。
「こっちきて」
ついていくと茶色のものの正体はダンボールで中を見ると小さな子猫がいた。
「あっねこだ。小さくてかわいいな」
林檎はダンボールの前でかがんだ。高野も後ろでかがんだ。
高野の二の腕と肩のあたりが、林檎の背中あたりにあたっている!
『高野さん、いつも冷たい言葉ばかりだけど、体はこんなに柔らかくて温かいんだ』となんだか優しい気持ちになった。顔もちかくて高野の息遣いが聞こえる。
「この子、どう思う?」
「かわいい」
「だよね。飼ってみたいと思わない?」
なるほど、そういうことか。この子猫の飼い主を探しているようだ。
「んー。でもうちは母親がなんでもお金ないって否定してくるからなー、飼いたいなんていっても聞いてもらえないよ」
「そっか、ありがと、つきあってくれて」
そういうと高野は立ち上がった。
「うん、やっぱりあたしがなんとかしないと・・・」
高野は小さな声でつぶやいた。
「ごめんね、ちからになれなくて」
とくに高野からの返事はなく、すたこらどこかに行ってしまった。
自分勝手なやつ、でもそこがいい。
本当は面倒な事は嫌だった。
平和に女の子のお尻を追っかけていられたら、林檎はそれでいいのだ。
公園では3人組にいいところを見せたい一心で池に向かった。
女の子を追いかける緑野がうらやましかった。
3人組の一人、高野さんはツンツンだけどそこがなんだか母性的に感じる。
猫をほっとけないのも、らしいなと感じた。
女が好きだ、林檎は心からそう思う。
モテるためにがんばるのは別にいやらしいことでもないし、動機として十分過ぎると思ったのだった。
次の日、高野さんは学校にこなかった。
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