↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲くこころ  作者: えーあいキッズ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/16

デートの約束

休み時間の廊下が、一瞬で静まり返った。


次の授業へ向かうはずだった生徒たちが、あからさまに歩調を緩めてこちらを見ている。教室の中からは、葵が口元を押さえて肩を震わせているのが見えた。


顔が熱い。


「デートって……私、君のこと全然知らないし、急にそんな事言われても、困るな」


なんとかそれだけ絞り出した。

断る理由としては、たぶん一番まっとうなはずだった。知らない相手と出かける義理なんて、どこにもない。


でも彼女は、その言葉を待っていたみたいに顔を上げた。


「知らないからこそです! 美咲先輩の行く場所に付いていくだけでも構わないです。お願いします! 私とデートしてください!」


私は言葉に詰まった。


理屈が通っていない。まったく通っていないのに、なぜか反論が思いつかない。

知らないから断る、と言った私に、知らないからこそだと返してくる。そんな返し方をされたのは生まれて初めてだった。


彼女は深々と頭を下げたまま、動かない。

ポニーテールの毛先が、微かに震えている。


廊下の視線が痛い。

このまま押し問答を続けたら、明日にはもっと大きな噂になっている。


「わかった、わかったから。私、今日シモキタ行こうと思ってたから、付いて来てもいいよ」


「え、ホントですか! ありがとうございます! じゃあまた、放課後!」


彼女は跳ねるように顔を上げると、そのまま脱兎のごとく階段のほうへ駆けていった。

上履きが床を叩く音が、遠ざかっていく。


呆然と立ち尽くしていると、背後から拍手が聞こえた。


「やっぱり、美咲さんは押しに弱いですね。グイグイこられると断れないから~」


「あー、なんでこんなことになっちゃったかな……」


私は壁に背中を預けて、天井を仰いだ。


---


「いいじゃんか! 美咲、スラっとして男の子みたいだし、女の子にモテても仕方ないよね!」


「どういうこと? バカにしてるよね!」


「してませーん!」


葵はけらけらと笑いながら、私の隣に並んで歩き出した。


からかわれているのは分かっている。でも、こういう軽口を叩き合っている時間だけは、私にとって一番安心できるものだった。


教室に戻るまでの、ほんの十歩ほどの距離を並んで歩く。


「はぁ……でも、どうして私なんだろう? 彼女も私のことあまり知らないだろうし。葵みたいに人と話すのも上手くないし、友達も少ないし。なんでなんだろう」


半分は独り言のつもりだった。


私のことよく知らないで"好き"なんて勝手じゃないか。その"好き"は偽物ではないか。でも、さっき見た彼女の瞳は真っ直ぐで美しくみえた。


あの目を思い出すと、うまく切り捨てられない。

軽い気持ちの子が、あんな目をするだろうか。


「そんなことないよ! 美咲は隣で歩いているだけで目立つし……美咲は自分を卑下しすぎだよ」


「え?」


顔を横に向けると、葵は前を向いたまま歩いていた。

その横顔から、さっきまでの笑いが消えている。


「だから、自分のこと下げるようなこと言わないで」


低い、はっきりとした声だった。


冗談を返す隙間がどこにもなかった。

たかが自虐に、どうしてこんな顔をするのか、私にはさっぱり分からない。


「わかったよ。気をつける」


「うん」


葵はそれきり何も言わず、自分の席に戻って次の教科書を出し始めた。

こちらを振り返った時にはもう、いつもの葵の顔に戻っていた。


---


なんだかモヤモヤする。授業中、あの真っ直ぐな瞳と葵の言葉が頭を離れず集中できなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。