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悪いサンタのクリスマス

作者: 吉川明人

「そんなにイタズラばかりしていると、今年はサンタクロースからプレゼントもらえないぞ」


 ヨーロッパのある町で、今日もアラン少年は両親に叱られていました。


「へへーん。サンタなんていないよ! あんなの、聖ニコラオスって人がお金をくばったのが始まりだろ。

 それに赤い服だって、飲み物の宣伝に使われたのが定着しただけだもん」


 だけどアランはいつもどおり口答えばかりで、ちっとも反省しません。


「ああ、サンタなんておらん。

 じゃがそのかわり、悪いサンタが来るかもしれんぞ」


 いつもは何も言わずにニコニコしているおじいちゃんが言いました。


「なんだよ、悪いサンタって?」


 アランがすぐに携帯で検索すると、実はサンタは双子で、一人はよく知っている赤い服のサンタ、もう一人は黒と茶色の服を着た、クランプスと呼ばれる悪い子にお仕置きする怪人と書いてあった。


「へへーんだ。だいたいサンタがいないのに、悪いサンタなんているはずないじゃないか」


 そう言うと、おじいちゃんは眉間に深いシワを寄せて首を左右に振ります。


「ワシが子どものころ、一度だけ悪いサンタからプレゼントをもらった者がおる。

 パン屋のハンスのやつじゃが、あれ以来、ピタッとイタズラをやめおったな」


「本当ですか?

 私はハンスおじさんによくお世話になりましたよ」


 お父さんが意外そうに尋ねると、おじいちゃんはこわい顔から笑顔に変わります。


「ホッホッホ。よっぽど懲りたんじゃろうな」


「どんなプレゼントだったの?」


 アランが尋ねると、おじいちゃんは答えました。


「ハンスのやつ、結局なんだったのか教えよらんかったから、ワシも正しくは知らん。

 じゃが、その年のクリスマスに世界中で二人しか貰えない、とんでもないものと言うておった」


「二人だけ? いったいなんだろう」


 しばらく考えていたアランでしたが、そんなことはすぐに忘れて、また毎日イタズラをして周囲の人たちに迷惑をかけるのでした。






 クリスマスイブの夜。


 夕方から降りはじめた雪は、窓の外で静かに静かに石畳の街を塗りつぶしていきます。


 この日だけはアランもいい子ですごし、家族とパーティーを楽しんだあと、疲れてぐっすりと眠ってしまいました。


 両親はそっとアランの頬にキスをして、また明日も元気な笑顔を見せておくれと、枕元にぶら下げられたくつ下に、自動車のおもちゃを入れます。




 次の日の朝。




 アランはずいぶんと早く目が覚めました。


 なんだかとてもおかしな夢を見たのです。


 夜中に黒い服を着た老人がやってきて「今年の二人のうちの一人はおまえだよ」と言って、くつ下の中に大きなプレゼントを入れて去って行ったのです。


「そう言えば、前におじいちゃんがそんなこと言ってたっけ?」


 ふと枕元のくつ下を見上げると、大きな箱がはみ出ています。


「あっ! すごい! 欲しかったゲーム機と最新のソフトだ!」


 喜んで手を伸ばしたとたん、アランの手に、


 ニチャ


 と、イヤな感触が伝わってきました。


「え、なにこれ? うわっ!! く、くさっ、臭い!」


 思わず手を離して洗面所へかけ込んで、石けんで手をゴシゴシ洗いましたが、臭いはぜんぜん取れません。


「どうしたアラン……うわっ! なんだこの臭いは」


「なにこれ? アラン、あなた一体なにやったの?」


 両親はあわてて洗面所からから逃げ出して、遠巻きにたずねました。


「わかんないよ。プレゼントに触ったら、こうなったんだ」


 泣きそうなアランの言葉に、おそるおそる部屋へ向かうと、枕元のくつ下には新品のゲーム機が入っています。


「こんなの入れてないよな」


「ええ。それよりあなた、窓あけて!」



 外は一面の銀世界。


 でも寒さより、この臭いはずっと耐えられません。



「何ごとかの?」


 おじいちゃんが騒ぎを聞きつけてやってきました。

 そして、ベッドの枕元を見て大声で笑い出します。


「そうか、そうか。

 今年はとうとうアランのところに悪いサンタがやって来たんじゃな。

 ハンスが言うておったのはこういうことじゃったとはな」


「おじいちゃ~ん。どういうこと?」


 すっかりしょげ返ったアランがたずねると、おじいちゃんはゲームが入れてあるくつ下を指差しました。


「ボロボロで色も変わって、その上、水虫なんじゃろう。

 あれは、サンタがはいておったくつ下じゃ。

 おまえが昨日つっておいたくつ下と取り替えて行ったんじゃろう」


「ええ~!!」




 世界中の悪い子どものうち二人から、来年はくためのくつ下をもらい、かわりに一年はき続けたくつ下をぶら下げておく。


 そのかわりに素敵なプレゼントをくれるのですが、せっかくもらったゲーム機にはサンタの足の臭いが染みついていたのです。






「……半年たって、やっと臭いは消えたけど……」


 だけど、アランはサンタがキライになったわけではありません。


 確かにあれは強烈で、イタズラをしなくなりました。

 イタズラをしようと思っても、そのたびにあの臭いを思い出し、やる気がなくなってしまうのです。


「ボクのくつ下をはいたサンタが、今も来年のプレゼントを用意するために、どこかでがんばっているんだろうな。次は誰のと取り替えられるんだろう」


 アランは悪いサンタのイタズラを思い出すたびに、とてもかなわないなと微笑むのでした。

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