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第八話 バルドストン辺境伯家 其の二!

アーネ・ゾーマの放った言葉クアドラ重虐罪法は、貴族でも細部を理解している者は少なかった。

壇上に陣取ったバルドストン辺境伯家の中で一番理解していたのは、長男ヴィクターの膝上で肉壺を擦り付けていたグレンダ・ヴァン・バルドストンだった。

三人の夫人達は奢侈な生活に溺れ法律名程度しか知らず、四人の子息達は牝犬調教品評会で平民の女達を貪る事にしか興味が無かった。

脂汗を大量に流していた正妻トレイシーだったが、何かを思い付いたのか再び高飛車な態度を見せる。


「国王ルドヴィーゴ様の書簡は、残念ですが此処ズレクには有りません。ですが王都ログザークで政務に勤しんでおられるヒューバート様が、屋敷に設置された魔導金庫内に最重要機密書類として保管しています。一介の冒険者風情がクアドラ重虐罪法を知っている事には驚きましたが、国王ルドヴィーゴ様が承認されたという話に嘘偽りは有りません。此れ以上バルドストン騎士団の邪魔をするなら、領主に対する反逆とみなし極刑を持って処罰します!!!」


正妻トレイシーの反逆扱いで極刑と言う発言に、静まり返るトラザム広場に集まったズレク領民達。

静まり返った大群衆の後方から、冒険者ギルドマスター・エリカが五十人を超える冒険者達を引き連れ、其の後ろから守備隊隊長メダルドが守備隊隊員三十数名を連れて、正妻トレイシー達が陣取る中心部周りを武器を構えて包囲した。


「邪魔するぞ!ジナイダ、ドロテア、二人を解放してやれ!!女冒険者達は二人の護衛、男共は騎士団の動きを牽制しろ!!バルドストン辺境伯夫人トレイシー、国王ルドヴィーゴ様の名前を騙った罪で、身柄を一旦拘束させてもらうぞ!!」

「身柄を拘束?!日雇稼業を斡旋している平民風情が、辺境伯の身分を持つ人間を捕らえる?笑えぬ冗談を!!」

「王都に確認済みだが(ニヤニヤ)」

「馬脚を露したな、底辺労働者の元締め風情が。王宮は平民からの陳情など一切受け付けていない、貴族の身分を持った人間以外は相手しないのが常識だ(ニヤニヤ)」

「カミラ・ヴァン・バルドストンからの依頼で、王都ログザーク冒険者ギルドマスターのチェスター・マカパインに確認を入れた。チェスター・マカパインは男爵家当主で王璽尚書局に所属し、現在ログザーク冒険者ギルドの代理ギルマスの職に就いている男だ」


身内のカミラ・ヴァン・バルドストンの依頼と聞いて、顔を顰める正妻トレイシーと息子のヴィクター。

娘カミラの背信行為に驚きの表情を見せる第二婦人パメラと、腹違いの姉の取った行動を分析するグレンダ。


「其れが如何した?王宮から追い出された無能だろうが!」

「アーネ、説明してやれ!」

「エリカさん、了解です。糞ギルマスは病的な女好きでログザーク冒険者ギルドに出向させられてますが、其れさえなければ王璽尚書局局長の役に付ける王宮内でも五本の指に入る文官です。先に話したキーエンス伯爵領とベルデニア子爵領の争いに関わる書簡は、糞ギルマスの確認が終わるまで国王ルドヴィーゴ様に届く事は絶対に有りません。そして王室から争っている二つの貴族に向けた書簡を送る場合、糞ギルマスが下書きを行い国王ルドヴィーゴ様が清書した後届けられます。私個人としては最低最悪な糞野郎と評価してますが、国王ルドヴィーゴ様が認めた文官としての才能は本物です。其の糞ギルマスが王璽尚書局に確認を入れ懲罰に関する書簡が無いと発言したのなら、正妻トレイシー様の発言は国王ルドヴィーゴ様の名前を騙った許されない行為で有り、完全にクアドラ重虐罪法に抵触する事に成ります。此の場合上級貴族の身分を持っていても逃亡等を防ぐ目的で、警備隊、衛士隊、守備隊と言った下級貴族及び平民出身者であっても身柄を拘束する事が許されています」

「だ、そうだ(ニヤニヤ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


正妻トレイシーが顔を真っ赤にして黙り込んだ時を狙って、ヴィクターの膝の上で事の成り行きを静観していたグレンダに、一人の従者が近付き書類と思われる包を手渡す。

中身を確認したグレンダは従者にボソボソと言伝をすると、跨っていたヴィクターの膝から降りて近くの椅子に腰掛けた。


「メダルド、身柄の拘束は任せて大丈夫か?」

「問題無い。騎士団が暴れてもアーネ君とジナイダ君の二人がいるからね」

「アーネ、ジナイダ、守備隊に協力しろ!」

「了解です」

「ボードとフィーの尊厳を踏みにじった糞野郎共だ、怪しい動きを見せたら全員ブチ殺してやる!傭兵団・歯牙無き負け犬の野郎共、身内のボドーとフィーが辱められたんだ!!血には血で返すぞ!!!」

「「「「「ウオォォォォォォォォォォーーーー!!!」」」


アーネに絡んで半数近くが戦闘不能状態のバルドストン騎士団、会場に集結していた犯罪に絡んでいない団員達を含めて全員を、召集された冒険者達と歯牙無き負け犬の傭兵団員達が包囲した。


「さてクアドラ重虐罪法関連の話題は、守備隊隊舎でゆっくりやって貰おうか。此処からは領都ズレクで続いている若い女性の、連続失踪事件についての話をしようか?なぁヴィクター(ニヤニヤ)」

「・・・何が言いたいんだ、ギルマス・エリカ?」

「ウチのアーネがシミオン盗賊団を壊滅させた時、回収した書類の中に笑える内容の記述が有った。此の意味解るよなぁ、ヴィクター(ニヤニヤ)」

「さぁ、何の事かな・・・・・・・」

「ヴィクター・ヴァン・バルドストン主催・牝犬調教品評会と言う、領都内で攫った若い女性を家畜のように扱う外道な連中の集まりの記録だ。保管していたのは牝犬調教品評会に所属していたシミオン盗賊団副長ヒューゴだ」


此処からズレク冒険者ギルドマスター・エリカによる独演会が開始され、領主子息ヴィクター・ヴァン・バルドストンがクアドラ王国内最大の犯罪者集団シミオン盗賊団と繋がっていた事。

正妻トレイシーが牝犬調教品評会の会計を担当し、副長ヒューゴと売り上げを折半していた事。

牝犬調教品評会で調教する若い女性達はシミオン盗賊団が攫い、バルドストン騎士団副団長ヘーシングに引き渡していた事。

バルドストン騎士団に所属する団員の半分が、牝犬調教品評会所属会員に成っていた事。

其の結果、シミオン盗賊団討伐計画が事前に流され、守備隊や冒険者達が討伐に向かっても空振りだった事。

現在治療療養中のバルドストン騎士団団長カムイを、副団長ヘーシングとヒューゴが組んで暗殺計画を練り、殺害には失敗したが休職に追い込んだ事。

辺境伯正妻トレイシーはシミオン盗賊団専属の肉奴隷として、時間を作っては若い盗賊団員達に身体を貪らせ肉欲に狂っていた事。

長男ヴィクター主催の牝犬調教品評会には、次男マイルズ、三男ニコラス、四男ラッセル、バルドストン家子息全員が参加していた事。

主催者ヴィクターが五人、次男マイルズが二人、三男ニコラスが三人、四男ラッセルが一人、副団長ヘーシングが七人、正妻トレイシーが二人、誘拐して牝犬扱いしていた平民の女性達を殺していた事。


此処までエリカの話を聞いていたズレク領民達からは、様々な感情を含んだ罵声や罵り声がバルドストン一族に向けて浴びせられた。


「此処からはバルドストン家以外で牝犬調教品評会に参加してた糞野郎共だ!!」


ズレク商業ギルドマスター・シルヴェスター、ズレク最大の娼館経営者マードック、最高級レストラン経営者ハロルド、ズレク総合商会会頭マルコム等々、領民達と日常的に関わる事の有る名士の名前が続いた。


「ヴィクター、何か反論有るか(ニヤニヤ)」

「ギルマス・エリカ、其の書類に信ぴょう性が有るとでも?どうせ副長ヒューゴがバルドストン家を貶める為に用意した、嘘偽りで埋め尽くされた偽の書類を掴まされただけだろう?(ニヤニヤ)」

「此処まで正確に記述されている書類を偽物と言うか」

「其の内容を証明出来るモノは有るのかな?確かに書かれた内容は真実に聞こえるが、何一つ証明出来るモノは無いのだろう。憶測や願望で上級貴族に対して罪を擦り付ける行動は、太古の昔から平民の嫉妬や妬みが生み出す妄想に過ぎない。ギルマス・エリカ、確かな証拠を見せてくれないかな(ニヤニヤ)」

「・・・・・・・(チィ、開き直りやがった)」


シミオン盗賊団副長ヒューゴが書いた記録簿を見せれば、素直に罪を認め裁きを受けると考えていたギルマス・エリカ達。

しかし悪びれる事無く書かれた内容を証明しろと、強気で攻めて来る牝犬調教品評会主催者ヴィクター。

此処まで一切の発言を控えていたバルドストン家第六子三女のグレンダが、ギルマス・エリカの前を素通りしてアーネの前で跪き持っていた荷物を手渡す。


「救都の英雄アーネ・ゾーマ様、此の書類にヴィクター御兄様達が行って来た、悍ましい牝犬調教品評会に関わる証拠が揃っています。身分は違えど同じ女として見過ごす事が出来ず、ヴィクター御兄様の信頼を得る為身体を提供して、入手する事に成功した家名印が押された公式な書類です。厚かましいお願いに成りますが、事件に関わっていないパメラ様、母ヒラリー、クアドラ重虐罪法の問い合わせを行った姉カミラ、最後に私グレンダに対する温情有る計らいを求めます・・・」


乱れ愛を楽しむ間柄だった妹グレンダの裏切り行為に固まるヴィクター、一方突然傅かれ温情ある計らいを求められたアーネも頭の中が混乱していた。







添付イラストは初の男登場で、神速の暴発王チェスター・マカパインです。

容姿良し、身分良し、頭脳良し、美味い棒駄目、一番重要な部分が残念なイケ渋です。

挿絵(By みてみん)





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