第二話 新緑の芽吹き亭
ズレク冒険者ギルドマスター・エリカに紹介された宿「新緑の芽吹き亭」に、到着したアーネ・ゾーマは案内して来たドロテアに母親ベゴーニャを紹介される。
紹介されたベゴーニャは三十代に入った女性とは思えない若々しい容姿をしており、娘ドロテアの姉と言われても誰も疑わない二十代前半にしか見えなかった。
其れ以上に強烈だったのがタプンタプンと言う擬音が纏わり付く巨大な双丘と、双丘以上に激しい自己主張を見せる爆尻から太腿に掛けての肉付きだった。
同性のアーネ・ゾーマですら妖艶な美しさに目を奪われ、暫くの間ベゴーニャから意識を離す事が出来なかった。
「母さん、御客様を連れて来たわよ」
「まぁ、御客様ぁ~(ニコニコ)」
「アーネさんは王都ログザークからズレクに引越して来たのよ。暫くの間「新緑の芽吹き亭」を拠点に冒険者活動をするから、料金とか色々と相談に乗ってあげてね。私は着替えて来るから」
其れだけ伝えると二階の自分の部屋に消えるドロテア、残されたアーネは顔を上気させながら挨拶を行う。
「王都ログザーク冒険者ギルドからズレク冒険者ギルドに転籍して来ました、冒険者のアーネ・ゾーマと言います。暫くの間、此の宿屋「新緑の芽吹き亭」を拠点に活動するよう、冒険者ギルドマスター・エリカさんから提案され此方に御伺いしました」
「エリカの紹介なのねぇ。アーネちゃん見たいな可愛い子だったら、五年でも十年でも構わないわよぉ(ニコニコ)」
「可愛いだなんて・・・・・・、ベゴーニャさんの方こそミランダ・アトレンティアが泣いて逃げ出す、美しさと妖艶さを纏った地上に降臨した美の化身です!」
「ミランダ・アトレンティアァ~?」
「王都で絶大な人気を誇る歌姫です。上は王族関係者から下はスラムの男達までを虜にする、美の女神パレシアの生まれ変わりと噂される女性です。ですがベゴーニャさんの美しさの前では、ミランダ・アトレンティアも霞んでしまいます!」
「褒め過ぎよ~、アーネちゃ~ん♡ お姉さん御世辞に弱いから、宿泊料金頑張ってサービスするねぇ」
「宿代はバニルシェラと同じで構いません」
「まぁ、バニルシェラと言ったら一泊銀貨五枚は掛かる、御金持ち御用達の超高級宿屋でしょう?新緑の芽吹き亭は高い部屋でも、大銅貨七枚の普通の宿屋なのぉ?」
「ベゴーニャさんと言う絶世の美女が経営されている神域のような宿屋です、其の付加価値を考えればバニルシェラ同等の宿泊料金を払うのは普通の事だと思うのです。ベゴーニャさんと毎日会えて話せるだけでも、金貨を払う価値が有ると私は考えています!」
「・・・・・・・アーネちゃ~ん♡、褒め過ぎ~よぉ。アーネちゃ~ん♡のお財布に負担を掛けないなら、喜んで受け取るねぇ。新緑の芽吹き亭はズレクの中心から外れていて、領地の外から来る御客様も泊ってくれないのぉ。だ・か・ら・ドロテアの給料が無いと、経営が厳しかったのぉ・・・」
暫くすると着替えたドロテアが降りて来て、アーネにどの部屋を拠点にするか確認しに来る。
新緑の芽吹き亭は酒場や食堂を併設しない宿屋だったので、一階に受付用の広間と台所に母親ベゴーニャの寝室が配置されていた。
二階は倉庫とドロテアの寝室以外は全て客間に充てられ、三階は倉庫以外は全て客間に充てられていた。
各階にトイレ室が設置されていた事と、中庭の離れが風呂だったのにはアーネも驚いた。
三階までの確認を終えたアーネとドロテアが一階に戻ると、ベゴーニャがニコニコしながら驚きの提案を投げ掛けて来た。
「アーネちゃ~ん♡、私の寝室と繋がっている小部屋が在るの、其処なら一階だし何か有っても直ぐに動けるわよぉ」
「ベゴーニャさんの寝室と繋がった部屋(ゴクリ)」
「母さん、其れは失礼でしょう!アーネさんから聞いたけど毎月金貨一枚を、宿泊料として新緑の芽吹き亭に納めるって!金貨一枚なら三階の部屋全部貸しても、今の新緑の芽吹き亭なら十二分に利益が上がるわ」
「ドロテアさん!一階でお願いします!!」
「エェー!!!アーネさん、母さんの寝室と繋がった、狭苦しい部屋ですよ!」
「其方でお願いします!一階の部屋を使わせて頂けるなら、毎月の支払いを金貨三枚まで増額します!」
「「金貨三枚ーーー!!!」」
「了解を得たという事で宜しいでしょうか?其れでは一年分の宿泊料金、金貨三十六枚をお納めください」
空間収納から取り出した硬貨袋から金貨三十六枚を取り出すアーネ、其の時袋の中に白銀に輝く硬貨を見つけ興味を爆発させるドロテア。
「アーネさん、袋の中に白金貨入ってます?」
「はい、白金貨も入ってます。見てみますか?」
「お願いします!白金貨、一度も見た事無いんです(ワクワク)」
「アーネちゃ~ん♡、私も見たいのぉ」
「其れでは手持ち分だけですが、お見せしますね」
ベゴーニャとドロテアが座る机の前に次々と白金貨を並べて行くアーネ、最初は興奮して見ていた母娘だったが途中から顔を引き攣らせてしまう。
アーネが並べた白金貨の数十三枚、大金貨百七十三枚、目の前の輝きに思考を止めるベゴーニャとドロテア。
思考を取り戻したドロテアが素早く頭を回転させ、アーネに予想外の爆弾提案を持ち掛ける。
「アーネさん、新緑の芽吹き亭買い取って下さい!今なら母さんも付いて来ますよ!」
「ベゴーニャさんが付いてくるのですか!!!」
「私、新緑の芽吹き亭と一緒に売られるのぉ(ニコニコ)」
「二人の雰囲気見てると、一目惚れで相思相愛ですよね!アーネさんなら新緑の芽吹き亭も、母さんも安心して任せられます。私の父親が十五年前に亡くなってから、母さん黒の喪服を着て再婚するのを避けてました。でも、アーネさんを見つめる母さんの顔、完全に恋する乙女の表情してるんです。母さん此の十五年間自分御奉仕だけの人生でした、同じ女として悲しく感じて、やるせなく感じて、人並みの幸せを楽しんで欲しいと日々願っていました。母さんは三十代に突入した小母さんです、アーネさんの正妻は無理でも愛人枠で何とかお願いします!」
「アーネちゃ~ん♡、小母さんだけど構わないかしらぁ?」
「ベゴーニャさん、私の正妻に成ってください。駄目でしょうか?」
「・・・嬉しくて涙が零れそう。アーネちゃ~ん♡、末永く宜しくねぇ」
「若輩者ですが、此方こそ末永く宜しくお願い致します」
「じゃ、今日は母さんとアーネさんの婚約を祝って、祝賀会を開きましょう!友人達にも声を掛けて来るから、母さん料理の準備をお願いね」
「任せてぇ、ドロテア」
「母さん、アーネさん、本当におめでとう((ニコニコ)新緑の芽吹き亭の心配もしなくて良く成ったし、ギルドから支給される給与も全部自分の為に使える!しかもアーネさんは王族のような金持、私も愛人として面倒見てもらうのも悪くないよね。超優良物件は、絶対に逃がさないから!)」
ドロテアの母親ベゴーニャに再婚を迫った男の数は、喪に服していた十五年の間に百人を超えていた。
容姿、身分、資産、他の女達だったら簡単に靡く最高の条件を満たした男達でも、ベゴーニャの首を縦に振らせる事は出来なかった。
其の難攻不落の要塞が墜ちたと言う情報が、領都ズレクの中を駆け巡り大騒ぎを引き起こす。
しかも難攻不落の要塞を堕としたのが王都ログザークから来た、頭の逝かれた露出狂の女冒険者だと言う事から、魅了系の魔法か禁忌の媚薬を使って誘導したと歪曲され拡散されてしまう。
怒り狂ったズレクの男達が身分差を超えて徒党を組み、悪魔の女アーネ・ゾーマに正義の鉄槌を下すという逆怨み行動が水面下で動き出す。
一方ドロテアから母親ベゴーニャとアーネ・ゾーマの婚約話を聞いた、冒険者ギルドマスター・エリカは一人煙草を嗜みながら大親友の幸せを祝っていた。
「(ドロテアの話を聞く限り、ベゴーニャとアーネ・ゾーマは番の隷属だな。何にしてもベゴーニャが自分御奉仕の寂しい人生から、肉欲に狂える幸せな人生を手に入れた事を心から歓迎する。番の隷属で繋がった関係なら、アーネ・ゾーマのズレク定住は決定したな。ログザーク冒険者ギルドマスターには、心から感謝の言葉を送るとしよう。殲滅のアーネとアメルハウザー聖帝国から恐れられたSランク冒険者を、歪んだ自尊心を守るためだけに追放してくれたのだからな(ニヤニヤ)」
新緑の芽吹き亭経営者兼ドロテアの母親ベゴーニャ