第十二話 欲に溺れた冒険者達の末路!
今回は、添付イラスト有りませんm(--)m
領都ズレクに在る冒険者ギルドは怪我人が次々運び込まれ、明日香とフローリアンの二人が休みなしに治療魔法を掛けていた。
運び込まれた冒険者達は全員が中堅のC~Dランクで、練習場には亡くなった者達の遺体が並べられていた。
領都ズレク近郊に猛獣に分類される岩石熊の姿が複数確認され、魔獣では無いからとCランクパーティー雷鳴の槍が周りの冒険者達に声を掛け、野良案件として猛獣岩石熊討伐隊を組織して現地に向かってしまう。
岩石熊の肉は高級品で高く売れる事も有り、日頃の稼ぎが良くなかった中堅冒険者達が、一獲千金を目指して勝手に動いてしまった。
*岩石熊はヒグマを二回り程大きくした野生の猛獣で、危険を察知すると全身の毛を硬質化する能力持ちです。
冒険者ギルドの方では他国から来ていたAランクパーティーを、現地に向かわせ調査をさせようと動いていた矢先だった。
冒険者ギルドマスター・エリカは怒りの表情を隠さず、今回の原因を作った雷鳴の槍リーダーのケヴィンを吊し上げていた。
「Cランク程度の冒険者が岩石熊に勝てる訳無いだろうが!!!一匹、二匹を十四人で囲んで攻撃すれば、Cランクでも死人を出さずに倒せる可能性は有るがな!!!現場に岩石熊、何頭いた言ってみろ!!!」
「・・・・・・・・・・・五頭・・・・・・・・です・・・」
「五人死んだんだぞ!!!岩石熊一頭に一人殺された計算だ!!!お前達雷鳴の槍以外で参加したCランク六人、命は取り止めたが欠損が酷くて冒険者活動は終わりだ!!!お前達の欲望の御蔭で十一人の冒険者が、ズレク冒険者ギルドから消えたんだよ!!!責任は必ず取らせるから、領都から逃げるなよ!!!逃げたらアーネに追わせて、三人共確実に殺すからな!!!うせろ!!!」
雷鳴の槍の三人をギルドから追い出そうとした時、表から悪魔族の女を連れたアーネが怪訝そうな表情を浮かべ入って来た。
「エリカさん、何が有ったんですか?」
「アーネ帰って来て早々で悪いが、馬鹿共の監視を依頼する。ズレク冒険者ギルドマスター・エリカが依頼人だ」
「・・・状況を説明して貰えますか?」
此処から雷鳴の槍が声を掛け中堅冒険者達で組んだ野良岩石熊討伐隊が、五人の死者と、六人の重傷者を出し逃げ帰って来た流れを伝える。
ギルマス・エリカの話を聞いていたアーネは、雷鳴の槍の怪我の具合を確かめ口を開く。
「エリカさん、雷鳴の槍の三人を拘束してください」
「拘束?」
「「「何で俺達を拘束する必要が有るんだ、アーネ。俺達も岩石熊に怪我させられた被害者だぞ!」」」
「エリカさん、お願いします!!」
「分かった。辺境の牙!馬鹿三人を拘束しろ!!」
「「了解、ギルマス!」」
ズレク冒険者ギルドで一番格上のC2ランク辺境の牙に、一瞬で拘束され床に寝転がされる雷鳴の槍メンバー達。
「エリカさん治療を終わらせた冒険者達から、雷鳴の槍がどのような指示を出したのか確認して下さい。タラキラ王国で十年前に起こった惨劇、スタキャド事件と同じ匂いを強く感じるので・・・」
「スタキャド事件?、アーネ説明してくれ」
「ギルマス、俺が説明しよう。俺達Aランクパーティー白銀の守護者は、タラキラ王国を活動拠点にしてる。そして俺の兄貴もスタキャド事件で亡くなった一人だ」
「エリカさん、彼らは?」
「アーネ、岩石熊の現地調査を依頼していたパーティーの責任者だ。ジャンアントニオ、良いのか?」
「構わない。タラキラ王国東部モヴェチュカ伯爵領に在るダンジョンで起こった殺人事件だ」
ギルドの受付付近にいた冒険者達や職員達が、殺人事件の言葉を聞いて表情を引き締めた。
「其処はミスリルやオリハルコン製の武器や防具が高い確率で落とされる、タラキラ国内でも高い人気を誇るナンバー15と呼ばれるダンジョンだった。其の年は運悪く鬼湧きが頻繁に起こり、冒険者達を悩ませていた。鬼湧きの影響で収入を絶たれた冒険者も多く、生きる為に犯罪に手を染める者も多かった。其の中にモヴァチュカを拠点にしてる、Bランクパーティー光り輝く聖剣がいた。聖剣リーダー激刃のラビーンは生活苦の中堅冒険者達に目を付け、鬼湧き状態のナンバー15に突入させる計画を実行したんだ。参加したC~Dランクの冒険者達にはクアドラ王国から来てるAランクパーティーと自分達が先行して、高ランクの魔物を駆逐するから合図が出たら一斉に突入してくれと指示を残して。一時間後、合図に合わせて突入した中堅冒険者達五十四名は全滅、光り輝く聖剣のメンバー六名だけが軽傷を受けたが生きて帰還したのが事件の始まりだった」
「ジャンアントニオ、クアドラ王国から来たAランクパーティーはどうした?」
「架空のパーティーだよ。ラビーンが知り合いの傭兵達に声を掛け、クアドラ王国出身の冒険者に仕立て上げた偽物だ。此奴らも全員殺されたよ」
ギルドマスター・エリカが確認するかのように、皆が聞きたがっていた質問をぶつける。
「まさか聖剣の連中が殺したのか!」
「発見された傭兵達の死体を検視した魔導医師が、魔物に喰われたのは死んでからと結論付けた。突入した中堅冒険者達で魔物に直接殺されたのは十七名、残りの三十六名は聖剣の連中が口封じを兼ねて殺した。俺の兄貴も此の中に含まれる」
「ジャンアントニオさん、一人足りませんね?」
「其の恰好、まさか殲滅のアーネか!」
「アーネを知ってるのか?ジャンアントニオ(拙いな・・・)」
「クアドラ王国の殲滅のアーネと言えばタラキラ王国でも、娼館嬢も逃げ出す露出過多の格好をしていながら、伝説の魔王ですら消し去る超広範囲殲滅魔法の使い手で超有名だ。キールハイム王国から東の国で、冒険者をしてる者なら誰でも殲滅の噂話の一つは知ってるからな。話が逸れたな、一人生き残りがいたんだ。突入の際重傷を負って仲間達に運ばれ、少し離れた岩陰で救助を待っていたDランク冒険者が。そいつが見たんだ重傷を負い苦しむ冒険者達に、笑いながら剣を突き立てる聖剣の連中の姿をな・・・」
「其処迄酷い事をする理由は何だ!?」
「ギルマス、神龍の心臓を知ってるよな」
「若返りの秘薬と言われている、数百年に一度落ちるかどうかの神薬!!」
「神託が下りたらしい元宮廷魔導師がラビーンに話を持ち掛けた、神龍の心臓が落ちるから入手に成功したら白金貨五枚出すとな。聖剣の連中は白金貨五枚の為に六十名を超える人間を殺し、元宮廷魔導師は復職するために金を払った。此れがタラキラ王国で起こったスタキャド事件の真相だ・・・」
白金貨五枚の為に同業冒険者達(一部傭兵含む)を殺したという話に、凍り付くように静まり返るズレク冒険者ギルドの一階室内。
其の静まり返った雰囲気を壊したのが、アーネと同行して来た悪魔族の女ネオンだった。
「あのぉ~、其の光り輝く聖剣の人達は、犯罪者として処罰されたのですか?」
「ああ、全員王都で公開処刑された。依頼主の元宮廷魔導師は、事件と関係無く無罪放免だ」
「金を出したのだから依頼主にも責任を取らせろと成れば、取り次いだ冒険者ギルドの責任も追及されますからね。落とし処としては、妥当な線だと思います」
「殲滅、良くタラキラの事件を知ってたな?」
「前に所属していた王都ログザーク冒険者ギルドの新人育成講座で、糞ギルマスが野良依頼の危険性を教える教材として、タラキラ王国で起こったスタキャド事件を取り上げていますので」
新人育成講座の話を聞いた受付嬢アリシアが、小さな疑問を解決するためにアーネに質問を入れる。
「アーネさん、王ログザーク冒険者ギルドの新人育成講座は、療養中のガルシア様が提案したのですよね?」
「体術や剣術の講座を開いたのはガルシア爺ですが、一般的な教養や危険回避の講座を始めたのは糞ギルマスです」
「アーネさんの話を聞けば聞くほど代理ギルマス、チェスター・マカパイン様は良いギルマスとしか思えないのですが?」
「アレが良いギルマスですか?・・・・・・」
「アーネさんの露出過多に対する厳しい対応以外、良識有る普通のギルドマスターとしか思えないのです。極端な女好きという性癖に関しては、多々問題有ると思いますが・・・」
「アリシア、其処は見方や受け止め方の違いだ。お前には良いギルマスに思え、アーネに取っては最悪のギルマスに思える。此の話は終わりだ。アーネ、雷鳴の槍を拘束させた理由は?」
「岩石熊と戦ったにしては、体に突いてる傷が浅いんです。まるで岩石熊の幼獣に付けられた傷のように」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
「岩石熊の成獣は程度が良ければ金貨十枚で取引されますが、幼獣の場合値段は軽く成獣の三十倍を超えます」
「そうなのか?アーネ」
「フローリアンさん、そうですよね?」
怪我をして運ばれて来た冒険者達の治療がひと段落して、騒がしい受付前が気に成り姿を見せたフローリアン。
「岩石熊の幼獣の内臓が、最上級治療薬を作る素材の一つです。生まれて半年未満の幼獣なら、一頭金貨三百枚で取引されています」
「其処でケヴィンさんに質問です、成獣は何頭いましたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ケヴィン、答えろ!!!」
「・・・・・・・・・成獣は・・・・二頭・・・・・・・」
「其れじゃ二頭に、五人も殺されたのか!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「エリカさん、撒き餌です」
「撒き餌?」
「他の冒険者に幼獣を狙わせ、成獣の怒りを自分達以外に向けさせる。成獣が他の冒険者達に向かった隙を突いて、幼獣を一頭でも確保出来れば成功と言った処だと思います」
「ギルマス、アーネさんの話、治療した冒険者達の話と一致してます」
「フローリアン、後で詳しく聞かせてもらう。先ずは雷鳴の槍三人を、此れから守備隊に預ける。アーネ、守備隊に届けろ!」
「了解です。野良案件を装った殺人事件ですから、裁く権利は守備隊にしか有りません」
雷鳴の槍を守備隊に引き渡す為、ネオンと隊舎に向かうアーネ。
ギルマス・エリカは、フローリアンとギルド内の治療室に向かい、喋れる重傷者達から現場で起こった事について事情聴取を始めていた。
翌日、アーネとジャンアントニオ達合同で現地に向かい、人の味を覚えた岩石熊の駆除作業を始めていた。