第一話 王都から辺境領に!
前作、地味な主人公の話に登場したキャラ達も、
沢山登場しますので寛大な心を持ってお許しください。
露出冒険者アーネ・ゾーマ
クアドラ王国北方に位置するバルドストン辺境領、其の領都ズレクに在る冒険者ギルドの一階は始めて見る女性の格好を見て、屈強な破落戸冒険者共が声を失っていた。
髪に赤いメッシュ、赤色のアイマスク、赤色のウルトラショートジャケット、赤色のグローブ、赤色のサイハイソックス、赤色のソルジャーブーツ、此処までだったら破落戸冒険者共でも驚く事は無かった。
ウルトラショートジャケットの下に着てたのが、乳首回りと下腹部前面以外は全て紐で構成された、赤色が眩しいレザー水着だったからだ。
露出過多の格好をした女性に声を掛けられた、冒険者ギルドの受付嬢も混乱の色を顔に浮かべていた。
「・・・あ、あのぉ、どの様な御用件で?、此処はズレク冒険者ギルドですが」
「ログザーク冒険者ギルドの糞、間違ったギルマスからの手紙を届に来ました。此方のギルマスに渡してもらえますか」
「ログザーク!王都のギルマスからですか?直ぐに当冒険者ギルドマスターをお呼びしますので!」
暫くすると三十代前半の凛とした女性が姿を見せ、受付嬢から渡された手紙に目を通し女性に声を掛ける。
「ズレク冒険者ギルドのマスターをしてるエリカだ。手紙に認められた内容を確認したい。此の場所で質問をしても大丈夫か?拙いなら私の部屋で行うが?」
「聞かれて困る事はしていませんので、此処で大丈夫です(ニコ)」
手紙に書かれていた内容は、ログザーク冒険者ギルド所属の冒険者アーネ・ゾーマをズレク冒険者ギルドに転籍させたい。
当冒険者はログザーク冒険者ギルドの名誉を穢す行動を繰り返し行い、度重なる指導を入れたにも関わらず態度を一向に改めず、ログザーク冒険者ギルドで活動させておくのは難しいと判断した事。
手紙に記載されていた名誉を穢した行為とは、
①ログザーク冒険者ギルドマスター、チェスター・マカパインの名誉を著しく傷つけた事。
②ログザーク冒険者ギルドに勤務する女性職員達に、繰り返し迷惑行為を行った事。
③クアドラ王国建国百周年を祝う祝賀式典が来年開催されるため、王都の風紀を乱す下着姿を改め冒険者らしい服装をするように指導を入れたが、頑なに拒否して露出過多の格好を改めなかった事。
当初は冒険者資格の剥奪も検討したが、所属ギルドを変えれば行動を改める可能性も残されているとの意見も上がり、若い冒険者の未来を考え転籍処分に決まった事。
転籍先としてアメルハウザー聖帝国から離れた、バルドストン辺境領が一番適切と判断した事。
問題行動を繰り返した責任を自覚させる為、冒険者ランクをBランクに降格させ再登録した事が書かれていた。
「③は理解出来るが、①と②が理解出来ない?其れとログザーク冒険者ギルドのギルマスは、ガルシア爺だったと記憶してるのだが?」
「ガルシア爺は三ケ月前に体調不良で半年の病欠に入りました。百周年祝賀式典の絡みも有り王宮から官僚出身の糞が派遣され、一年間の期間限定でログザーク冒険者ギルドマスターに就任しました」
「ガルシア爺の件は了解した。官僚の起用に関してはコメントを控える。其れにしても一冒険者がギルドマスターの名誉を傷付けたというのが、私には理解出来ないのだが?」
「其れはですね・・・」
某月某日、何時も通りに冒険者ギルドに顔を出すと糞ギルマスに見つかってしまい、一階受付前で怒鳴り合いの喧嘩が始まってしまう。
糞ギルマスから紋切り型の改善命令を繰り返し受けていたアーネ・ゾーマだったが、此の日は運悪く月のモノが来ていてイライラが極限に達していて、相手の言葉を受け流す事が出来なかった。
糞ギルマスのチェスター・マカパインは女癖の悪さが災いして王宮から追い出され、祝賀式典を名目にログザーク冒険者ギルドに出向させられていた事実を知っていたアーネ・ゾーマ。
しがない下級官僚だった王宮勤務時代と違い、裁量権や人事権を左右するギルドマスターと言う力を持ったチェスター・マカパインは、当然のように受付嬢や事務方の女性達に手を出していた。
受付嬢達から糞ギルマス関連の相談を受けていたアーネ・ゾーマは、別ルートから入って来た情報に間違いが無い事を確信する。
病的な女好きのチェスター・マカパインだったが、夜の営みを行う上で致命的な弱点を抱えていた。
王宮内でチェスター・マカパインに付けられた蔑みの称号「神速の暴発王」と言う、男の尊厳をズタズタに切り裂かれてしまう情報をアーネ・ゾーマに暴露されてしまう。
此の瞬間ログザーク冒険者ギルド内に居た冒険者達やギルド職員、合わせて百人を超える視線がチェスター・マカパインに集まる。
顔面蒼白状態で大量の脂汗を流したチェスター・マカパインは、逃げるように冒険者ギルドを飛び出し二週間程行方が分からない状況が続いた。
二週間を過ぎた頃、ログザーク冒険者ギルドに顔を出したチェスター・マカパインから、アーネ・ゾーマのズレク冒険者ギルドへの転籍が発表される。
此処までの話を聞いていたズレク冒険者ギルド内に居た、冒険者達やギルド職員全員がアーネ・ゾーマにも問題が有るが、ログザーク冒険者ギルドマスター:チェスター・マカパインの個人的復讐でズレクに飛ばされた事を理解した。
「返す言葉が無い・・・」
「事実を話したまでです」
「良く剥奪を免れたな?」
「最初は剥奪で発表されたのですが、黒炎、刃雷、聖氷、死神の四人が、私の冒険者資格を剥奪するならログザーク冒険者ギルドを離れると、糞に圧力を掛けてくれたからです」
「黒炎のヴィルピ、刃雷のザハロフ、聖氷アリシア、死神ガトプ、クアドラ王国を代表するSランク冒険者達が、一斉にログザーク冒険者ギルドを離れたらメンツが潰れる程度では済まないだろうからな。良い仲間達に恵まれたな」
「はい、本当に良い人達が揃っていました。糞は除きますが・・・」
「王都での話は終わりだ。ズレク冒険者ギルドはアーネ・ゾーマを歓迎する。其処の酒場で暇を持て余してる、冒険者パーティー辺境の牙がC2ランクで最高ランクだ。君は降格処分を受けてもB3ランクの凄腕冒険者だ、ズレク冒険者ギルドのエースとして活躍する事を心から期待する」
「来る時通ったマリアージュの大森林とか、Aランクの魔物が跋扈するケベルゴ山麓とか在りますので、拠点を決めたら討伐に励みたいと考えています」
アーネ・ゾーマの拠点を決めたらと言う言葉を聞いて、書類整理を行っていた受付嬢の一人に声を掛けるギルマス・エリカ。
「ドロテア、君の家は宿を経営していたな。部屋は空いてるか?」
「ギルマス、御客様一人も泊ってません・・・・・・」
「アーネ、王都では部屋を借りていたのか?」
「バニルシェラと言う宿屋を利用してました」
「バニルシェラだと!!王都を代表する超高級宿泊施設じゃないか、一泊銀貨五枚は下らないはずだ」
一泊銀貨五枚は下らないというギルマス・エリカの言葉に、ギルド内に居た全員が驚きの表情を浮かべ固まった。
此の世界の通貨単位はブルと呼ばれ、鉄貨から聖白金貨までが製造されていた。
二重線から下の高額硬貨を庶民が見る事は、生涯を通して無いのが普通だった。
鉄貨:一ブル(十円)、銅貨:十ブル(百円)、大銅貨:百ブル(千円)
銀貨:千ブル(一万円)、大銀貨:一万ブル(十万円)、金貨:十万ブル(百万円)
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大金貨:百万ブル(一千万円)、白金貨:一千万ブル(一億円)、聖白金貨(変動価格)
「王宮や貴族地区に近い商業地区で部屋を借りると、一月で金貨三枚から五枚掛かりますので」
「私でも王都に住むのは無理だな・・・、まぁバニルシェラと比べれば普通で庶民的だが、ドロテアの母親が経営してる宿も評判が良い。暫く泊ってみて、拠点にするか判断しろ」
「ギルマス、ありがとうございます。土地勘が無いので、紹介助かります」
「アーネはエースだからな。ドロテア、案内してやれ」
「はい、ギルマス(ニコニコ)」
王都ログザークから辺境ズレクに飛ばされた露出冒険者アーネ・ゾーマ、彼女の存在がズレク冒険者ギルドに様々なトラブルを呼び込む事に成る。