5.Ready、 ゲガ
「おじさ・・ゲガ、一人なの?」
リアムが、訊いた。
ゲガは、本当は何を訊かれているのか分かってはいたが、とぼけて、
「どういう意味なのヨサ」
と、そっぽを向く。
「兄弟は?友達は?」
ゲガは赤い目だけ、ぎょろりとリアムに向ける。
「そんなモン・・いる訳ないのヨサ」
「一人なの?」
リアムが、悲しそうに訊いた。
ゲガは、冷たくリアムを見下ろす。
「オマエ、おかしいのヨサ。なんでそんなカオしてるのヨサ」
リアムは、自分が悲しく、寂しかった。
生まれてからずっと、傍にギルアスとミイムがいた。ほんの少し離れただけで、寂しい。心細い。
ゲガも同じじゃないの?
「寂しくないの?」
ゲガは、にやりと顔を歪めて、リアムに向き直った。
「寂しくはナイが、、、つまらないのヨサ」
「ゲガ、一緒に行かない?」
「オレは、暗闇の中でしか生きられないのヨサ」
「そうなの?」
「魔界は暗くて明るい。オレは新月の夜なら、ここから出られるのヨサ。けど、ここにいると何時が新月か分からないのヨサ。新月じゃなくなった時に森にいられないと干からびて死んでしまうのヨサ」
「そうなんだ・・」
ゲガは、ふと思った。
「オレが、お前を食えなかったのは、何かのエンかも知れないのヨサ」
「エン?」
もう、充分生きた。
「ついてってやるって、言ってるのヨサ」
リアムが、ぱっと明るい笑顔になった。
「ほんと?」
ゲガは、眩しそうに目を細める。
「ひとつ、条件があるのヨサ」
魔王の部屋にて。
理髪家のキルワが魔王の髪をカットしている。
長髪は変わらない。
伸びた分だけカットしているだけだ。
最後に、スタイリングに椿オイルをふんだんに塗る。
黒髪が、絹の様に艶やかに美しく揺れる。
キルワが静かに退室して、魔王は、ギルアスを振り返った。ギルアスは畏まって頭を下げている。その少し後ろに執事もいる。
「ミイムが乳母を辞めたいと言って来た」
「は?」
ギルアスは、思わず頭を上げた。
魔王は、苦笑を浮かべる。
「何があった?」
ギルアスは、理由にぴんとは来たが、魔王に説明するのは面倒だった。肩をすくめ、
「わかりません」
と、言った。
魔王は、見透かしたような微笑を浮かべてギルアスを見る。
「まあ、話したくないならそれでも良いが。お前ひとりで、務めを果たせるか?」
「お疑いになるのは、ごもっともです。代わりになる者を見繕いましょう」
「代わりがいるかな」
ギルアスは、沈黙した。
「ミイムはまだ、辞めてはおらん」
「・・・」
「あれは子供を産めぬ体だ。それを踏まえぬと、上手くは使えぬ」
「左様で」
「どうするかは、任せる」
「はっ」
ギルアスは、魔王に頭を下げながら、色男だなぁと思った。