9.キイ
「うあっ」
リアムが、声を上げた。
「リアム!」
ゲガが、叫ぶ。ゲガの視界は、頭上までは利くが、背中までは利かない。
「リアム!大丈夫なのか」「きゃはは!くすぐったい!」
「ヨサ?」
唖然とするゲガをよそに、リアムは楽しそうに、ころころと笑い声を上げた。
「ゲガ、大丈夫だよ!」
リアムは、言った。そう言われてもゲガには、状況が分からない。
「どう大丈夫なのヨサ!?」ゲガがそう言うと、
「キイ!」と、ゲガの目の前に小さな獣が姿を現した。
茶色い大きい眼玉、灰色の長い毛の、リアムを両掌に乗る位の大きさにした様な小さな獣だった。
「魔猿か・・」
ゲガが、少し気の抜けた様子で呟いた。今すぐ、命がどうこうという相手ではない。
魔猿は、キイキイと鳴きながら、またゲガの頭の上に戻って行く。
「わはは」
リアムが、楽し気な声を上げている。
ゲガは、また顔を顰める。
「お前、体は大丈夫なのかヨサ?」
「大丈夫だよ、ゲガ。わはっ」
魔猿と楽しくやっているようだ。エエイ!さっきまで苦しそうだったのに!なんなのヨサ!
リアムは、魔猿にキイと名前を付けた。
ゲガは、むっつり顔で、リアムとキイを背中に乗せて、進む。
「母さんは、事故で死んだんだよ」
リアムが、ぽつりと呟いた。
「そうかヨサ」
もう、半ば興味が失せているゲガ。キイのキャッキャという声に苛々と顔を顰める。
あとから出て来ておいて、ナンで俺様の背中に当然の様に乗ってるのヨサ!
「父さんはどうなのヨサ」
「父さんは生きてるよ。今、人間界に行ってる」
「へえ」
ゲガは、少し感心した。リアムが城住まいである事を考えると、幹部クラスで当然なのだが、人間界での仕事も任されているとは、結構上の方だ。
「キイキイキャッキャ」
「そうだよ。キイどうして知ってるの?」
「キャキャッキャ」
「そうなんだあ」
さも当たり前の様に、相槌を打つリアム。
ん?
ゲガが、顔を歪める。
「リアム、オマエ魔猿の言葉が分かるのかヨサ?」
「うん?ゲガは、聞こえないの?」
ゲガは、苛立つ。
「フ、フン。魔界共通語を介さない下等の者の言葉など、分かる必要ないのヨサ!」
「キャキャッ!」
キイが、牙をむき出しにして、ゲガの頭にかぶりついた。
「ゲギャー!!」
ゲガは絶叫して飛び上がった。