第一話 謎の婆さん
初めまして、作者の撓です。
最後までお付き合い頂ければ僕が喜びます。
「2億、2億6000万ギルです!これ以上の金額の方はいませんか!?」
興奮したような司会者の声と小さなどよめき声が遠くから聞こえてくる。それにしても嫌に喉が乾く。
「61番が2億6000万ギルで落札です!!皆様拍手を!!」
盛大な拍手を背景に憔悴した僕を置いて落札が確定した。
あぁ、やってしまった。これで明日から借金まみれだ。
積み上げた僕の札束が、黒服によって回収されていく。
手に入った物といえば、トスすると必ず表が出る…らしい古ぼけた金貨が一枚。これでなにをしろっていうんだよ。そう恨み言を呟きながら、この状況に叩き込んだ占い師のババアにどう文句を言うか考え始めた。
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「そこのアンタ、ちょっと待ちな」
薄暗い路地を一人で歩いているとふと声を掛けられた。
いつもなら無視してしまうのだが、日課の違法カジノで金を巻き上げることに成功した僕は非常に機嫌が良かった。
何のようだろうと、後ろを振り向くと小汚い婆さんが一人立っていた。
あぁ、なんだ。物乞いか。見るからに汚いし、ここ路地裏だし。
懐から1000ギル銀貨を取り出し、近付いてそっと手渡す。
大事なことだから2度いうが、僕はいつもはこんなことしない。機嫌が良かった。大抵のことはしてしまうくらいに。
「はい、お婆さん。これでいいかな?あんまり無駄遣いはしちゃダメだよ」
この僕が珍しく優しさを見せたというのに目の前の婆さんはそれを否定し、唾を飛ばしながら反論してくる。
「アンタ、なんか勘違いしてないかい?ワタシは物乞いじゃあないよ」
え、あんまりにも汚いから物乞いかとおもったよ。
「物乞いじゃないなら、体を洗う事をお勧めするよ。その・・ちょっと匂うかもしれない。勿論、僕は気にしないけどね」
「そんなに匂うかい?私は自分の匂いよりもアンタからするイカサマの匂いの方が臭いと思うがね」
「ん?何の話?僕は家まで近道をするためにここを使っているだけで、違法カジノとかは知らないよ?」
「ん?何の話だい?ワタシはイカサマといっただけでカジノとは一言も言っていないがね」
ブラフをかけてくるなんて・・この婆さん侮れない!
「まぁ、兎に角聞いてほしい話があるんだよ。因みにワタシの友人に闇カジノの経営者がいてね」
脅すきか!?この僕を!?
なんかだんだん気分悪くなってきたな。
そろそろ帰ろうかな・・
「んー、そうだな。僕用事があったの思い出した。そろそろ帰るよ。話も聞きたいけど・・そうだ、明日聞くよ!」
素早く切り替して話を変える、できる男の高等テクニックを見せつけつつゆっくりと後退を始める。
「ついでに更にもう1000ギルもあげよう」
すっと手に持っていたもう一枚の1000ギルを押し付け、そう言い残すと路地の出口を目掛けて走り出す。
やばい、どこで見られてた?ルーレットにはいなかったはず。
まぁいい。そろそろこの街も潮時だと思ってたんだ。
早いとこ次の街へ行こう。
「別にバラすって言ってんじゃないんだからちょっと落ち着きな」
後ろを振り返りながら走っていた僕は何かにぶつかって勢いよく尻餅をついた。
ふと、前を見ると見覚えのある老婆がやれやれと言った表情で立っているのが見えた。
逃げ足にだけは自信のある僕が追いつかれた!?
少し厄介だな。
仕方ない。アレを使うか・・
老婆から一切目を離さずゆっくりと懐に手を伸ばす。
「魔術はやめときな。対価を使うんだろ」
その言葉に対して僕は沈黙で返す。
誰にも言っていない秘術を見分けられている可能性があるからだ。
もしそうなら、格上だろう。これで警戒するなという方が無理な話というものだ。
「まぁ、一回話を聞きな。ジット・ダイバー。取って食いやしないよ」
ここは、話を聞くのが正解だな。うん。
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