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8:飛脚鳥①

※本作に登場する鳥知識はフィクションです。

 飛脚鳥という鳥がいる。


 ダチョウやエミューのような風貌で足が速い。空も飛べる。


 人を乗せることもできるため、フェニキア鳥聖国では最もポピュラーな乗用動物だ。


 さらに食用としても優秀だ。美味で繁殖力も高く、必然的に国内で最も多く飼育されている動物となった。


 優秀なバードテイマーの多くは国に雇われ、飛脚鳥の担当をする場合が多い。転じて、飛脚鳥の飼育に携わることがバードテイマーとしての一つのステータスになっている。


 というわけでやって参りました飛脚鳥の国営鳥小屋。国軍の騎鳥が飼育されている。


 ステフに脅迫されたことで外へ出て、アンジェと共に森の湖畔を散歩したことで外に慣れた。軍閥による暗殺の不安はあるものの、問題なく活動できる精神状態にある。


「今日は何をしに来たんだ」


「国に俺の有能さを示すため、ここのバードテイマー共にマウント取りに来た」


「お前は何をしに来たんだ…」


 アンジェの質問に俺が答えるとアンジェは呆れた顔をした。


「有能さを知ら示せば王命失敗しても処罰が軽くなるかもしれないだろ。失うには惜しい人材だってさ」


 アンジェは怪訝な顔をした。


「不死鳥テイムが失敗した時は、お前が不死鳥に殺されるときだろう?」


 と物騒なことを言う。


「そうとは限らないよ。不死鳥テイムは戦争終結が目的だから、戦争終結までに不死鳥が見つからない場合も王命失敗だ」


 その可能性が一番高いし、俺の中ではそうなる予定だ。


「お前、さては王命を遂行する気がないな!」


「おい!バカ!天下の往来で滅多なことを言うな!」


「今さらだと思うが…」


 ジト目でアンジェが非難する。


 いずれにせよ、俺の有能さを示すなら、国内で最も価値ある生物、飛脚鳥にまつわる仕事で利用価値を示すのが手っ取り早い。だから俺は今ここにいるのだ。


「それでどうやって有能さを示す?」


「単純だけど同時に使役できる飛脚鳥の数がバードテイマーの能力を表すから、視界内の飛脚鳥をテイムしてやればわかるはず」


「一目でわかるほどの数の違いがあるのか?お前と国のバードテイマーとで」


「……、それは知らない。考えてなかった。」


「おいっ」


「俺は自分が優秀なことは知ってるけど、他人の程度はなぁ」


「それは他人様に言うなよ。感じが悪い!」


「いや、だって道徳的にさあ!下を見ては行けないって言うしさあ!」


 俺の道徳を考慮したもっともな言い分にアンジェはなぜか処置なしとばかりに首を左右に振る。


 そんな俺とアンジェの気の通じ合った蜜月なやり取りに口をはさむものが居た。


「お前が他人の程度などとよく言えたものだな!トリガー・シタガウル!」


 聞き覚えのある嫌な声が響く。


「バージェス…」


 俺はげんなりする。


 バージェスは飛脚鳥に跨がり登場した。


「貴様まさか、ここの飛脚鳥の飼育に口出しするわけではあるまいな」


「…するわけないだろ。国のエリートバードテイマーに対して一体何が言えるというんだ」


「いや、トリガーは上から目線で口出しする気満々だぞ。マウント取って煽るつもりだ」


「アンジェ…どうしてバラすんだ。面倒なことになるだろ」


 俺はアンジェに抗議の視線を向けるが顔を背けられてしまう。


「ふざけるな!ここの飛脚鳥は国軍の騎鳥にも使われるのだぞ!貴様の軟弱さが感染ったらどうする」


 案の定、バージェスが俺を糾弾してきた。


「そんな事あるわけ無いだろ子供かよ。大体飛脚鳥は鳥類で最も生命力の強い生き物だぞ」


「だから軟弱になっては困ると言っている!」


「じゃああんたの飛脚鳥が馬鹿なのはあんたの頭が悪いからだな!」


「この仔は我がガイアス家が誇る英才だぞ!頭だっていい!」


 飛脚鳥は騎鳥としても活用される騎士の友だ。位や能力の高い騎士ほど専用の飛脚鳥を所有している可能性が高いし、とても大事にしている。バージェスも例にもれず、飛脚鳥を大事にしているようだった。


「飛脚鳥の脳みその大きさ知ってる?クルミくらいの大きさな上にシワが無いんだ。知性のある動物ほど脳みそにはしわがあるんだけどこの鳥にはないの。つまり馬鹿なの」


 俺の説明にバージェスが顔を真っ赤にして憤っているとアンジェが問うてきた。


「そうなのか?飛脚鳥は馬鹿なのか?」


 アンジェもまた、飛脚鳥に乗り戦場を駆ける者の一人だ。多くの騎士同様、鳥畜生に対して絆のようなものを感じているのだろう。


「馬鹿だね。飛脚鳥の馬鹿エピソードは枚挙にいとまがないよ」


 俺は非情な現実を口にする。


「致命的に記憶力がない。人の顔は愚か、同じ群れの家族の顔すら覚えられない」


「バカを言うな!こいつは誰が主人か理解しておるわ!」


「してないんだな、これが」


「なぜわかる。」


 アンジェの疑問に俺は丁寧に答える。


「飛脚鳥って野生では群れを作って生活する鳥なんだけど、群れ同士がすれ違う時何故か群れの人員が入れ替わるって現象が何件も報告されてるんだ。しかもそれに気づいた様子もない。理由は群れ同士の顔を覚えていないから。別の群れにつられてついていっちゃうんだ。あいつら群れ同士で争ったりもするのに意味分かんないよね。」


 群れの一羽が走り出せば周りの鳥も釣られて意味もなく走り始める習性をもってたりもする。


「ま、結局は熟練度の高いバードテイマーの能力が唯一の証拠だけどね。本当に飛脚鳥が仲間の顔を覚えているかどうかはどれだけ行動を見たところで証明はできないからね。記憶していないように見える行動を多数行った。行動実験を実施しても記憶してないように思える実験結果になっただけだ。もしかしたら人間が考慮していない要因があって、記憶力はあるのにそうは見えない行動を取っていた可能性は永遠にゼロにはならない。バードテイマーの能力で鳥の考えがわからなければね。」


 俺は早口で言い切った後、笑顔で言った。


「そう!熟練度の高いバードテイマーが居なければね!」


 俺みたいなね!


「つまり貴様らバードテイマーが飛脚鳥の評判を貶めたのか」


 バージェスが言う。


「なんでそうなるんだ!飛脚鳥はもとから馬鹿なんだよ。バードテイマー、とりわけ熟練度の高いバードテイマーがそれを証明しただけだ。アンジェもバージェスの馬鹿に言いがかりをやめるよう言ってくれよ!」


「いや、私も相棒の飛脚鳥が馬鹿だと言われるのはあまり気分が良くないんだが」


「なんだよ。馬鹿って言い方が良くないのか?じゃあ言い直すよ。正確には記憶力が悪くて知能が低いだ。」


「「なお悪いわ」」


 真実は必ずしも人に受け入れられるわけではないようだった。

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