表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/53

52:生贄候補④

 孤児院でアインに出会ってから数日後。俺達は占いババアの知恵を求めて探し回った。


 あのババアは立派な屋敷のある国家の重鎮のくせにめったに家にいない。結果、王都内を探し回ることになった。


 しかしなんとか今、ここで邂逅を果たした。


「テスカ様!アインを生贄にしない方法は!?」


「なっ、何じゃ!?」


 カエンは遭遇して早々、占いババア、テスカに掴みかかった。


 肩をわしづかみにされ、占いババアの体がガクガク揺れる。驚く占いババアにカエンは容赦なく畳み掛ける。


「アフリマン枢機卿に言われたんです!アインに!天職が!それで!儀式の生贄に!」


「わかった!わかったから肩を揺するのをやめんか!」


 カエンが手を離すと、テスカは肩を押さえながら深いため息をついた。


「それで何事じゃ。大枠の想像はつくが誤解しているとも限らぬ」


「カエン。私が代わりに説明しよう」


「そうねお願いアンジェ」


 冷静さを失っているカエンの代わりにアンジェが占いババアに経緯を説明した。さすが年の功というべきか、占いババアすぐに事情を理解した。


「アインの天職のことは知らなかったが、アフリマンの小僧いつの間に神眼貸与の段取りをつけおったのか…。だが、やつの提案は筋が通っておる」


 占いババアは気の毒にとでもいいたそうな表情だ。


「誰か身代わりは!?」


 カエンの言葉は切実だった。


「落ち着けカエン。気持ちはわかるが言い方に気をつけよ。身代わりなど大声で言うことではない」


「大事な身内のために見知らぬ他人に不利益を押し付けることが悪だとは思わないわ!」


「内容を否定しているわけではないわい。手段について苦言を呈しておる」


「どうにかする方法はないのですか!?年端もいかぬ子を生贄に捧げるなど」


 アンジェもたまらず口を挟んだ。


「むう…」


 占いババアは顎に手を当て、しばし黙り込んだ。やはり状況を打開する妙案など早々ない。


 カエンも当然それを察する。そして苦悶の表情の末、決然と言った。


「あっあたしが身代わりになるわ!」


「認められぬ」


 占いババアは即座に、そして意外なほど硬質な声音で言った。


「なっなんでよ!?」


 カエンはキッと占いババアを睨みつけて聞き返した。


「お前達はもう知っていると思うが、龍帝国が戦線にドラゴンを投入してきおった。お陰で我が国の軍隊は壊滅。国の中枢は地獄のようなお通夜ムードじゃ。ドラゴンに対抗できるのは不死鳥だけ。よってカエンの使命である不死鳥の卵の孵化とトリガーの不死鳥テイムの王命はその重要性が増したわけじゃ。しかし、それとて確実ではない。儀式が眉唾かもしれぬし、失敗するやもしれん。儀式に成功し、不死鳥が生まれても今度はテイムに失敗するかもしれぬ。そうした時に重要なのは不死鳥に頼らぬ人間の力じゃ。現状最も期待が寄せられているのは重騎士バージェスとお前じゃカエン」


「どうして…」


「バージェスはドラゴンと直接対峙して生き残った実績がある。そしてお前はドラゴンではないがその前身である火のワイバーンのブレスを操り反撃した実績がある。当然不死鳥が復活し、テイム出来たとてその有用性に変わりはない。そんなお前を生贄にすることは国がゆるさぬ」


 ドラゴンが脅威であるほど、国家はカエンを死なせるわけには行かない。


 翻って、孤児院の孤児アインはどうか。


 身元不確かな戦力にならない子供だ。


 転職持ちであるならば確かに将来、国家に大きな益をもたらす可能性がある。


 しかし現在国はドラゴンの出現により急転直下、存亡の危機だ。


 目先の安全が第一。未来の利益など待ってられない。


「あたしの命よ!好きにさせてもらうわ!」


「ならぬ!お前の命は国家の所有物であり聖火の意思の下にある。その生死とて自ら決めることは出来ぬ」


「っ!?」


 占いババアの言葉は国家の思想からも聖火教の教義からしても正論だった。カエンは返す言葉もなくうなだれた。


「じゃあ、老い先短い老人の天職持ちは?」


 俺は重い空気を変えるべく老い先短い天職持ちの占いババアに聞いた。


「お前、よく老い先短い儂に向かってそんなことが言えるのう。老い先短い転職持ちは皆、生贄にされない程度の権力地盤を固めている。生贄に捧げるのは難しい。既に候補がいるならなおさらじゃ」


 占いババア自身、権力地盤を固めた老い先短い天職持ちだ。説得力がある。


「富と権力をもった爺・婆ほど生に執着するからな」


 俺は皮肉を込めて言ったが、占いババアニは通じない。


「老いた貧乏人と違って楽しみがあるからの」


「老いた貧乏人に楽しみが無いみたいなこと言うなよ」


 占いババアのあんまりな物言いにさすがの俺も苦言を呈した。しかし、占いババアにはまるで効かない。


「あるのは不安だけじゃろ」


「やめたれ」


 そうして少しの軽口の後、占いババアは改めて言った。


「アインの件は儂にも思うところはある。あやつは能力もあるし人柄も素直じゃ。しかし、不死鳥の卵を孵化させるための儀式まであまりに期間が短すぎる。身代わりを用意することも代案を考えるのも難しい」


 占いババアの言葉は暗にカエンに諦めろと言っていた。カエンは力なくうなだれ、拳を握りしめた。 

ブックマーク、評価、いいね、感想等いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
占いババアがまともなこと言ってて驚きましたマジか!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ