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49:生贄候補

※本作に登場する鳥知識はフィクションです。

「天職持ちの捕虜がいない!?」


 カエンは聖火教の官吏からの報告を聞き、頭を抱えた。


「残念ですが、帝国の兵士、特に天職持ちは徹底的に訓練されているようで……皆、敗北を悟ると自害してしまうのです」


「なにそれ怖い!」


 帝国の教育に戦慄したカエンだったが、すぐに軍閥への怒りに変換された。


「だったら責任とって、軍閥の子飼いから生贄に捧げる天職持ちを出しなさいよ!」


「残念ですが、戦況が悪化しておりまして、その余裕はないとのことです」


「戦況が悪いならなおさら、不死鳥の孵化が重要事項じゃないの!」


「であれば、戦闘に寄与しない天職持ちを選定するようにと仰せでした」


 優秀な官吏は、カエンの反論も予想済みだった。


「もおおおお! 何なのよ! もとはといえば軍閥傘下のバージェス・ガイアスが悪いんでしょ! 竜騎士捕縛の邪魔して! 逃がして! 挙句の果てに戦況悪化!? ぷぎゃーーーーー!!!」


 カエンは怒りのあまり、その場でジタバタ歩き出す。


「どちらへ?」


 官吏が問う。


「バージェス・ガイアスのところよ!」


「彼には軍閥の働きかけで出兵命令が出ております。もはや生贄にすることは叶わないかと……」


「わかってるわよ!」


「では?」


「嫌がらせに行くのよ! 嫌味の一つでも言わなきゃ気がすまないわ!」


 官吏は一瞬きょとんとしたが、すぐに呆れ顔で答えた。


「承知しました」


 こうしてカエンはトリガーとアンジェを呼び、バージェスが療養する屋敷を訪れた。


「任務失敗して食う飯はうまいか!? バージェス!」


「任務失敗しておねん寝なんていいご身分ね!? バージェス・ガイアス!」


「な、何だ貴様らは!?我を侮辱すると許さんぞ!」


 場所はガイアス家の王都別宅。


 俺とカエンは胡乱な目で睨まれたが、聖騎士アンジェリカ・シルバリエが同席している以上、無碍に追い返されなかった。結局、室内に通されたものの、結果はこの有り様だ。


 重傷者に言葉で鞭打つ俺とカエンをなだめようと、アンジェが口を開く。


「まあ、なんだ……バージェス、貴殿に竜騎士逃亡とドラゴン覚醒の件、それと戦況について聞きたいのだが……」


「む、アンジェリカ殿。龍帝国のドラグーン捕縛任務を果たせず、挙げ句この様。実に恥ずかしい。医師より安静と厳命されておるため、この形での面会、赦されよ」


「ああ、気にするな。我らが無理を言ったのだし…」


「全くだぜ。何ドラグーン取り逃がしてんだ、恥ずかしい」


「ほんとよ。よくのうのうと帰ってこれたわね! 恥知らず!」


「おい黙れ貴様ら!」


 アンジェのフォローは俺とカエンによって無に帰す。


「あんたのせいで不死鳥の卵の生贄がいないのよ! 責任とりなさいよ!」


「そうだそうだ!」


「うるさいぞ! 何だお前たちは! 確かに任務には失敗したが、その責任をお前らに追及される筋合いはない! だいたい不死鳥の卵と我が任務の失敗に何の関係があるというのだ!」


「関係あるに決まってるでしょ! 責任も非難も山ほどあるわよ!」


「な、何っ!?」


 バージェスは怪訝な顔をした。


 俺はすかさずカエンを援護するため、声をあげた。


「アンジェ、説明してやって!」


「えっ!? 私がか!?」


 アンジェの目が豆鉄砲を食らったようにまん丸になる。


「そうよ! 今あたし冷静に説明できる状況じゃないもの!」


「俺が話すと逆にバージェスが冷静でいられなくなるだろ?」


 俺とカエンの理屈を聞いたアンジェは「確かにそうだが……」と嫌そうな顔をした。


 完全に巻き込まれたくない表情だ。


 しかし。


「アンジェリカ殿、お願いできないだろうか」


 バージェスにまで頼まれてしまった。


 全員の視線を受け、観念したアンジェは仕方なく説明を始めた。


 不死鳥の卵には天職持ちの生贄が必要で、その生贄は自らの意思で生贄にならねばならないこと。


 捕縛予定だった竜騎士は、どうせ非人道的に情報を聴取されるのだから、そのまま生贄になるよう洗脳できたこと。


 だからこそ必死に探し、せっかく追い込んでいたのに……バージェスの横槍で台無しになったこと。


 アンジェは滔々と語りきった。


「……なるほど、よく分かった」


 説明を聞いたバージェスは神妙にうなずいた。


「それは……、言いがかりというものだな」


 バージェスは涼しい顔で言い放った。


「なんですってぇぇ!?」


「貴殿が竜騎士を追い込んだ証拠はなく、私がその機会を潰した証拠もない。そもそも証明が不可能だ。それに、私は援助要請を受けて現地に赴いたのだから、非難される筋合いはない。」


 要するに、「俺は悪くない」の一点張り。


 バージェスの立場からすれば尤もなのだが、カエンにしてみればムカつく開き直りだった。


「少しは悪びれなさいよォォ!!」


そしてカエンが大暴れし、ガイアス家の使用人たちにとっ捕まって屋敷を追い出された。



 ガイアス家の別宅を出て、少し歩いたところ、通路の脇に見知らぬ人物が立っていた。


 肩幅が広く、背の高い男だ。真っ白な髪を後ろになでつけている。総白髪は人を老けて見せるが、肌艶が良くて年齢が読めない。目は細く、目尻が下がっているせいか、どこか柔和な雰囲気を纏っている。


 男は俺たちに気づくと、すっと体をこちらに向けて口を開いた。


「待っていましたよ、カエン」


 カエンは驚いて声をあげた。


「アフリマン枢機卿……!」


 だが、俺の意識は別のところに奪われていた。醜悪な見た目の生き物が男の近くの木塀にとまっている。


「うわっ……何だこのキモい生物は!?」


 思わず本音が漏れる。


「失礼よ! 訂正しなさい!それと、その鳥はタチヨタカよ!」


 カエンが慌ててフォローした。どうやら、あのキモい生物はタチヨタカという鳥らしい。確かに名前は聞いたことがあるが、実物を見るのは初めてだ。


 目がギョロッと大きく、顔の両側に突き出している。しかも左右別々の方向を見ている。嘴は異様に小さいのに、口だけ妙に大きく裂けている。いたたまれないほどの異様さだ。


「これがタチヨタカか……噂には聞いていたが、ひ、ひどい見た目だな。恐れ入る。というか、こいつ本当に鳥か? 俺の天職が反応しなかったんだが?」


 普通、鳥なら俺の天職が何かしら反応するはずだ。だがこのタチヨタカにはまるで反応しない。


「だから、失礼よ! アフリマン枢機卿、申し訳ありません。こいつは馬鹿で礼儀知らずなだけで、悪気があるかどうかは判然としないと言うか……」


 カエンは必死にフォローするが、いまいちフォローになっていない。だが、男は鷹揚に頷いた。


「大丈夫ですよ、カエン。よくあることですから。慣れています。トリガー・シタガウル殿、この鳥は私がテイムしているんですよ」


「え?」


 そこで初めて、俺は見知らぬ男性に目を向けた。


「はじめまして。トリガー・シタガウル殿。枢機卿ゾロア・アフリマンです。お噂はかねがね耳に届いております」


「は、はじめまして、アフリマン枢機卿。トリガー・シタガウルです。大変失礼を……」


 国家のほとんど最高位に位置する権力者に俺はしどろもどろに詫びを口にする。アフリマンは柔和に微笑んだ。


「私のバードテイマーとしての能力は少々歪でしてね。一体だけしかテイムできませんが、その代わりに他のバードテイマーの影響を受けないほど強く拘束します。もしかしたら、そのためにトリガー殿の天職でも鳥だと判別できなかったのかもしれません」


 一体しかテイムできないのに、わざわざこんな化け物鳥を選ぶとは…。やはり権力者はどこかおかしいのかもしれない。


 俺の天職が反応しない理由はわかったが、そんなことよりこの枢機卿はなぜこんなところにいるのか。ソッチのほうが重要だ。粗相をしそうで怖い。早く要件済ませてどっか行ってほしい。


 俺が狼狽していると、アフリマンはやがて要件を口にした。


「生贄探しに難航しているようですね」


 アフリマンはカエンに向けて言った。


「……はい。恥ずかしながら、候補がもう尽きてしまって」


 どこか恐れを含んだ声で、カエンは答えた。だがアフリマンの表情は変わらない。柔和な表情のまま、ゆっくりと解決策を口にした。


「君に提案があって来ました。アーダル孤児院のアイン、彼女が天職を授かっていることが分かりました。彼女を生贄に捧げましょう」


 その言葉を受けてカエンは顔を青ざめさせた。

珍鳥として有名ですがご存じない方はタチヨタカで検索してみてください。インパクトのある見た目をしていておもしろいので。

あと、キツツキ同様、タチヨタカは属の名前であって、種の名前ではないです。


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ググったらカメレオンみたいなギョロ目が怖いけどヒナはかわいい
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