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45:カエンの金策 終

「カッカッカッかっ!大成功じゃ!笑いが止まらぬ!」


「おめでとうございます。それで我々の取り分は・・・」


 上機嫌に笑う占いババアの前で揉み手をして謙るカエン。


 二人は炎色反応とアーダル孤児院の子供たちを使って、目当ての土地にあらぬ噂をたてた。そして噂によって怯えた持ち主から市場価格より相当低い価格で購入することに成功していた。


「ほれ!色を付けておいたぞ!」


 占いババアはカエンに成功報酬を渡した。


「ありがとうございますありがとうございます!これで我がアーダル孤児院もしばらく安泰です」


 喜色満面でカエンは報酬を受け取りそそくさと懐にしまい込んだ。


「テスカ様、カエン…。孤児院の子どもたちの生活のためとはいえあまり褒められた行為ではありません。そうも晴れやかというのはいかがなものかと…」


 孤児の生活のためという崇高な目的があるとはいえ、不道徳な行いによって金銭を得たことになんら後ろめたさを感じない二人の態度にアンジェは思わず苦言を呈した。


「そうは言うがなアンジェ。儂に売却するときの地主の様子を見たか?震える両手で儂の手を握り、深く頭をたれ、まるで拝むようじゃった」


「感謝を超えて恩義すら感じているようだったわ!あの地主は信仰をより深めたことでしょう」


 噂がよっぽど怖かったのか、買収時に持ち主から感謝を受けている。感謝の言葉は震えていて不安の強さと救われた安堵がひしひしと伝わってきた。マッチポンプに加担している身としては心痛む光景だったが、占いババアとカエンには何も感じられなかったようだ。


 そして占いババアとカエンは口を揃えて言った。


「「つまり、これは善行よ」」


 いけしゃあしゃあと胸を張ってのたまう。これは善行だと。


「ぐっ、しかしだな…」


 生真面目なアンジェはどこかおかしいと感じていても言葉に窮した。


 翻って二人の口はよく回る。人が最も創造力を発揮するのは言い訳をするときと聞くが、二人を見ているとなるほどと納得させられる。


「さらなる善行を積むとしようかのう。売却の決め手となる噂を流してくれたアーダル孤児院の子供たち。あの子達をうちで雇おう!」


「ありがとうございます。これで子供たちの未来も安泰です!」


 占いババアの宣言にカエンは両手を上げて喜んだ。当面の孤児院の運営資金が入っただけでなく、孤児たちの働き先まで決定した。今後定期的な収入が見込まれる。


 カエンの抱えていた問題がすべて解決されたと言える。


 完全に裏稼業だが、職につけずに社会に放り込まれたら犯罪者になるくらいしか生きるすべがない。というか諜報員とはいえ占いババアという大物貴族の家に就職できるというのはかなりの出世コースだ。高待遇が約束されている。


 文句のつけようもない就職先といえる。


「迷える子羊達に救いの手を差し伸べる。まさに聖職者の本懐じゃ」


「そっそれでも…」


 自画自賛する占いババアにアンジェはいまだ抵抗の姿勢を見せている。


 地主もあくどい商売をしているやつだったし、多少損したところで蓄えのある人間でもある。だからといって不道徳を許していいかと問われれば否であるかもしれないが、今回のマッチポンプ手法は別に法律に禁じられているわけではない。


 だからこそアンジェもはっきりと断罪できないのだ。


 道徳も不道徳もぶっちゃけ個人の好みである。アンジェは納得しないかもしれないが、考えるだけ無駄なこと。


 今はただ、カエンを悩ませていた問題が解消され、アーダル孤児院の未来が明るくなったことを祝福すればいい。


「まあ、アンジェ。お前の気持ちもわかるけどさ、地主はいらなくなった土地が売れた。占いババアは安く土地を買えた。カエンは当面孤児院の運営資金と孤児たちの働き先を確保した。みんなハッピー。それでいいじゃないか」


「まあ、そうか。そうだな」


 俺の言葉にようやく納得したのか、アンジェは入っていた肩の力を抜いた。


「何よトリガーもたまにはいいこと言うじゃない!」


「ところでカエン」


 調子よく俺の言葉に乗っかるカエンに改めて声をかけた。


「何よ?」


「紹介料と相談料よこせよな」


「なんでよ!?」


 信じられないと言った表情で非難の声を上げるカエンに今節丁寧に説明する。


「あれあれ?この最高の結果が得られたのは誰のおかげかな?占いババアを紹介し、炎色反応とその活用方法の原案を思いついたのは誰かな?そうっ!俺です!」


「金取るなら先に言っときなさいよ!」


「諦めろカエン。人に相談するというのはそういうことじゃ。成功報酬なだけ優しい部類じゃ。支払っておけ」


「ぐぬぬぬぬ。わかりました。支払います。トリガー、アンジェありがとう。あんた達のおかげよ」


 占いババアの鶴の一声で俺とアンジェも成功報酬を貰えることとなった。


 そして俺はカエンから報酬を受け取る直前のアンジェに声を掛ける。


「これでアンジェも共犯な!」


「なっ!?お前!?あれほど問題ないと言っておいて…ぐっぬぬ。やはり私は受け取らん」


 俺達のやり取りを見てカエンは嗜虐的な笑みを浮かべた。


「アンジェ!成功報酬を是非受け取って頂戴!私は心をいれかえたの!」


「受け取らないと言ってるだろう!どうしたんだ!?あんなに支払いを渋っていたのに!」


「安心してアンジェ!これはあなたが思ってるような汚いお金じゃないわ!至ってクリーンよ!受け取って!」


「怖い!そう言われると余計に後ろ暗いものがあるんじゃないかと思えてしまう!嫌だ受け取らない!」


 報酬をカエンに押し付けられたアンジェの悲鳴が響き渡る。そんな俺達の様子を呆れた様子で占いババアが見ていた。


「何をやっとるんじゃ」


かくしてカエンの、アーダル孤児院の問題は解消された。

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