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44:カエンの金策3

 占星術師と権力組織としての聖火教には軋轢がある。占星術師も聖火教の信者の一人ではあるが、その天職の希少性と未来を予知する能力からバードテイマーとも火炎術士とも違う象徴的立場を手にしている。


 国家の相談役という重役を担っているにも関わらず、国家を傾け、聖火教の信用を傾けかねない事件を引き起こしたり、単純に枢機卿を始めとした上役神の官たちを尊重しない。


 それどころか公然と批判することすらある占星術師は聖火教の上層部にとって忌まわしい存在である。


 下っ端の神官や市井の信徒どもからはまあまあ好かれているが少なくとも目の敵にされるようなことはない。しかし役職が上がるほど、占星術師を忌み嫌うものは増えていく。


 今代占星術師である占いババアことテスカ・トリポカもその例に漏れず、司教であるカエンに疎まれていた。


「あんたが聖女の称号を鼻で笑ったせいで拝命の儀式は台無しよっ!!」


「そりゃ笑うじゃろ。なんじゃ聖女ってw」


「むきぃいい!」


 カエンはハンカチを噛み締め、地団駄を踏んで悔しがった。実に行儀が悪い。


「やめないかカエン。これから助言を請うのだぞ」


 憤るカエンをアンジェがたしなめた。


「いやアンジェ、占いババアに関してだけはその限りじゃない」


 俺はアンジェに耳打ちした。


「どういうことだ?」


 怪訝な顔をするアンジェ。俺は回答しようとしたが、その間もなく、占いババアが話を続けた。


「アンジェの言う通りじゃ。お前儂に依頼があるのじゃろ?それが人にものを頼む態度か?」


「ぐぬぬぬ」


 するとカエンは本当に悔しそうに頭を下げて言った。


「申し訳ございません。この通りです。アーダル孤児院の経営再建のためお力をお貸しいただけますでしょうか」


「かっかっカッ!いくつになっても生意気な小娘に頭を下げさせるのはたまらんのう!」


 占いババアは高笑いしてそう言うと上機嫌にカエンの依頼を引き受けた。


 アンジェがことの流れに納得がいかない顔をしていたので俺は説明した。


「占いババアは性根がひん曲がってるから。素直にお願いしてもつまんなそうに断るだけなんだよ。けど、カエンみたいに嫌々ながら依頼してくる相手には機嫌よく依頼を引き受けるんだ。曰く、嫌がる相手を権威と実力で屈服させた感じがたまらないそうだ」


「ぐっ占星術師ともなると私のような凡人には理解しがたい思考を持つものなのだな…」


「いや、ただ占いババアの性格が悪いだけだよ。個人の資質だよ」


 アンジェは俺の言葉に遠い目をした。わかるよ。王の相談役たる占星術師が人の不幸を喜ぶ性悪なんだ。国家の未来が心配だろう。


「ではカエンの態度の悪さはテスカ様の性質を見越して…」


「いや、本人の資質だろ」


「ところでヤキトリはどうしたんじゃ?連れてきていないのか?」


 カエンの依頼についての経緯について話す前に占いババアは聞いてきた。ヤキトリは王命に関わる重大な手がかりだ。こんなやつでも気になるようだ。俺は事情を簡潔に話した。


「交尾の日だ」


「なるほど」


 基本的にヤキトリは外出したがるし、俺にはヤキトリを監視し、生命を保護する役目がある。外出するときはいつも行動を共にしているわけだが、交尾の日は別だ。


 不死鳥を想起させるヤキトリの後継には強い興味が国から注がれている。


 ヤキトリ自身も性欲旺盛なため、交尾の日を設けてメスの飛脚トリを集めた乱交パーティーが月に一度、1日中開催される。


 体力オバケの飛脚鳥といえど普通は1日中交尾などできない。しかし、ヤキトリには無尽蔵とも思える性欲と体力があった。


 毎日交尾させないのはヤキトリの体調をおもんばかっての国の配慮だ。


 さて俺にはヤキトリが逃げたりしないように行動を制限する役割が期待されているため、基本的にヤキトリのそばを離れられない。他にヤキトリをテイム能力で行動を強制停止させられるバードテイマーがいないからだ。


 しかし、交尾に関することに関してだけはヤキトリはとても従順になる。交尾の日だけは別のバードテイマーが俺の仕事を引き継ぐ事ができ、俺はヤキトリのおもりから解放されるのだ。


「しかし、孵化した雛からは火の発現も発話もないそうじゃな」


 最近は卵も孵化し始めていて、ヤキトリJrが大量に誕生している。しかし残念ながら火をまとったり、人語を話すという結果は聞こえてこない。それでも何か国益に適うものが生まれてくると期待して今日もヤキトリにメスをあてがい続けている。


「生まれた雛、コーカサスの岩山連れて行けよ。特殊能力身につけるの大体そこだろ」


 アヒル時代のヤキトリが発見されたのはコーカサスの岩山付近だったし、ワイバーンが火を吹くようになったのも、アヒルから飛脚トリに人格と発火能力が写ったのもコーカサスの岩山での出来事だ。


 そもそも神話でもコーカサスの岩山は不死鳥誕生の聖地として謳われている。俺じゃなくても関係を疑うだろう。


「ヤキトリの雛はおろか、他の飛脚鳥すらまだ入れない状況でのう」


 仮にも創世神話の生地に敵国の潜入を許した事件は国内ではとても重く捉えられている。


 実に今更の話だが、現場検証及び、警備の強化に躍起になっている。


 その対応自体は当然のことだが、問題は飛脚鳥を大量にコーカサスの岩山につれていきたい連中と、警備強化と現場検証のための現場保存を優先したい奴らとで大揉めしているらしい。


 不死鳥の手がかりについてはしばらく進展しそうにない。


「何を笑っている」


「笑ってない」


 忘れがちだが、俺は不死鳥テイムの王命に後ろ向きだ。


 不死鳥なんて神話の怪物、俺のバードテイマーの天職でテイムできる保証なんてない。テイム失敗するだけならともかく、気を損ねた不死鳥に殺される可能性だってある。


 そんな俺にとってはヤキトリJrに火の発現や発話が見られず、コーカサスの岩山に連れて行かれない現状は都合がいいのだ。無意識に口角が上がってしまうのも無理はないだろう。


「そんなことよりカエンの依頼の話をしようぜ」


 俺は話を変えた。カエンはウンウンと首肯し、依頼内容と俺達の話し合いの経緯について占いババアに語った。


「さて事情はわかった。炎色反応による商売は実に面白い!」


 今までの商売案などを話していくと占いババアは聖別した焼き鳥とそのパフォーマンスについてのアイデアをいたく気に入ったようだった。


「ですが、その商売は聖火教の権力者たちが良い顔をしないのではないでしょうか。一時的に儲けが出ても将来的にはマイナスと申しますか…」


 アンジェが焼き鳥の聖別パフォーマンスの問題点を念の為に口にすると占いババは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「ふんっ、そんなことはわかっとる。着想が面白いと言ったんじゃ」


「なにか思いついたの!?」


 カエンが期待した目で占いババアを見る。


「まあの。耳の穴かっぽじって聞くがよい」


 そして占いババアは話始めた。


「実はどうしても購入したい土地がある。その土地に夜中、炎色反応で紫にした火の玉を飛ばすんじゃ。そのうち悪い噂が広まれば、地主から安くその土地を買い取れるという寸法じゃ」


「またマッチポンプ!」


「地上げ屋じゃねえか!」


 アンジェと俺が批難の声を上げるが占いババアはそれをシカトし、真摯に聞き入るカエンに向けて話を続けた。


「単発な的な仕事になるが、収入はその分高くしよう」


「いくらなの?」


「耳をかせ」


 占いババアに耳打ちされたカエンは恐ろしい話でも聞いたかのように目を見開いた。


「孤児院5年分の予算…」


「この仕事をやり遂げたあとは5年かけてゆっくりまともな収入源を探すとよいじゃろう」


 占いババアの提示した報酬にカエンがノックアウトし、話がまとまりそうだ。


 しかし、良識持つアンジェは納得がいってないようだった。


 道徳的な側面を非難したいのだろうが、それをぐっとこらえて、計画の問題点を指摘した。


「ですが悪い噂なんてそう簡単に広がりますか?仮に広がるとしても時間がかかるでしょうし」


「何を言っておる。噂の自然発生なんざ待ってられるか!噂は自発的に流すもんじゃ!」


「では誰が噂を流すのですか?」


「ちょうどいいのがおるじゃろ?」


 邪悪な笑みを浮かべる占いババアにアンジェはまさかと顔を青くさせ、カエンは覚悟を決めた表情をした。果たして占いババアは言った。


「アーダル孤児院のガキどもじゃ」

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