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43:カエンの金策2

「路上で子どもたちが讃美歌を歌って、寄付を募るのはどうだ?」


 アンジェが提案した。


「たまにイベントとしてやる分にはいいと思うけど、それだけじゃ安定した収入にはならないんじゃないか?」


 俺の言葉に、アンジェはがくりと肩を落とす。


「そうよね……。でも、一時的にでも収入が見込めるなら、やってみる価値はあるわ。ありがとう!」


 アンジェの案に、カエンが予想外に前向きな姿勢を見せた。それを見て、アンジェは少し照れたように小さく微笑む。


「そ、そうか。力になれたなら良かった」


 カエンの強い要望で、俺たち3人は顔を寄せ合い、孤児院の経営立て直しについて真剣な議論を交わしていた。


「普通に子どもたちに物乞いさせたらいいんじゃないか?『あなたの寄付金が、この子の今日の食事になります』とか書いた看板を持たせてさ」


 俺が冗談めかして言うと、カエンが目を吊り上げた。


「うちの子たちに何させようとしてるのよ!」


「声を荒げるなって。物乞いだって立派な生き方だろ!それに、寄付を募るのだって、物乞いと大して変わらなくないか?」


 俺の言葉に、カエンはぐっと言葉に詰まる。


「そうだけど、そうじゃないのよ!」


「おいっ!バカ!トリガー!不用意なこと言うな!聞いてるのがカエンじゃなければ、異端審問ものだぞ!」


 アンジェが怒鳴り、俺の脇腹を小突く。


「落ち着け、アンジェ。俺だって言う場所と相手はわきまえてる。それより、なんでカエンの孤児院はそんなに経済状況が悪いの?普通の司教ってだけで寄付金は集まるのに、お前、聖女って称号まであるんだろ?」


「そんなの、私が聞きたいわよ!」


 カエンはそういい頭を抱えた。


 通常、司教という役職があれば、地元で信心深い信徒からお布施が集まるものだ。


 王都には残念ながら司教どころか枢機卿までいるため、他所ほど集まらないのは理解できる。


 だが、聖女という希少な称号を持つカエンならば、その存在にあやかって多くのお金が集まりそうなものだ。にもかかわらず、実際には集まっていない。


 とはいえ現状、これ以上考えても仕方ない。まずは具体的な商売のアイデアを出し合うことに集中しよう。


「俺の商売で『青い鳥から抜けた羽を装飾品にして売る』っていう構想があるんだけど、その羽拾いを子どもたちに頼むとか?」


「それよ!」


 俺の提案に、カエンの目が輝いた。だが、この案にも問題がある。


「でも、羽に対して払えるお金なんて微々たるものだぞ。俺の商売の売れ行きにも左右されるしな」


「わずかでも安定収入はありがたいわ!でも確かに、それだけじゃまだ不安ね……」


 カエンは再び顔を曇らせる。


「うーん……というか、当事者のカエンも何か案を出せよ」


 俺に話を振られ、カエンは腕を組み、考え込み始めた。


 孤児院の財政状況については、俺たちに相談に来る前からずっと頭を悩ませてきたはずだ。それでも良い案が思いつかなかったからこそ、俺たちに助けを求めてきたのだろう。すぐに案を出せないのも無理はないのかもしれない。


 しばらくの間、俺とアンジェはカエンが口を開くのを待った。しかし、カエンは考え込んだままだ。だんだんと肩を縮こませ始め、額にはうっすらと汗が浮かび上がる。眉根は寄り、顎に梅干しのようなしわができていた。


 悩み続けるカエンに、俺は助け舟を出す。


「なんでもいいんだよ。お前の孤児院ならではのこととか、あとはお前の天職のこととか。火を使った芸とか、何かできないのか?」


「うーん、炎色反応とか?」


「なにそれ?」


 俺は首を傾げた。


「ふふん!」


 カエンは先ほどまでの落ち込んだ態度から一変、懐からマッチを取り出し、得意げに話し始めた。


「見てなさい!この美しき青緑の炎……これは銅の炎色反応!」


 カエンの披露した神秘的な炎に、アンジェが感嘆の声を漏らした。俺も思わず目を見張る。


「火に特別な粉を入れると、火の色が変わるの!紫や黄緑なんかもあるわ!」


「幻想的だ!この炎だけでも商売になるんじゃないか!?」


 アンジェは興奮して言った。


「残念だけど難しいわ。この炎色反応は、本来聖火教の秘儀なのよ。もう廃れたけど、神明裁判に使われていたの。金銭目的で見世物にすると、異端扱いされかねないわ」


 カエンは、炎色反応を商売に使用できない理由を詳しく語った。


 神明裁判とは、神意を得ることで真偽や正邪を判断する裁判方法だ。古い聖火教では、神意を得る方法として火が使われたらしい。火の色が変われば無罪、変わらなければ有罪。しかし、この裁判方法は、炎色反応の存在を知った高位神官に悪用され、やがて廃れていったという。


「そうか……それでは、気軽に商売道具として使うわけにもいかないな」


 アンジェは残念そうに呟いた。しかし、俺の認識は少し違っていた。


「なあ、鳥を燃やしたら炎色反応起きたりしないか?聖別した焼き鳥として売ろうぜ!」


 様々な色の炎で調理する場面を路上でパフォーマンスすれば、集客もバッチリだろう。


「……ごくり」


 カエンが思わず喉を鳴らした。


「トリガー、お前は話を聞いていなかったのか!?炎色反応は商売には使えないんだ!カエンも『ごくり』じゃない!しっかりしろ!それは悪魔の誘惑だ!」


「聖火教のお偉いさんに怒られたら、それこそ神明裁判しようぜ!火の色が変われば無罪なんだろ?」


「なるほど、一理あるわね……」


 カエンが据わった目で頷いた。


「目を覚ませ!炎色反応を起こすにしても、そのための粉を撒く隙が与えられなければどうしようもないだろ!それに、神明裁判だろうとなんだろうと、お偉いさんの都合の良いように細工されるに決まってるんだ!」


「まあ、そうだけど、アンジェのほうがよっぽどヤバいこと言ってるよな」


 俺は呆れ顔で言った。


「アンジェリカ・シルバリエ……言動には気をつけたほうがいいわよ」


 カエンがにこやかにアンジェを嗜める。


「お前たち……っ!?」


 たしなめる俺とカエンに、アンジェは不満をあらわに歯ぎしりをして拳を握りしめていた。


「ま、まあ冗談はこの辺にして……」


「冗談だったのか!」「私に頭まで下げさせて、冗談言ってんじゃないわよ!」


 二人の不満の声を無視して俺は提案する。


「俺たちだけで考えても埒が明かなそうだし、もっと適任者に聞こうぜ」


「「適任者?」」


 二人の疑問に俺は答える。


「占いババア」


 その回答に、アンジェは納得の表情を浮かべたが、カエンは嫌そうに顔をしかめた。

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