42:カエンの金策1
「金よ!金がほしいッ!」
開口一番、屋敷の扉を開けて放たれたカエンの絶叫に、俺とアンジェは思わず顔を見合わせた。
「来て早々何言ってんだお前…」
「世の中カネヨ!」
俺のツッコミを無視して、カエンは金、金、金と連呼する。
あまりの勢いに、真面目なアンジェがたしなめに入った。
「いや、それは極端すぎるだろう。聖火教の教えにも“清貧を尊ぶ”とあるはずだが…」
「そんなの建前よ! 現に聖火教は“献金”って名目で、信徒から労働の報酬の一割を徴収してるわ!結果として、一番金を持ってるのが聖火教よ!」
「それは…事実かもしれんが、それを司教が堂々と言うのはどうかと…」
「それくらい逼迫してるのよ! トリガー・シタガウル!あんた、小賢しい金稼ぎが得意なんでしょ? 知恵を貸しなさい!」
「小賢しいってなんだ!?誰に聞いた!? それにそれが人にものを頼む態度かよ!」
「カエン、まずは落ち着け。事情を話してみろ。なぜお金が必要なんだ?」
「どうせ散財したんだろ」
「違うわよ!」
カエンの話によれば、彼女の管理する孤児院が今、資金難で苦しんでいるらしい。
自分で稼ぐ方法を求めて知恵を借りに来るのは立派だが……俺には助けてやる義理もメリットもない気がする。
「そんな事情があったのか…」
カエンの話を聞いたアンジェは俺とは反対の印象を持ったようだった。アンジェは目を潤ませながらカエンを見つめた。こういう人情話にめっぽう弱いんだよな、こいつ。
「トリガー、お前の商売で人手が足りてなかったりしないか?」
「えぇ…。これ、もう俺が手伝う流れ?」
渋る俺に、アンジェは諭すように言った。
「なあ、いつも欲望のままに振る舞ってるだけじゃ飽きるだろ? たまには人のために働くのも、悪くないと思わないか?」
「えっ、俺、そんな風に思われてたの!? いや、別に俺だって人のために動くことあるし! 欲望だけじゃないし!」
「なら——」
「けどな! 儲け話ってのは、そう簡単に転がってないの! 知恵を出すのも実行するのも手間がかかるし、なぜそれをタダで提供しなければならない? 見返りもなしに引き受けられるかよ! しかも何度も言うが、カエンの態度!誠意ってもんがまったく感じられないね!」
俺が言い終えるや否や、カエンはその場に正座し、床に額をつけるほど深く頭を下げた。
「えっ…」
「カエン…」
予想外の行動に俺は固まり、アンジェは慌てふためく。
「自分の都合ばかり押しつけて、ごめんなさい。トリガー・シタガウル様、アンジェリカ・シルバリエ様……どうか、どうか、お力を貸してください」
「カ、カエン! 頭を上げてくれ! 私は、もちろん力を貸すから!」
あたふたするアンジェをよそに、俺は大きくため息をついた。
「……くそっ、わかったよ。知恵を貸すだけだからな!」
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