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41:カエンの抗議

※本作に登場する鳥知識はフィクションです。

 宮廷の一室、聖火教の官僚がその職務を遂行するための執務室にカエンの声が響く。


「強い抗議と処罰を!ガイアス・バージェス!アレの乱入がなければ帝国の竜騎士を捕縛できていたのに!そうすれば不死鳥の孵化に必要な生贄も用意できたかもしれない!これは大きな失態であり、聖火教への背信行為とも解釈できます!強く抗議と処罰を!」


「落ち着いてくださいカエン司教、抗議はすでにしておりますし、処罰も求めております。ただ、竜騎士の逃走がガイアス・バージェスに起因する証拠がないため、実際に罰を与えることは難しく…」


「なんでよ!アイツがあたしの火の玉を潰さなければ捕縛できたのよ!」


「ですからそれを証明することができないと…」


 カエンの剣幕に不運にも居合わせた官僚は気圧されながらも気丈に対応している。周囲の職員は触らぬ神にたたりなしと我感せずで遠巻きにしていたが、そこに割って入るものが現れた。


「元気そうですねカエン・バーナー」


 声の主にカエンは視線を向けた。その人物は肩幅広く長身の男性だった。頭髪は真っ白で後ろに撫でつけている。総白髪は人を老けて見せるが肌艶が良く年齢が読み取れない。目が細いが、目尻が下がっているからか柔和な雰囲気を醸し出している。


 肩には醜い鳥が鎮座している。アフリマンが使役する鳥、タチヨタカだ。タチヨタカはギョロリとした大きな目と嘴の小ささに反比例した大きな口が目元まで裂けている。怪鳥と呼称されることもある奇妙な鳥だ。


「アフリマン枢機卿…」


 国家の重鎮にして聖火教に7人しかいない枢機卿の登場に興奮していたカエンもトーンダウンする。


 カエンの剣幕につきあわされていた官僚はアフリマンの登場でカエンから開放されると安堵した。


「カエン・バーナー、声を荒げてもあなたの望みは達せられませんよ」


「はい…」


 カエンは今までの気炎を引っ込め、殊勝に頷く。


「とはいえ聖女たるあなたの立場を考えればその気持もわかります。私からもガイアス家とそれに連なる関係者達には強く抗議しておきましょう」


「はい。ありがとうございます」


 アフリマンは不死鳥の卵と孵化方法をコーカサスの岩山から発見してきた張本人だ。


 トリガーはそのことに疑念を抱いているが、カエンはアフリマンを信用していた。


 カエンにとってアフリマンは直属の上司であり、アーダル孤児院に多大な寄付を包む最大のスポンサーでもある。そんな恩義あるアフリマンに対して根拠もなく疑念を向けることはない。


「ところでトリガー・シタガウルとアンジェリカ・シルバリエと順調に親交を深めているようですね。彼らは君の使命についてどんな反応をしていますか」


「トリガー・シタガウルに不死鳥の孵化には天職持ちの命が必要と伝えたところ、かなり怯えて警戒を示しました。とても利己的で自己保身を優先する人格の持ち主で自ら生贄になることはないと思います。アンジェリカは怯えこそしませんでしたが、彼女もまた生贄になることはないでしょう」


「ああ、誤解させてしまいましたね。はじめから彼らを生贄にするつもりはありませんよ。不死鳥孵化後にはそれをテイムする人間とテイム完了まで護る人間が必要ですから」


 カエンはアフリマンのその言葉に少し安堵したように息を吐いた。


「私はただ彼らをとおして王のお考えを推し量れればと思っているだけです。引き続き彼らの動向について報告をお願いします」


「はい」


 アフリマンはカエンの返事を受けて、懐から包を取り出した。


「それとアーダル孤児院への寄付です。少なくて申し訳ありませんが枢機卿とはいえ、自由にできるお金は少ないものですから」


「そんな いつもありがとうございます。子どもたちも喜びます」


 カエンは寄付金の包みを両手で受取り頭を下げた。


 そしていくらか言葉を交わした後カエンは退室した。


「やっと帰りましたか・・・えらい目にあいました」


 カエンの陳情を聞いていた職員がカエンの退室を見届けてから思わずと言った様子で愚痴を吐いた。それを聞いたアフリマンは苦笑した。


「彼女の気持ちもわかってあげてください。なにせ生贄が見つからなければ最終的に捧げられるのは彼女になるのですから」


 アフリマンの後半の言葉は小さくすぼめられ、話をしている職員にしか聞こえていない。


「逃げたりしませんか」


「大丈夫ですよ。敬虔な信徒である彼女はこれを裏切ることはありません。


 そう語るアフリマンの表情は終始変わらず、穏やかなままだった。

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