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4:ガイアス男爵家のバージェス

※本作に登場する鳥知識はフィクションです。

 城下町を散策していたところ、よく通る不快な大声に呼び止められた。


「トリガー・シタガウル!聞いたぞ!貴様、命を賭して国を守る我らの手柄をくすねようとしているらしいな!」


 豪奢な目を引く軍服を着たガタイの良い男が従者を引き連れて大股でこちらに歩み寄る。


「ガイアス男爵家のバージェス坊ちゃまじゃないですか。お外でその大声は品がないよ。今アンジェとデート中なんだけど、邪魔しないでくれ」


「デートじゃない。私は護衛してるだけだ」


 アンジェが照れながら否定する。


 あれ?いや、別に照れてないかもしれない。割と真顔だ。デートじゃないですか、そうですか…。


 この男はガイアス男爵家のバージェス。


 重騎士の天職を授かった俺とアンジェの騎士学校の同期だ。

 

 俺の周りには天職持ちが多いが、天職は先天性のもので所持者は少ない。


 天職持ちは皆国から将来を嘱望されていて、ムカつくことにこいつもその一人だ。


「貴様!ぬけぬけと…!」


「なんのこと?」


「不死鳥テイムの王命のことだ!貴様が王を誑かし、命令させたのだろうが!?」


「それ王に対して不敬じゃない?王様って俺にたぶらかされる程度のオツムなの?」


 俺も不死鳥テイムの王命は王様の脳みそを疑ったけども。


 ガイアス男爵家は武力を頼む傾向のあるお家柄でいわゆる軍閥と言われる派閥に属している。


 戦時下にあり、戦争を優位にすすめている昨今、非常に勢いに乗っている。


 そして、その功績を盗もうとしているように見える不死鳥テイムの王命は、懸念していた通り、軍閥の反発を招いているようだった。


 バージェスはその尖兵のようなものだろうか。まあ、こいつとは昔から仲が悪かったため、軍閥が関係なくても嫌味を言ってきただろうが。


「貴様不敬な!?」


「だから不敬なのはバージェスだって」


「くっ、話を横道に逸らしおって」


「別にそらしてないけど、じゃあなに?要件は?」


「だから貴様の奸計をだな…」


「王命を撤回させろって?あれは俺の意思じゃないし、俺にそんな能力はない。さっきも言ったけど不敬だよ。王の命令を疑うの?男爵家の嫡男風情が?」


「……」


「はいっ!じゃあ要件終了!じゃあね!俺、アンジェとのデートに戻るから!」


「ぐっ」


「いや、だからデートではないんだが」


 俺はバージェスがなにか新たないちゃもんをつけてくる前にアンジェの手を取りその場をあとにした。


「なぜお前たちはそう仲が悪いんだ」


 城下町を歩きながらアンジェが聞いてくる。


「いや、昔から一方的に目をつけられてる感じだけど」


 俺は苦笑しながら返事を返す。


 アンジェの言葉を受け、俺は昔のことを思い出す。



 時は俺たちの学生時代。


 通っていたのはフェニキア鳥聖国の未来を担う貴族や裕福な平民の子供達が学ぶ騎士学校。


 そこでは座学と同じくらい実技も重んじられていた。


 何度も戦時を想定した実習が行われる。そんな実習の一つが近隣の山林で行われていた。


 戦争を想定した実習だ。2班に分かれて陣地を定め、1周間という期限内で敵により多くの損害を与えられた方の勝利である。


「戦いを厭う腑抜けめ。この実習で貴様の無能さを知らしめてやる。」


 成金趣味の金ピカ豪奢な鎧を身にまとったバージェスがわざわざ近寄ってきて毒づく。


 何が気に食わないのか、この学校に入学してからずっと目をつけられている。


 こいつは昔から変わらない。成長と言うやつが見えない。翻って俺はどうだ。昔から完成されていた。変わらないという点のみで見れば同じだが、二人の間には大きな隔たりがあるだろう。


 程度の低い人間の相手はしたくないが、ムカつくので言い返す。


「無能を知ら示すって、俺より成績の悪いガイアス家のバージェス様の立場がなくなってしまいませんか。」


「俺たち将校に必要な能力は勉学ではない。戦う力だ!最前線で敵と戦ってこそ国に貢献できるのだ。」


 重騎士という戦闘系の天職を授かっているバージェスは自身の長所を発揮できる授業にどこか得意げだ。非常に鼻につく。


「戦うだけが国への貢献の仕方じゃないよ。その理屈だと偉い人ほど貢献してないことになっちゃいますけど。」


 偉い人は前線にでなくなるから。


「屁理屈を言うな!」


「ならバージェスのは極論だ」


 ヒートアップしていく子供の言い争い。


 困ったことに低レベルな悪口ほど人を苛立たせる。


「そのへんにしておけ。見苦しいぞ。」


 止めに入ったのは同期の華、アンジェリカ・シルバリエだ。才色兼備。文句のつけようのない優等生だ。今回の実習ではアンジェは俺と同じ班だ。


「ちっ、アンジェ殿も付き合う相手は選んだほうがいい。」


「付き合う相手を選んだ結果、アンジェは俺とは親しくして、バージェス様とは顔色伺う隔たりのある関係を築いてるんじゃないか」


「やめろ。私を争いに巻き込むな」


「何をしている!早く持ち場につけ!」


 俺たちの小競り合いは教官の叱責によりその場では収まった。


 だが、俺の鬱憤は収まりはしなかった。ガイアス家のクソバージェス!戦いを厭う俺の力を受けてみろ!


 そして実習が始まった。


「鳥たちよ!あの金ピカ豪奢な鎧を着た奴らの側に食料がある!食い荒らせ!」


「鳥たちよ!腹いっぱいで催すだろ?便意をさあ!あの金ピカ豪奢な鎧共に糞を落とせ!」


「慌てる奴らの隙をついてまた食料だ!」


 これをひたすらに繰り返す。バージェス達の位置はわからないが、鳥達が勝手に見つけて勝手に命令を実行してくれることだろう。山の中には鳥がたくさんいる。振り払いきれる数ではない。


「ふははは!きっとバージェス達は慣れない山林で右往左往してるんだろう!この目でそのザマを見れないのが残念だ!ふはははは!あ、あとは逃げ回って接触しないようにしよう。それだけで奴らは兵站が尽きてゲームオーバーだ」


「お前…」


 アンジェを含めた俺の班員たちは皆どこか呆れた表情をしていた。


「ん?どうした?あ、鳥の糞について心配してるんだろ?食った直後に糞は出るのかってさ!安心してよ。流石に今食べたものはすぐには排泄されないけど、少し前に食べたものが押し出されて出てくるんだ。鳥は空を飛ぶために体を軽くしておきたいから、俺たちには考えられないくらい排泄サイクルが短いんだ。あと、アイツラ小便と大便が一緒に出てくるんだ面白くない?同時にっていうのは同じ穴から出てくるってことで、総排泄孔っていうんだけど…」


「そ、そうか。うん。ああ、うん」


 早口でうんちくを垂れる俺にアンジェや学友たちは優しく話を聞いてくれた。


 そうして戦闘の一つもないまま実習の期限である1週間と保たず、バージェスの班はギブアップした。


 俺は鳥の糞塗れでうなだれる奴らの様子を何も言わず、ただニヤニヤ見ていた。




「それ以来、何故か当たりが更につよくなったんだよな」


「なぜかじゃないだろう」


 アンジェが呆れた声を出すが、俺は心底不思議である。


「疑問だろう。敗北したなら敵の技量を認める。それが騎士道精神ってやつじゃないのか。バージェス様の好きなさあ!」


「そこをつつくとまた意固地になるからやめておけ。というか、今の話はお前がバージェスの鼻を明かした話であって、嫌われた根本原因じゃないだろう」


「嫌われてる根本原因は本当にわからない」


「そうか」


「好き嫌いには必ずしも原因があるわけじゃないし、俺たち貴族はマウンティングする生き物だから。見栄っ張りだから。虚栄心の塊だから。バージェスもひっこみがつかないんだろ。俺に負けっぱなしでさ」


「それもバージェスには言うなよ」


 続けてアンジェは言う。


「お前の言っていた軍閥に嫌われるという話が現実味を帯びてきたな。相手が権力者だと少し面倒なことになる」


「えっ」


 アンジェの言葉は少し真剣味を帯びていた。少し不安になる。


 そういえばバージェスは不死鳥テイムの王命を誰かから聞いたと言っていた。


「命を賭して戦う我らって言ってたから、もうお亡くなりになっていないだろうか?」


 俺は縋るようにアンジェを見る。


「お前はそう思うか?」


「思わない」


 俺は肩を落とした。


 貴族は敵と見定めた相手には容赦がない。割と普通に暗殺者が送り込まれてくる世界だ。


 俺は恐怖に身震いした。


「まあ、なんだ。私が護衛してやるから気を落とすな」


「…よろしくおねがいします」


 俺は心からそういった。


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※本作に登場する鳥知識はフィクションです。

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