36:鶏泥棒2
『トカゲコラ!ぶっ殺す!行くぞオラァ!やったるぞオラァ!』
「おいやめろ!お前の仕事は俺を守ることだ!とりあえず俺を背に乗せろ!」
ヤキトリはついに俺の後ろから出て突進しようとしたため、俺は慌てて止めた。
『ヒトカスに言われたなら仕方ない!仕方ないな!命拾いしたなトカゲこら!』
ヤキトリはやむを得ずと言った風情で俺に従い、背に乗せた。
しかし心無しかホッとしているようにも見える。未だにワイバーンが怖いのかもしれない。俺には都合が良いのでどうでもいいが。
俺達と竜騎士達は言葉でも物理的にも争いながら互いの隙を伺っていた。
しかし力は拮抗し、互いに埒が明かない。だが、幸いなことに時間は俺達の味方だ。有事に備えて常に携帯している伝書鳩をすでに一番近い兵舎へと飛ばしている。
時間が経てば俺達には増援が来るが、竜騎士にはない。そのことは竜騎士もわかっている。時間的制約のある竜騎士はついに行動に出た。流れるような動きでワイバーンのドラゴに騎乗し指示を出した。
「ドラゴ、さっきも言ったが、緊急事態だ。今働かないと後でもっと働かなければいけなくなる。明日怠けるために、今働け!ドラゴ!ブレスだ!」
『悲報。ワイ、ついに労働以外の選択肢がなくなる…』
ドラゴはそんな腑抜けたことを言いながらも竜騎士の指示に従った。
大きく息を吸い込み、直後、ドラゴの口から灼熱の炎が放射された。
『聖なる力 盾!』
『火炎操術!』
アンジェの光の盾が俺達をブレスの攻撃から守るように展開された。しかし、ブレスはアンジェの盾に直撃する寸前、大きく軌道を逸らし、そのままカエンの上空にて滞留し火の球を構築しはじめた。
ドラゴのブレスは絶え間なく放射され続け、カエンの形成した火の玉はどんどん大きくなる。
「残念だったわね!あたしに炎は通じないわ!」
カエンは威勢よく叫んだ。
カエンの天職、火炎術師は火を操作する能力を持つ。ドラゴのブレスは火炎放射だ。火炎術師ならそのスキルでブレスを封殺できる。
いままで役立たずだったカエンがついに役に立ち俺は高揚して囃し立てた。
「おお!さすがは聖火教司教!聖女の名は伊達じゃなかったんだな!」
「ふふん!やっとわかった?明日からは聖女カエン様と呼びなさい!」
「カエン、ブレスは任せる!」『聖なる力 矢!』
唯一冷静なアンジェが言った。
カエンがブレスを逸らしたお陰で光の盾が不要になり、アンジェに余力が生まれた。そしてアンジェは光の矢をドラゴと竜騎士に向けて放った。
「亀甲の布盾!」
竜騎士は亀の甲羅をいくつも継ぎ合わせた、人を覆い隠す大きさの折り畳み式の盾を展開した。その盾は布のように靡き、アンジェの光の矢を振り払った。
「ぐっ帝国の機工武具か!」
アンジェが攻撃を防がれて顔をしかめた。
龍帝国には機工武具と呼称されるやたら性能の良い武具が各兵士に支給されている。兵士に支給され得る機工武具ですら高性能だが、竜騎士ともなるとオリジナルの機工武具が複数支給される。
天職の攻撃を防ぐ武具はめったに存在しないが、龍帝国の機工武具はその限りではないようだった。
「アンジェリカ・シルバリエ!大丈夫よ!時間を稼いでくれればそれで!」
苦戦するアンジェにカエンが声をかけた。そして竜騎士たちに向き直り言った。
「ブレスの途切れた時があんた達が負けるときよ!」
カエンの言うとおりだった。竜騎士の動きはアンジェの攻撃で封じているし、ドラゴのブレスはカエンが操作し火の玉として集約させている。火の玉は膨らみ続け、すでに敵を討ち滅ぼすに足る破壊力を有していると思われる。
時間が経てば増援もある。勝負は決したと思った。
しかし…。
「ちょっと!あのワイバーンはいつまで火を吹き続ける気!?こんな熱量扱ったことないわよ!怖い!怖い怖いぃいい!」
いつまで経ってもドラゴのブレスが止まらない。
「普通にその火の玉を竜騎士達にむけて投げろよ」
「この熱量よ!?死んじゃうじゃない!」
「別にいいだろ!」「だめよ!不死鳥孵化の生贄にするんだから!」
そういやそうだった。気を取り直して別案を提案する。
「火の鎮静スキルなかったか?それすれば?」
以前ヤキトリの火を弱めるために使っていたはずだ。
「その手があったわ!」
カエンは天啓を得たとばかりに顔を輝かせた。
ひとまず問題は解決したかと思ったが、またカエンが焦った声を出した。
「大変よトリガー!」
「今度は何だ!」
「あたしは今、ブレスを逸らして束ねて、巨大火の玉を構築してるわけだけど…」
「うん」
「これに加えて鎮静まで同時にできない!鎮静まで使おうとしたらブレスが直撃するか、火の玉が頭上に落ちてくるか、どっちかがおきるわ!さあ!あたしはどうするべきっ!?!」
「マジかよ…」
カエンの言葉にさすがの俺も代替案が出せずに天を仰いだ。
どうすんべ。
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