32:卵の孵化方法について
本年中にもう一度頑張って更新したいと思っています。
できなかったらすみません。
枢機卿は合計5名からなる、国王である教皇の次に強い権力をもつ権力者だ。世襲制の王位・教皇位と違い、本人の実力によって決まる役職の最高でもある。
よって枢機卿は押し並べて皆優秀だが、年齢が比較的高齢になる傾向がある。そんな中、40代の若さで枢機卿に着任した人物がいる。ゾロア・アフリマン。不死鳥の卵の発見者だ。
ゾロア・アフリマン枢機卿はヤキトリの発見とワイバーンが火を纏った報告をうけて、直々にコーカサスの岩山に捜索に入り、不死鳥の卵を発見したらしい。
「そんなお偉いさんが直々に現場にぃ?わざわざぁ?嘘だぁー」
俺は胡乱な目で正直に疑いを口にした。後方腕組待機が基本のお偉いさんが、わざわざ山奥の整備も行き届いていない獣道を分け入って、捜索に参加するなど通常考えられない。
「アフリマン枢機卿は現場主義の方なのよ!」
「えぇ〜?本当にぃいい〜?」
「トリガー失礼だぞ。それと話の腰を折るな。それでカエン殿、不死鳥孵化の使命というのは…」
「言葉のとおりよ。あたしの使命はアフリマン枢機卿が発見した不死鳥の卵を孵化させることよ!」
「方法はわかっているのか。使命というからにはただ放置しているだけでは孵化しないのだろう」
アンジェはいった。そうなんだよ。アンジェが知りたくて、俺が目を背けたいのはその不死鳥孵化の使命の内訳だ。
通常鳥の卵は一定の熱を保ち、定期的にコロコロ角度を変えてやれば孵化する。不死鳥の卵とやらは火を纏っているから熱は問題ないように思う。あとは転がすくらいしかやることがないように思える。
だがそんな程度のことをわざわざ使命などと大層に言うだろうか。
「まずは不死鳥の卵が放出する火を卵の周りに維持することね。人の体も温かいけど、服を着ないと寒いでしょ?卵は火を纏って暑いけど、裸のような状態らしいの。火炎術師の力は人で言うと服みたいなもので、着せてあげないと寒くて衰弱するそうよ。これは火炎術師にしかできないわ!だからあたしは聖女と呼ばれるようになったの!」
火炎術師はもともとバードテイマーと同じくらい国家と聖火教に重要視されてきた天職だ。しかし火炎術師はバードテイマーと比べて圧倒的に出現率が低く、かつ、実生活への貢献度が低い。
よって国家運営の立場から見るとバードテイマーがより重宝されてきたが、聖火教に置いては希少な火炎術師の方が重要視されてきた経緯がある。
しかし、それでも今まで火炎術師に対して『聖女』などのような大層な称号は与えられてこなかった。
少なくても俺とアンジェはそれを知らなかった。それもそのはずで本当にここ最近で呼称され始めたばかりのようだった。しかも理由が不死鳥の卵を孵化する能力があるからということのようだ。
しかし。
「おかしくないか?どうしてそんなことがわかる。不死鳥の卵についての情報なんか聞いたことないぞ。存在していれば王命を拝命したときに俺には伝えられるはずだ。そもそもなんで火を纏ってるくらいで不死鳥の卵だとわかるんだ。アヒルの死と共に人格をアヒルから飛脚鳥に乗り移らせたヤキトリすら不死鳥認定されていないんだぞ」
なぜ、不死鳥の卵とその孵化方法などといういかにもな重要情報を不死鳥テイムの王命を授かった俺に知らされていないのか。
なぜ、ワイバーンに喰われても飛脚鳥に憑依し不死性に近い能力を垣間見せたヤキトリが不死鳥認定されていないにも関わらず、ただ火を纏うだけの卵が不死鳥の卵などと呼ばれているのか。
カエンはその卵が不死鳥の卵の「可能性」があるという言い方ではなく、ほとんど断言しているように思える。その根拠は何なのか。
「ああ!説明が足りなかったわね!コーカサスの岩山で発見したのは遺跡なの!その奥の祭壇で祀られるように安置されていたのが火を纏う卵と聖典。その聖典に記されていたのよ!この卵の正体とその孵化方法について!」
どうやら未発掘の遺跡がコーカサスの岩山に存在しており、それを偶然見つけ、その中で発掘されたのが不死鳥の卵とそれにまつわる書籍、聖典だったらしい。
俺は思った。
「胡散臭ぇえ!」
口にするとあまりに枢機卿に対して不敬だから言葉にするのはここまでだが、もっと言いたいことはある。
例えば、聖典ってなんだ!?ただの古ぼけた古文書だろ!とか。
遺跡から発見されたからと言ってその信憑性までを保証しないだろ!とか。
そもそもコーカサスの岩山ってアフリマン枢機卿が管理監督の責任者じゃん。いくらでも偽装工作できるじゃん!とか。
というかコーカサスの岩山の責任者がアフリマン枢機卿ってことは竜騎兵とワイバーンの侵入の責任の大元アフリーマン枢機卿じゃん!とか。思い出したら腹たってきた。
だが、カエンは俺の叫びが耳に入らないようで、聖典とやらに記されていたらしき言葉をカエンは諳んじはじめた。
「火ヲ吹ク卵ハ不死鳥ノユリカゴ。シカシテ未熟ナル魂、火ノ扱イ甚ダ未熟ナリ。人ノ手ヲ借…」
「長い!要約してくれ!」
思わず遮った。カエンは不服な表情を浮かべたが、意外と文句も言わず要約してくれた。
「つまり、孵化に必要なことは。火炎術師が卵の火を卵の周囲に維持すること。それを3ヶ月以上続けること。3ヶ月後、最初の新月の夜、森閑の塔にて孵化の儀式を実施すること…」
「多いな…」
「黙ってろ!」
俺が吐露するとすかさずアンジェは叱責した。カエンの言葉は続く。
「ヤモリの目玉、山羊の頭蓋骨、蝙蝠の翼手、ワイバーンの血…」
「おいちょっと不吉なこと言い始めたぞ!聞きたくないんだが!?」
「いや、まあ、確かにちょっとそうだな」
俺が怖気づいて思わず声を上げると、さしものアンジェも同意してくれた。カエンもここまで具体的な説明もいらないかと話を区切ってくれた。
「まあ、いいわ。つまり孵化の儀式にはたくさんの捧げ物が必要でその中には天職持ちの命も含まれるってこと」
「えっ?」
「不死鳥の孵化には天職持ちの生贄が必要だと言ったの!」
カエンの言葉に顔が引きつる。
「うわっ、碌でもないな」
「なんでよ。不死鳥の孵化のためなら光栄じゃない?」
「えぇ…」
俺はドン引き、アンジェも戸惑いの表情を見せている。
「つまりあたしの使命は不死鳥の卵の火を維持し、生贄を確保し、孵化の儀式を然るべき日時において完遂することってわけ」
俺は恐る恐る質問した。
「もしかして、生贄に捧げる天職持ちを選ぶ権利って…」
「あたしにあるわ!」
「今まで生意気言ってすみませんでした。どうか生贄だけは勘弁してください」
カエンの言葉に俺は即座に平身低頭、命乞いをするのだった。
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