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31:カエン・バーナー2

「不死鳥の卵?ヤキトリの卵か?」


「ヤキトリと番ったメスが卵を産んだという報告は聞いてないが」


 不死鳥の卵発言におののいている俺達を尻目に、カエンはヤキトリに声をかけた。


「あなたが火を纏う鳥ね」


 ヤキトリは性行為を終えて賢者タイムでチルっていた。羽の先からチリチリと火の粉が舞っている。


『なんだこの赤カスは?』


 賢者タイムとはいえ、所詮は鳥の知性。いつもどおりの粗雑な返答をした。


「失礼ね!教育がなってないんじゃない!?」


 カエンは怒りの沸点が低いようですぐに柳眉を逆立てた。だがどうやら直接ヤキトリに怒りを向けることには抵抗があるようで、その怒りは管理責任者の俺に飛び火した。


 俺はひとまずたしなめる。


「言う事聞くなら失礼なくらい良くないか?所詮鳥のさえずりだぞ」


「ただの鳥じゃないわ!不死鳥を想起させる鳥よ?その素行が悪いと不死鳥の印象まで悪くなるじゃない!」


 不死鳥は国家のそして聖火教の信仰対象だ。神聖にして崇高な象徴だ。そんな不死鳥を想起させるヤキトリがこんな低俗な人格を有していることに憤りがあるようだった。


「不死鳥を想起させる鳥に教育とか恐れ多いだろ。傲慢だな」


「ぐぬぬ」


 俺はカエンのいちゃもんを華麗にあしらう。


『よくわからんがこの赤カスは我の敵か?』


 鳥の知性でも馬鹿にされたことはわかるのだろう。ヤキトリは火を纏い、翼を広げ、威嚇のポーズを取った。


 その挙動に目を丸くしたのも一瞬、カエンは得意げな笑みを浮かべてヤキトリに向けて手をかざした。


『火炎操術・鎮静』


 すると燃え盛っていたヤキトリの火は大きく揺らめき、そして衰えた。


「ふふん!あたしは火炎術師!この天職と力こそあたしが聖女と呼ばれる由縁よ!火なんて怖くないんだか…ら…?」


「バカっ!」


『やはり敵だな!ごらあああああ!』


「ひっ」


 カエンの火炎操術はヤキトリの機嫌を損ね、敵と認識させてしまった。


 火は鎮静したとはいえ、強靭な飛脚鳥の肉体は健在だ。


 ヤキトリは片足を上げ、蹴りを放つ攻撃姿勢を取った。


「おい待て落ち着け!待て!」


 俺は焦ってヤキトリに静止の声をかけた。


 ヤキトリはバージェスを蹴り飛ばした実績がある。あの脳筋肉だるまが蹴飛ばされる分には心情的にもバージェスの被害的にも些細な問題だ。


 しかし少女に過ぎないカエンが蹴られればただでは済まない。


 案の定、ヤキトリはカエンめがけて蹴りを放った。


「きゃっ!!!!」


『ヤキトリ!やめろ!」


 俺はついにバードテイマーとしての力を行使した。ヤキトリへのテイムの効きは良くないが、どうにか止めることに成功した。


 しかしすでに生じた物理法則までは止められない。


聖なる力(セイクリッドフォース) (シールド)


 カエンの前にアンジェが滑り込み、光の盾を展開し、ヤキトリの蹴撃を防いだ。


 マジで危なかった。心臓止まるかと思った。


 それほどヤキトリの蹴りは、俺のテイムによる減速があってなお、致命の威力を有して見えた。


 カエンはアンジェのおかげで九死に一生を得たといっていい。


「あの、ありがとう」


 そのことはカエンも理解しているようで、少し顔を赤らめてアンジェに礼を言った。


「いや、間に合って良かった。怪我はないか?」


「うん。大丈夫…です。あのお礼とかって…」


「いや、あくまで私はヤキトリの関係者として止めただけで、お礼などは…」


 急にしおらしくなったカエンにアンジェは微笑んで対応している。


 その様子に俺は不満を抱いた。


「俺には!?」


 俺もカエンを怪我から救った功労者の一人だ。なぜアンジェには感謝と謝礼の話があって俺にはないのか。


「あんた何もしてないじゃない!」


「したわ!テイムの力でヤキトリの動きを止めたわ!アンジェのシールドが間に合ったのは俺のおかげだろ!」


「ほんとに?」


「確かにヤキトリの蹴りは途中で唐突に減速したな。あれがなければ私の介入が間に合わなかったかもしれない」


「ほら見ろ!」


「ぐっ…その、ありがとう」


 悔しそうにしかし、殊勝にカエンは頭を下げて感謝を口にした。俺はそれを受け取り言った。


「はあ!?疑ってごめんなさいだろ!ありがとうだけですませる気か!?疑ってごめんなさいと言え!」


「なんなのこいつ!?」


 しばらく俺とカエンは言い争いをして騒いでいたが、疲れて勢いを失ってきたところでアンジェが話を変えた。


「そんなことより先程の話だ。不死鳥の卵が見つかったとは?」


 俺はぎょっとしてアンジェを見る。せっかく、話が逸れていたのに…。


 不死鳥の卵など不死鳥の手がかりどころか不死鳥そのものだ。まだ本物かわからないし、本物でも孵化するかわからない。


 しかし、不死鳥をテイムしなければならない重責が現実味を伴って重くのしかかってきた。


 不死鳥テイムは命懸けになると想定している。それが孵化したての雛鳥だとて、容易になるかどうかなど誰にもわからない。


「あっちょっとお腹いたくなってきた」


「話おわるまで我慢しろ」


「んぐ」


「聞いて驚きなさい!」


 俺の悲哀を無視してカエンは胸を張る。


「枢機卿が見つけてきたの!火纏う卵を!」


 カエンは誇らしげに言った。


「そして火炎術師であるあたしにその孵化の使命を与えてくださったのよ!」

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