表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/48

3:バードテイマーのお仕事

※この話に出てくる鳥もその知識もフィクションです。

 不死鳥を国家のシンボルとしている我がフェニキア鳥聖国では鳥にまつわる産業が盛んだ。


 食用家畜としても使役家畜としても重宝されている。


 国営の養鳥場(食用)や鳥小屋(使役家畜)は数多くあるし、そのほとんどにはバードテイマーの天職持つ者が配属されている。


 今までは鳥の飼育は汚くてめんどくさいので外回りで野生の鳥を捕まえてくる仕事をしていた。


 バードテイマーの天職持ちは希少だが国内を見渡せばそれなりの人数がいる。しかし、同じ天職を持つ者同士でもその能力には優劣があり、できることも違う。野生の鳥をテイムし捕まえてくることができるほどの能力を持つものは本当に一握り,俺ほどその才に恵まれたものは稀だ。


 だから文句も言われず外回りが出来ていたのだが、事情が変わった。


 これからは不死鳥を探すために、まず鳥の生態を深く知ることが必要になる。そういう建前で不死鳥探しを先延ばしにするのだ。


 幸い野生の鳥のテイムは高等技術だが、そこまで需要があるかといえばない。人間の役に立つ新たな鳥を見つけられれば儲けものだが、その程度の役割だ。


 そんなことよりすでに存在する経済動物共を管理、繁殖するほうが堅実に利益がある。経済が停滞し、新たな産業が求められていれば野生の鳥のテイムは大切だが、戦時下の今はそうではない。不死鳥テイムの王命の主旨からしたら外回りが正しいようにも思えるが、闇雲に探しても見つからないというのもまた事実だ。言い訳はいくらでもできる。


 よって今回も文句も言われず、外回りの仕事から養鳥場や鳥小屋での仕事に変更してもらうことが出来た。


 そんなわけで俺は今、数ある鳥小屋の一つに来ていた。


 ここは伝書鳩を飼育しているいわゆる鳩舎だ。俺がそこで仕事をしていると、数日ぶりに様子を見に来たアンジェが声をかけてきた。


「トリガー?何をしているんだ?」


俺は鳩を両手でつかみ、身動きできなくし、そして至近距離で凝視し続けている。不審に思うのも無理はない。


「テイムしてる」


 テイムとは生物を手懐け、使役することだ。本来、調教等膨大な時間を要するそれを省略し、使役することを可能とするのが天職によるテイムだ。


 鳩に顔を近づけ屈服するまで凝視し続ける 。もっと手軽な方法はあるが一番堅実なテイム方法だ。


「そんな効率と生産性だけを追い求め、鳩達を屈服させるような!そんな非人道的なテイムはやめろぉお!」


 野太い声が小屋の端から聞こえてきた。小デブのおっさんが顔を怒気で赤らめ主張している。


「テイムというのはなあ!もっと時間をかけて愛情を注いで、気持ちが通じて、育まれていく絆の先にあるものなんだよ!」


 ここの管理者は俺のテイムに不満があるようだった。ふれあいがどうの、愛情と絆がどうのと意味不明な供述をしている。


 だがこいつらは家畜だ。効率と生産性をこそ重視するべきだろう。


「あちらの方は?」


 アンジェが問う。不審なものを見る目でおっさんを見ている。


「この小屋の管理者。人と鳥の間で育まれる絆とやらですべて解決できると思ってらっしゃる」


「思ってるじゃない!本当にあるんだ!」


「俺思うんだけど、姫様が民衆に手を振った時に『姫様俺に手を振った!目もあった!』とかいう奴と、動物と気持ちが通じるとか言ってる奴って、本質的に一緒だよな」


「お前ペット飼ってる人間にそれ言うなよ」


 アンジェにたしなめられる。


 俺は話しながらも仕事の手は止めない。次の仕事の行程に取り掛かる。


 管理しやすくするために番号と番号札を取り付けるのだ。以前は個別に名前をつけていたが、悩む時間が無駄だし、管理しづらい。するとまたも管理者が絶叫した。


「鳩の足に番号札ぁあ!?そんなのは怠慢だ!私達バードテイマーは顔を見ただけで個体を判別できるし、そうであるべきだ!それと、この仔達にはちゃんと愛情込めてつけた名前があるんだ!番号管理なんて認めない!」


「じゃあ、こいつの名前は?」


 俺は近くの鳩を示す。


「マイケルだ」


「違う。エミリーだ。せめて性別だけでもあててよ」


「馬鹿な!そんなはずは…」


「はい証拠」


 俺はその鳩の名前と特徴の記された管理簿を渡し、言葉を続ける。


「あんた自分が主張するほど見分けついてないんだよ。そもそも何羽か名前かぶってるし、管理しづらいんだよ!だいたい、管理者しか鳩の個体を識別出来ないのは問題だ。あんたが明日死んだらどうする!?記録と個体を照合するだけでどれだけ時間がかかると思う!?」


 管理者は俺の正論にぐっと押し黙る。


 ちなみに俺はこの地域全域の鳥小屋・養鳥場の技術的指示権限を持つ立場にある。この小屋の管理者に対する指導権限ももっている。つまり俺の指示には一定の強制力と正当性があるのだ。


 この権限は俺の貴族としての生い立ちと天職の優秀さによって半ば特例的に付与されているものだ。


 さすが俺。エリートの特権階級だ。


 俺は鳩の足に番号札を取り付けた。そして次の行程へ移行する。


「鳩を2つの部屋に分けているが、これは?」


 アンジェが俺の仕事を見て質問してきた。


「雌雄を分けてる」


「なぜだ?」


「こいつらは伝書鳩だ。帰巣本能を利用して文のやり取りをするんだけど、その成功率や速度には個体ごとに偏りがあるんだ。で、ここの小屋の帰巣率と速度が特に低いからテコ入れしてる。伝書鳩は雄と雌を番にさせ抱卵させたあとに引き離すと、番の元に戻り卵を温めるために帰巣本能が強化されるんだ。鳩は雄と雌で交代で卵を温めるから片一方がいなくなると卵が死んでしまうからね。」


「お前は鬼畜だ!そんなことが許されるはずがない!心はないのか!?」


 管理人がまたも義憤に燃えていきり立つ。


「私も帰巣本能を刺激するために抱卵した雌から雄を引き離したりするのは倫理的にどうかと思うが…。それに、雄雌を引き離すのは伝書鳩の仕事をさせるときだけでいいのではないか」


 アンジェが苦笑しながら聞いてくる。


「あいつら所詮畜生だから雌と雄をすべて混同で入れておくと浮気しまくってあまり帰巣動機が刺激されないんだよ。帰巣動機は卵を温めることと自分の雌もしくは雄を他の同性に取られないようにすることの2つがあるんだ。だけど、浮気しまくると抱卵してる雌や生まれた卵以外にも自分の雌と卵がいることになるから…。要は自分の家族が一つしかないと早く巣に戻ろうと必死になるけど、他にも家族を作ってると替えがきくから必死さが薄れるんだ。」


「ならせめて番同士だけでも一緒にさせておけばいいのでは?」


「部屋をそれだけ作るのが大変。コストがかかる。それと、鳩は一緒にしとくとすぐ欲情するんだよ。卵を作る行為は体力を消耗するんだ。いざ伝書鳩の仕事を任せようって時に子作り行為のあとだと成功率が激減する。さらに言うと死亡率は激増する。これを防ぐにはいつその行為をしたか把握する必要がある。常に監視することは不可能だから、卵を作ってもいい時だけ、異性と同じケージに入れて、それ以外は行為その藻ができないように隔離するしかない。俺たちバードテイマーは鳩同士の性交すら管理下に置かなければならないんだ」


「な、なるほど…」


 アンジェは引き気味ではあるものの納得してくれている様子。


「あと、卵は人工的に孵化させる方法が確立されてるから問題ない」


 俺は念の為にフォローするが、ここの管理者には通用しない。


「どんな理由があろうと、お前は鳩の家族を引き裂いているんだ!」


 俺は呆れるも、ここの管理者はそれを気にもとめず、言葉を続ける。


「人間のエゴのために鳩を犠牲にするのか!」


「そりゃそうだよ。あたりまえだろ。そのために育ててるんだから。それに戦時下において情報伝達の遅れは部隊の死に直結するんだ。あんたの感傷のために部隊の死亡率高めろってこと?」


 俺の完全な反論にさすがの管理者も押し黙る。


 そして「ぐっ、畜生。キャサリン〜」などと鳩に頬擦りしながら咽び泣く。


「あ、そいつはジェイクですよ。」


 俺は親切に訂正してやった。


「ちくしょー覚えてろよー」


 するとここの管理者は捨て台詞を吐いて走り去っていった。




「随分熱心なんだな。なんというか、意外だ。」


 アンジェが感心した様子で声をかけてきた。俺は得意げに返答する。


「ふっ、この国の養鳥場・鳥小屋の生産性を向上させることが俺の使命なんじゃないかって最近思い始めてね」


「違うぞ。お前の使命は不死鳥をテイムすることだ」


 アンジェは無情にも頑張る俺に、俺が逃げてきた現実を突きつけてきた。



ブックマーク、評価、いいね、感想等いただけると励みになります。


※この話に出てくる鳥もその知識もフィクションです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ