28:ガイアス・バージェス
時間がかかり、トラブルもあったものの商品調達の目処がたった。
だが商売には他にも準備がいる。販売場所の確保、値決め、その他雑務等上げればきりがない。これらは占いババアが担当することになっている。占いババアの受け持ちの仕事は順調に進んでいるらしいが、俺は手持ち無沙汰になってしまった。
俺の手が空いたと見て占いババアは提案してきた。
「お前がテイムしたあのオウムとか言う鳥、あれを使って販促はできぬか」と。
占いババアの言う販促とは販売前に商品の噂を流布する、いわゆる広告のことだ。
占いババアはさらに続けた「テイムしているオウムに広告文句を覚えさせ、そこかしこでさえずらせればよい」と。
占いババアの提案を受け入れた俺は宣伝文句を考えた。もともと「幸福の青い鳥」というのは童謡として語り継がれる有名な物語だ。
「まずは青い鳥の童謡を謳わせるだけでいいか」
先進的で開放的な王都の街中でどこからともなく青い鳥の童謡が響く。それだけでなんだかおしゃれだろう。購買意欲も湧くってもんだ。
そして実際にオウムを使って販促をしているうちに商品たる青い鳥の数も揃い、販売を開始した。
ーーー
「トリガー」
「ん?どうしたアンジェ」
青い鳥の商売がボロ儲けで、気分良く屋敷でくつろいでいるとアンジェが何やらジトッとした目で声をかけてきた。
「お前、公務を忘れていないか」
「…」
商売にかまけて忘れていた。いや、実のところ覚えてはいたが、見て見ぬふりをしていた。面倒だし。
「お前にも自由にできる金銭は必要だろうし、それを自ら捻出しようとするのは立派な心がけだ。お前の商売が軌道にのるまではと思い傍観してきたが、そろそろ公務もしろ」
「いやアンジェ、走り出しがうまく言っただけでまで起動に乗ったわけじゃないんだ。この商売はまだまだ不安定…」
俺の言い訳を遮ってアンジェは強い口調で言う。
「そもそもかなり優勢とは言え今は戦時だ。間接的でもいいから少しでも国に貢献しろ。負ければお前の築いだ財産もどうなるかわからんぞ。ただでさえ不死鳥の王命もサボっているだろう」
「ふ、不死鳥の方はヤキトリの面倒見てるから!日々観察して不死鳥の手がかりにならないか考察してるから!」
『呼んだか!?ヒトカスこら!』
耳ざとく自身の名が呼ばれたのを聞きつけて隣の鳥小屋から爆音が響く。
ヤキトリは青い鳥の商売をする際にも必ず連れて行っていた。
人語を話すだけでなくふとした拍子に火を吹いたり、纏ったりしてしまう愚鳥だ。当初は驚かれ、騒ぎにもなったが街の人には受け入れられつつある。
むしろ火を纏い喋る鳥を見たくて足を運ぶ客も最近は増えてきていた。
「呼んだぞヤキトリ!仕事だ!」
『ヒトカスかと思えばメスカスか!だが、外に出れるなら何でもいい!連れて行け!』
アンジェが勝手にそんなことを言い、ヤキトリがやる気を見せる。
二人の勢いに押されて俺は公務遂行のために国営の鳥小屋に向かった。
国営の鳥小屋に向かってっ街を歩いていると聞き覚えのある不快な大声が辺りに響いた。
「トリガー・シタガウル!」
「毎回うるさいよバージェス」
俺はげんなりとして答えた。バージェス・ガイアス。重騎士の天職を持つ、何かと絡んでくる嫌なやつだ。
「やってくれたな!帝国の工作員を逃したと聞いたぞ!大失態だ!」
口角泡を飛ばして俺を詰る。
「それアンジェをも批難してるよ」
「そうだな。私もトリガーと共に現場にいた。あれが失態だとすれば私にもその責はある」
「ぐっ。心苦しいが、失態は失態だ。むしろトリガー・シタガウル!貴様が足を引っ張ったのではないか!?」
「バカか!?逃がしてしまったからと言って、それは即座には失態を意味しない!状況を考えろ!そもそも、侵入していたスパイを見つけて報告しただけでも大きな功績だろうが!失態だとしたら潜入させたやつの失態だ!」
「ぐぬぬ」
バージェスは一瞬言葉に詰まったがすぐに言葉を続けた。
「状況というなら竜騎士が逃げた時、お前は追わなかったと聞いた!なぜ追わなかった!」
「ぎく」
痛いところをつかれた俺は言い淀んだ。
飛脚鳥は飛べる。だから飛翔するワイバーンを追うことは可能ではあった。だが、頭脳明晰な人間があの状況で追おうと考えるだろうか。ワイバーンが火を吹き、火を纏ったあの状況で。
「どうなんだ!?言ってみろ!なぜ追わなかった!」
ピンチである。だが、俺には最強の言い訳があった。
「火を纏った影響かどうかは知らないが…そのワイバーンが飛脚鳥より速かったんだ!」
嘘だ。というか正直わからない。鳥と蜥蜴の飛翔速度の違いなど。だが、それを指摘できる人間などいない。言ったもん勝ちだ。
それに情報を持ち帰ることを優先するのも変じゃない。それだけの不確定要素が火を纏うワイバーンにはあった。
「ぐっ」
いよいよ論破されたバージェスはぅや思想に顔をしかめ、俺は得意になって口角を上げ、鼻を膨らませた。
「バージェスは俺を批難したいだけだろ?もともと無理筋だったんだ。竜騎士の件は俺達の功績であって、失態じゃないよ」
俺は勝ち誇って続ける。
「で?用件はそれだけ?俺達忙しいんだけど」
仕事があってさー、国に頼られちゃって参っちゃうよね。などと国への貢献をこれ見よがしにひけらかした。アンジェの冷たい視線を感じるが、構わない。国のせいで苦労させられているのだ。このぐらいの利用はさせてほしい。
てっきりバージェスは負けを認めて帰ると思ったが、そうはいかなかった。
「それだけではない!」
バージェスは険しい顔で言った。
「貴様のせいであんなにご尽力されていたマスキュール騎士爵が処刑されてしまった」
「バカ言え!やらかした被害からすれば当然だろ!そもそも俺の活躍がなかったらもっと被害が広がって、騎士爵本人だけじゃなく、その家族まで刑に処されてた可能性もあるだろ!」
「いい加減にしろバージェス。さすがに聞き捨てならんぞ。マスキュール騎士爵の件は完全に当人の責任だ。トリガーがかかわらずとも責任を取って処刑されていた可能性は高い。そしてトリガーは事態を解決した功労者だ。そのトリガーを批難するとはどういう了見だ」
「ぐっアンジェ殿…」
アンジェにまで強く批難され、バージェスは怯んだ。だが、引くに引けず、バージェスは苦し紛れに叫んだ。
「飛脚鳥の・・・鳥なんかのために人の命が失われるなんておかしいと思わないのか!」
「鳥による飢饉で人命が失われたのは悲劇だと思うけど、それ引き起こしたのがマスキュール騎士爵だし、その処罰を決めてるのは国であり王だから。文句があるなら王にいいなよ」
『うるさいぞ下等生物が!ごらあ!』
「なんだ?ごばああっ!!」
唐突にヤキトリが燃える鳥脚でバージェスを蹴り飛ばした。
鉄をも貫く飛脚鳥の蹴りだが、さすがは重騎士の転職を持つ男バージェス。数メートルふっとばされたものの、腹に穴が開くことはなく、ただ痛みにうめいているだけだ。
『ちっ、下等生物が「鳥なんか」とは何事だ!』
「待て待て待てやめろ!」
バージェスを蹴り飛ばしておいてなお荒ぶり、追撃をかけようとするヤキトリをどうにかテイムの力で止める。
「くくくっ、やりすぐぎだ。暴力は駄目だぞ…ふはっ」
「おい。流石に笑うのはどうかと思うぞ」
バージェスが蹴り飛ばされたことに思わず笑いを漏らしてしまった俺をアンジェが咎めた。しかし、咎めるアンジェの表情もどこかスッキリとしていた。
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