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『ヒトカスごらあああ!』


「なんだごらあああ!」


 鳥小屋から俺を呼ぶ声が響く。音源である鳥小屋は俺とアンジェが暮らす屋敷に隣接していて、そこからは火がチロチロと覗いていた。


 誰あろうヤキトリだ。アヒルから飛脚鳥に種族チェンジしたヤキトリはその待遇も変わっていた。


 国はヤキトリの数奇な状況に不死鳥の手がかりとしての希望を見て、丁重に扱うことを決めた。


 火を纏うアヒルのための耐火素材の鳥小屋は火を纏う飛脚鳥用の小屋に作り直され、ヤキトリはそれを独占している。


『散歩だごらあああ!』


「少し待てやごらああああ!」


 それでも行動範囲を制限されているという事実そのものが気に入らず、なお不満があるようだった。


 そんなヤキトリのためにお国は俺に命令を下した。ヤキトリの希望を尊重し、可能な限り自由にさせろと。


 当然問題が発生すれば俺の責任だ。


 ヤキトリにも多少はテイムが効く様になったとはいえ、ヤキトリの逃走や、負傷を完全に防ぐことはできない。


 俺は嫌がったが、国の命令を跳ね除けられるはずもなく、やむを得ず従っている。


「準備できたぞ!行くぞごらあああ!」


『待ちくたびれたぞごらああ!』


「待て!お前たち!私の準備が…」


 準備が整い街に繰り出そうとした俺達をアンジェが慌てて止めた。


「アンジェも女の子だから時間がかかるんだね?でも大丈夫。アンジェはそのままで十分かわいいよ」


『メスカスは護衛だろうが!メスであることと職務どっちが大事なんだごらああ!』


「その護衛の準備に時間がかかるんだ!それとメスカス言うな!ああもう!トリガーもヤキトリに変なこと教えるな!そいつの知性でそんな小賢しいことが言えるものか!」


『知性あるわメスカスごらあああああ!』


「それは言いがかりだよアンジェ。というか俺の口説き文句無視されたんだが!?」


「女の準備は服か化粧のことで服の選定と化粧には時間とお金がかかるんだ!そのままでかわいいと言われても、あの手間暇とお金が無駄だったといわれているようで複雑なんだ!褒め言葉になっていない!」


 アンジェの勢いに思わず謝罪をする。


「ごめん…。いや、でもこれやっぱ言いがかりじゃね?」


「言いがかりではない!」


『そんなことより早く行くぞごらああ!』


 かくして俺達は街に繰り出した。


『何見てんだごらあああ!』


「見せもんじゃねえぞおらああ!」


「すみませんすみません。おい!いい加減にしろ!」


 ヤキトリと俺が肩で風切って街道をあるく。後ろから街行く人に謝罪をしつつ、俺達を咎めるアンジェの声が耳に入るが俺達にはどこ吹く風だ。


 そして街道の露店を物色していると意外な人物がいた。


「占いばばあ!何してやがる!」


 王の相談役にして占星術師テスカ・トリポカが紫煙をくゆらせて壺を露店に並べていた。


「ん?誰かと思えば工作員を逃したシタがウル家の恥さらしか。見てわからんか。壺を売っている」


「高すぎるだろ!」


「幸福の壺だからな」


「詐欺じゃねえか!」


「どちらかというと強欲の壺だな」アンジェがぼそっと呟いたが、今はそれどころではない。


「詐欺ではない。まあ、ほしいやつだけ買えば良い。儂は特に営業などはしておらん」


占いばばあはそういって俺の詐欺疑惑を躱すとにやりと悪い笑みを浮かべて俺に向けて言葉を続けた。


「それよりトリガー、お前なにやら面白そうな商売をしているそうじゃな?」


「面白そうな商売…?ああ、カラーひよこのことか?」


 俺は今ひよこに絵の具で着色して販売する商売をしている。地味に儲けてもいる。


「それじゃ!どうだ?儂と組んで幸福の青い鳥として売ってみんか?」


「なにそれ詳しく!?」


「テスカ様!?詐欺まがいのことをすすめるのはおやめください!トリガーお前も簡単に乗るんじゃない!」


 占いばばあの提案する「幸福の青い鳥」ビジネスは占星術師とバードテイマーの天職を持つ俺達が青い鳥にご利益という付加価値をつけて販売するというものだ。


 あまりに高額にするとアンジェや国から目をつけられてしまうかもしれないので、利益はほどほどにとどめ、代わりに多く販売する。薄利多売方式を採用するというものだ。


 俺はともかく、占いババアの顔は広く知られていて宣伝効果がかなり大きい。ご利益の信憑性にもつながる。


 青い鳥を集めるなど、実務はかなり俺が担わなければならないが、それでもかなり美味しい商売に思われる。


 俺は未だに完全には納得していないアンジェを振り切り、占いばばあのビジネスに乗った。


「それじゃ、商品が調達できたら連絡する」


「ああ。良い商談ができた」


 俺と占いばばあは出会って初めて握手をし、爽やかに別れた。


 意外なことに別れ際に至るまで占いばばあはヤキトリのことについてあまり触れなかった。


 ヤキトリのことは火を纏う鳥であることを確認しただけで、あまり興味を示さなかった。


 だが「面倒なのに絡まれるかもしれんのう」と不穏なことをこぼしていたのが妙に耳に残った。

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