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24:リュウ・セイロン

 龍帝国の若き俊英はやっとの思いで聖騎士とバードテイマーらしき男から逃げ出した。


「ふはーあぶねーっ!助かった!」


『ギャオーン!』


 愛竜のワイバーン、ドラゴが男の言葉に答え、鳴き声をあげた。


 男の名はリュウ・セイロン。レプタイルテイマーの天職を持つ竜騎士だ。


 えらい目にあったと帝国に対して恨みがましく思いながらリュウはこんな事になった原因を振り返る。




 リュウの母国ドラグニカ龍帝国は現在隣国であるフェニキア鳥聖国と交戦中だ。


 内政の失敗によって帝国民の不満が高まる中、その不満を他所に向けるため、ドラグニカ龍帝国皇帝は昔から犬猿の仲であるフェニキア鳥聖国に停戦の条約を破り侵攻した。


 結果戦況劣勢。物資損耗。帝国は追い詰められていた。帝国軍参謀は皇帝の命を受け、戦況を覆すための策を練る。そして藁にもすがる思いで一つの結論に至った。


 ドラゴンだ。


 国家の創世神話に登場する巨大な龍は強靭な鱗を纏い、火を放ち国家の脅威を祓ったとされる。国家の信仰の対象であり、強さと繁栄の象徴だ。


 神話に登場する伝説のドラゴンを探し出し、テイムし、戦争に利用する。敵対するフェニキア鳥聖国はまさしく脅威。ドラゴンを動員するにふさわしい。


 起死回生の奇策は編み出されたが、それを遂行する人間が必要だ。戦争劣勢の今、どこもかしこも人手不足。片っ端から死んでいく。妙なところで冷静な参謀はこんな博打のような策に多くの人手を割くような愚は犯さず、一人の騎士に国家の命運を託した。


 軍内最高の兵種竜騎士。その中でも精鋭かつ品行方正にして従順な人物、リュウ・セイロンに任務が言い渡された。


「伝説の龍、ドラゴンの手がかりを手に入れろ」


 それは戦時下の敵国、それも聖地への潜入任務。


 ドラグニカ龍帝国の信奉するドラゴンの出現したとされる場所はなんの因果か、不死鳥と同じフェニキア鳥聖国の聖地コーカサスの岩山だ。


 帝国民の士気を下げかねないため、これは重要機密でありリュウもこの任務を授かるまで知らなかった。


 命令の発案者は帝国軍参謀長官だが、そんな大物が竜騎士とはいえ一兵士に直接命令することはない。いくつもの伝言ゲームの果てにリュウの上官が任務を言い渡していた。その上官は言った。


「ドラゴンの手がかりを掴み、ドラゴンを見つけ出せば優秀な帝国のレプタイルテイマーの誰かがテイムに成功し、劣勢にあるこの戦争を巻き返すはずだ。」


 龍帝国のレプタイルテイマーには突出して天職の強いものはいない。皆が一様に同程度の能力だ。竜騎士としての力量は天職よりも後天的に訓練によって手にした技術によるもの。


「この任務って期待値とリスクが見合ってるのでしょうか」


 あまりに荒唐無稽な任務に従順なリュウといえど思わず疑問が口をつく。


「上層部の判断だ。お前はそれはを疑うのか?一兵士が上層部を?普通どうなのかなぁ?いや、俺はいいんだけど常識的に考えてね。上層部を疑うかな普通?」


 上官は言った。柔和な笑みを浮かべながら目はまるで笑っていない。常識、普通を口にしてリュウの言葉を非常識と切り捨てた。


 くそったれ


 リュウは内心憤る。


 竜騎士は普通や常識を逸した超人が授かる称号と謳われた。その竜騎士の隊長が常識で部下を黙らせる。


 常識で縛って何が竜騎士だ、と憤懣やる方ない思いが胸中を渦巻く。


 しかし、軍隊に置いて上官、上層部の命令が絶対であることは大原則で常識だというのはそのとおり。


 この大原則が崩れては軍事行動は立ち行かない。


 だからといってドラゴンの捜索などあまりに現実味のない作戦だ。


 リュウはそう思っていた…。





 身につけた技術のすべてを使い、リュウは敵国であるフェニキア鳥聖国に潜入した。


 幸運が重なり、ドラゴを連れているにもかかわらず危なげなく、コーカサスの岩山の山小屋を占拠した。


 管理人や警邏の者共を殺害し、ワイバーンの餌にして証拠を隠滅、ドラゴンの手がかりを探る。


 だが、定期的に人が補充されるようで、交代の人員がやってきた。


 交代の人員も処分したが、戻ってこないことで管理者に不審に思われる。捜索隊が派遣されれば流石に潜入任務を続けるのは難しい。時間がない。


 証拠の隠滅よりもドラゴンの手がかりの調査を優先した。とはいえ、調査の宛などなく、とりあえずフェニキアが大事にしている祠の周辺を探索する。


 なんら成果の得られないまま、敵国の天職持ちに遭遇した。





 リュウは命からがら逃げ帰った。ひどい目にあった。


 だが、大きな収穫があった。


 人語を操り火を纏うアヒルを処分したことと、ドラゴが火を纏い、火を吹く様になったことだ。


 おそらくは精霊憑き。


 精霊。それは世界に遍在する力の塊。稀に力が集約し、意思を持つ。


 そして精霊憑きは言葉のとおり、精霊が物や生物に憑依することだ。


 かつては伝説上の存在だったが、ここ数年、精霊付きの事例が多く報告される様になってきていた。しかし、その事例も無生物の事例で生物の事例はなかった。


 生物の事例は初めてのことだ。


 精霊は力の塊。その精霊に憑かれたものは超常の力を宿す。


 うまく扱えば幸福を、下手に扱えば災いをもたらす。


 アヒルといえど敵国が精霊憑きをその手中におさめている事実は大きな脅威だ。


 しかし、そのアヒルは処分した。


 そのうえで自らの愛竜ドラゴが精霊憑きとなった。


 これは慶事だ。


 単純にドラゴが精霊の力だけ強化されたことになる。レプタイルテイマーの天職は未だにドラゴをテイムできているとリュウに告げている。


 更に任務の手がかりとなりうる。


 火を纏い、火を吹くワイバーン。ドラゴンとの関連を疑わずにはいられない。


 帝国に戻るための大義名分ができた。ドラゴンの手がかり、その実物を見せることができる。


 リュウはポジティブな心持ちで、ドラゴを操り空を駆けた。


 この時のリュウはまさか、翌日に事件が起こるなどとは思いもしなかった。




『飛べ?嫌だよ。ワイ、働いたら負けかなと思ってる』


「は?」


 翌日の朝、なんの前触れもなく、ドラゴは話し始めた。ワイバーンの発声器官ではあり得ない音を奏でて人語を操っている。


 レプタイルテイマーの天職に意識を向けると、もはやドラゴはリュウのテイムの影響下にはないことがわかった。


「どうしよう」


 ここは未だフェニキア鳥聖国内。敵地のど真ん中。


 予想外の事態にリュウは途方にくれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 同じように無茶振りされた人が敵国にもいたとはw
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