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竜騎士が逃げ去ったあと、俺達は目的地である頂上付近の祠、そこを管理するための山小屋に到達した。
山小屋に人はおらず、しかし、生活の痕跡は新しかった。山小屋の周辺を散策すると、血のついた管理人の制服が発見された。
調査の結果俺達は竜騎兵は警備員や管理人を殺し、祠の山小屋を使って生活していたようだと推測した。
竜騎兵の目的は不明だが、敵国のエリート軍人が我が国に侵入してあまつさえ宗教的聖域を侵したことは由々しき事態だ。
更にもう一つ、竜騎兵ほどではないが報告すべき重要な案件がある。
俺の王命、不死鳥テイムの重要な手がかりヤキトリについてだ。
火を纏い人語を話すアヒルは間違いなくワイバーンに食われた。しかし、その後俺のまたがる飛脚鳥が火を纏い人語を話す様になった。
しかもどうやらこいつは自らをヤキトリとして認識し、これまでの記憶も継承しているようだった。
この現象は国家にとっても大変な関心事だろう。
不死鳥テイムへの期待が高まってしまうおそれがあり、気が進まないが報告しないわけには行かない。
報告しなければ、ただ俺が不死鳥の手がかりのアヒルを失っただけになってしまう。
気が重いものの俺達は急いで山を下り、麓の町にて知らせを国に遣った。
一息ついて翌日、俺とアンジェは飛脚鳥となったヤキトリの様子を見に来ていた。
現在最大の関心事項だ。
昨日までにわかっているヤキトリの情報は報告したが、より詳しい報告を求められることは間違いない。
その程度には俺の王命と手がかりとしてのヤキトリは重要視されているはずだ。
「あの竜騎士、精霊憑きとか言っていたな…」
ヤキトリの背中を撫でながらアンジェが思索にふけっている。
「ヤキトリの本体は精霊で、宿主のアヒルが死んだから、飛脚鳥に憑依先を変更したということだろうか」
「どうなんだ?」
俺はアンジェのつぶやきを受けて直接ヤキトリに問う。
『知らぬ。気づいたら我は今の我だった』
聞いては見たものの、期待はしていない。
人は皆他者に自分を定義されて自分を知る。他者に「お前は人間だ」と言われて初めて人間と自覚するのだ。人間がそうなのだから鳥や精霊もあらゆる万物がそうだろう。
『そもそも精霊とは何だ?』
「精霊はほとんど伝説上の存在。普段は世界に偏在しているけど、稀に集約して意思を持ち、人と関わる。強い力の塊で人を救うこともあれば災厄にもなりうる、そんな存在」
ヤキトリの質問に俺は教科書通どおりの格式張った説明をした。
『なるほど…わからん!』
「はっ!鳥畜生には難しかったか」
『何だとヒトカスごらああ!』
気の短い鳥畜生は俺の言葉に即座に激昂し蹴りを放った。鉄をも貫く飛脚鳥の脚で。
「げっ!?」
「トリガーっ!!!」
アンジェが俺とヤキトリの間に割って入り俺を守る。だが、幸いそれは杞憂だった。
『ぐっ動かぬ」
俺は身の危険を感じ、とっさにテイムの力を行使し、ヤキトリの動きを止めていた。
以前はヤキトリをテイムすることはできなかった。
その理由はヤキトリの本体が精霊であって鳥ではないというのが俺とアンジェが出した結論だった。
少なくとも鳥が本体ではない。
だがテイム済の鳥に憑依したからか、単純に俺の天職が成長したからか、今回はかろうじてテイムすることに成功していた。
当のヤキトリは『屈辱だ』とか言って騒いでいたが俺は自らの技量を確認できて満足だ。
「ふっ、どうだ!この鳥畜生が!俺の力を持ってすればお前の蹴りなんざ…」
『あっ』
「ギャッ!?」
「聖なる力 盾!トリガー!?大丈夫か!?」
俺がヤキトリを煽っていると、俺の意思に反しテイムが解け、ヤキトリの蹴りが俺に命中した。
幸い、アンジュの「聖なる力盾」によって怪我はなかったが、強い衝撃をこの身に受けて倒れてしまった。
『いっ今のは我悪くないぞ!?なあっ!?ヒトカスこら!今のはお前のテイムのせいでだな!だから殺処分はするなよ!』
ヤキトリの慌てた様子で言い訳を言い募るが聞こえる。
アヒルだった頃と違い今のヤキトリは頑強な肉体を持っている。あまり煽るのはやめようと思った。
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