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20:コーカサスの岩山

 不死鳥の伝説の生まれた地。コーカスの岩山の麓に到着した。


 国が用意した荷車を自前の飛脚鳥に牽かせて道行きを踏破した。定期的に馬屋が設置されていて飛脚鳥が休暇を取れるようになっている。


 馬屋の管理者にはすでに国から話が通っていて優先的に介抱された。


 お国はこうゆう時ばかり手際が良くて嫌になっちゃうね。


 荷車を出てヤキトリをかごに入れたまま外に出す。


 ここから先は荷車を御者に任せ、飛脚鳥に乗って、俺とアンジェとヤキトリで山を登る。


「なんだ?ここはどこだ?どこにつれてこられた?」


 ヤキトリが困惑した様子で言った。


「お前の生まれ故郷らしいぞ」


 回答しながら森に分け入る。麓から山頂を目指す。


 飛脚鳥のすごいところは険しい獣道であっても人を乗せて進む事ができる点だ。騎乗している俺の顔面に枝葉があたって不快だが、そこに目をつぶれば疲労なく山を登れる。


 俺達は国の命令でコーカサスの岩山に来ている。この地は不死鳥伝説発祥の地であり、喋る火の鳥、ヤキトリの見つかった土地でもある。その地を調査すれば不死鳥テイムの足がかりになるものが発見されるかもしれないというのが国の命令の主旨である。


 実に気が重い。


 ヤキトリは籠に入れられ、荷物とともに揺られているが、特に不満はない様子で会話を続ける。


「ん?世界に境目などない。環境条件の違いはあるだろうが、まとめて世界であり大地だ。よって故郷などないし、あるとすればこの世界全てが故郷と言える」


「おいこの鳥、哲学的なこと言い始めたぞ」


 俺はヤキトリの言葉を受けてアンジェに言葉を投げかけたが、返答したのはヤキトリだった。


「ヒトカス風情にはわからぬか…」


「なめてんのかこら!?」


「よせトリガー。鳥に怒ってどうする」


 アンジェがいきり立つ俺をなだめた。しかし、ヤキトリは興奮して言葉を続けた。


『空すら飛べぬ下等生物め。事情は知らぬがお前ら俺に手出しできんのだろ?黙って養えやヒトカスごらああ!』


 ヤキトリの大声が森中を木霊した。


「うるさっ」


 俺は思わず顔をしかめる。


 アンジェに視線を向けると彼女も顔をしかめている。


 ヤキトリに文句を言おうと口を開く前に異変がおきた。


「ヒトカスごらあ」

「ヒトカスごらあ」

「ヒトカスごらあ」


 森のそこかしこから同じ言葉が何度も繰り返し聞こえる。明らかに木霊ではない。


「ひぇっ!?おいおいおいなんだこれ?おいヤキトリ!これお前の同族か!?」

 

 しかもヤキトリの声そっくりだ。


 ヤキトリの生まれ故郷という話だし、ヤキトリの同族がたくさんいるのかとも思ったが…


「ししし知らぬわ!?なんだこれキモチワルっ!?我の言葉尻を繰り返しおって!」


「トリガー下がっていろ」


 アンジェが飛脚鳥から降りて、剣を構えて警戒する。


 「畜生!これだから国の仕事は嫌なんだ!ろくな目にあわない!身の危険ばかり感じる!」


 「ヒトカスこらっ!我のことをしっかり守れよ!お前らにとって我は大事なのだろ?なあ!」


「熱っ!!お前!火を出すな!籠取り落とすだろうが!」


「仕方なかろう!驚いたら火が出るのは生理現象なのだ!」


 アンジェの後ろでヤキトリと喧嘩しながらも周囲を警戒していると、偶然俺はその特徴的な姿を視認した。


「オウム?」


 俺は目にしたものをそのまま口にした。


「オウムとはなんだ」


 ヤキトリが聞いてきた。


「音を真似する鳥だ。言葉の意味はわかっていないが知性自体は鳥の中では高いほうだ」


 俺は説明しながら不安で早まっていた鼓動が落ち着いていくのを感じていた。


 繰り返し森の中から「ヒトカスごらあ」と唱和される不気味さも理由さえわかればなんてことない。


「下等な鳥程度が我の声真似をするとは不敬な」


「お前、以前鳥を上等な生物みたいなこと言ってなかったか?」


「それはヒトカスと比較したときの話だ!鳥の中にも格差はある!」


 「おい、トリガー。原因はそのオウムとかいう鳥だったということでいいのか?」


 「うん多分ね。アンジェ警戒解いていいよ。大丈夫そうだ」


 俺はそう言いながら異常の原因だったオウムを見つめ、考える。


 オウムのことは知識では知っているが実物を見るのは初めてだ。


 真っ赤な羽毛に覆われていて、羽の末端に向かうにつれてグラデーションのように色が変わる。特徴的な色彩豊かな鳥だ。個体差の大きな種で、色も体の羽毛が赤ではなく青や緑の個体もいる。


 俺の天職バードテイマーの能力は多くの種類の鳥をテイムすることで成長していくとされているし、俺の経験上それは正しいと思っている。不死鳥テイムの王命の件もあるし、俺の天職を成長させることに損はない。


「アンジェ、あのオウムを捕まえてほしい。テイムしたい。」


 鳥のテイムはその方法や難易度に種族差や個体差がある。オウムはまだ試したことがないのでわからないが、難易度の高い鳥でもたいてい捕らえてしまえばテイムできる場合が多い。


 俺が今まで捕らえてなおテイムできなかったのはヤキトリだけだ。


「無理だ。あんな高い木の上では…」


 アンジェが難しい顔で弱音を吐く。だが、安心してほしい。有能な俺は案もなく人にお願い事をしたりしない。


「いや、聖なる力(セイクリッドフォース) (シールド)をオウムの全方位に展開すればいいじゃん。あとは逃げられないオウムにアンジュが近づくだけ、手の届く範囲に接近すればアンジュが鳥程度を逃すことはないでしょ」


「むう」


 悔しそうな顔をするアンジェに俺は興が乗る。やれやれと首元まで手を上げて、ゆっくり首を振りながら口を開く。


「アンジュは頭固いよね。固いのは防御力だけにしなよ。自分のスキルの応用ぐらい…」


「お前の頭は確かに柔らかいなあ!」


「ギャアアアァッー!!!痛い痛い痛い!頭が握りつぶされるぅ」


 アンジェにアイアンクローを食らい、手指が俺の頭を握り込み、ギシギシと頭蓋骨が悲鳴を上げる。


「ごめんなさい!ごめんなさい謝るから手ぇ離してっ」


「一言余計なんだお前は」


 まったくと吐き捨てながらアンジェが力を緩めた。


 痛みを伴いながらも、かくして俺はオウムを捕らえ、そのテイムに成功した。


 あらゆるテイムに共通することだが、極端な話、生殺与奪の権を俺が握っていることを実感を持ってテイム対象に伝えることができればテイムは成功する。


 オウムは知性が高いため、テイムが多少難航したが、縄で縛り上げて、火で少しづつ炙っていたらテイムは成功していた。


 虐待にも思えるかもしれないし、実際アンジェは引いていた。しかし、これも仕事の範疇だ。さらに俺の受けている王命を考えると、テイム能力の向上は俺の生き死にに関わる重要な要因だ。多少の非情は勘弁してほしいし許されるべきだ。


「命可愛さに人間にテイムされるとは、鳥類の恥さらしよ。我を見習ってほしいものだ」


 ヤキトリが言う。


「籠の鳥がなんか言ってら」


 俺は鼻で笑った。



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