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2:シタガウル男爵家

 俺は実家で両親に俺の身の不幸を叫んだ。


「父上!母上!聞いてくれ!王様ってばひどいんだ!」


「よそ様にはそういう事言うなよ」


 父の心無い冷めた返答は無視して王より下された命令について説明した。


「俺に不死鳥をテイムにしろだなんて正気とは思えない。王はご乱心だ!そこで提案なんだがクーデターを起こすというのはどうだろう」


「馬鹿なこと言ってないで働きなさい。鳥のテイムはあなたの数少ない取り柄じゃない」


 と母が言った。あなたの息子は謙虚だから知られてないだけでたくさんの取り柄があるのですよ。そう内心思ったが、話がそれるし、謙虚だから口には出さない。それよりも大事なことがある。


「テイムするには対象と対面しなければならない!つまり、不死鳥に対面しなければならないんだ!テイム失敗したら死ぬだろ!相手は火を纏ったおばけ鳥だぞ!」


「おばけ鳥言うな。国家の象徴だぞ」


 父はのんきに茶々を入れてくるが、話の焦点はそこではない。


「命の危険があるんだぞ!可愛い息子に!」


 俺はセリフと共にここぞとばかりに憐憫と庇護欲を誘う上目遣いで両親を見やる。


「戦時中だ。男子に生まれたならば死の危険は常にある。あと、お前を可愛いと思ったのは赤子の時が最後だ。」


「安心してトリガー。あなたは私たちの心の中で生き続けるわ」


 残念ながら俺の罪悪感に働きかける策はまるで通用しなかった。信じられない。人の心がないのか俺の両親は!


 俺は苦し紛れに叫ぶ。


「きれいごとで煙にまこうとしたってそうはいかないぞ!」


 少し焦って頭の悪そうなことを言ってしまった。恥ずしい。だが、こういうときは恥も外聞も捨てるのが肝要だ。多少理屈や論理が破綻していても感情で押せば道理は引っ込むはず。


「王命を無視すれば一族郎党根絶やしだ。お前一人が我慢すれば俺たちに被害は及ばない。お前も死ぬと決まったわけじゃない。まあ、望みはある。希望を捨てるな」


 だが両親には通用しなかった。


「自分達さえ生き残ればそれでいいのか!なんて奴らだ」


 俺は必死に抵抗する。


「鏡見てからいいなよ。兄上」


 弟が会話に入ってきた。


「お前!家督を譲ってやった恩を忘れたか!」


 俺は兄の威厳で最大限弟を威圧する。


「兄上がめんどくさいって押し付けてきたんだろ!天職があるから食うには困らない。貴族当主とかやってらんないとか言って!」


「…」


 そうだっただろうか。そうだった気もする。


 嘘も方便かと思い、虚言を吐こうとしたがその前に父が口を開いた。


「諦めろトリガー。我がシタガウル男爵家はお前に王命が下ったことを栄誉とし、お前の命令遂行を支援及び監督する。そもそもお前に命令が下る前に王は我々にご相談いただいている。我々が承知したうえで王はお前に命令されたんだ。異論は認めん。お前もその王命を栄誉とし、任務に励め。以上だ」


 なんてことだ。すでに外堀は埋められていた。俺はうなだれて、その場を離れた。




 屋敷の警備の巡回ルート・時間は熟知している。家を抜け出すことなど俺にかかれば造作もない。


 生家すらも俺を無茶な王命から守ってくれない。それどころか、積極的に関与していることが判明した。


 幼馴染も共に逃亡してはくれなかった。ならばもうひとりで逃亡するしかないだろう。


 悲劇の主人公俺の逃亡劇が今、始まる。


 不幸な自らの現状に陶酔しつつ、家の敷地を出る。


 だが一歩出て早々に俺は拘束されてしまった。


「な、なんだ!?誰だ!?よくわからんがとりあえず俺のことは丁重に扱えよ!俺の両親は俺にたんまりと身代金を払ってくれるはずだ!」


 俺の命乞いに対して深い溜息が返ってきた。


「はあ。トリガー、私だ。」


「アンジェ!なんだ?なんでアンジェが俺を?俺の貞操でも奪いに来たのか?こんな強引な手段じゃなくたっていつでもくれてやるのに」


「バカを言うな!お前のご両親に頼まれたんだ!」


「俺の貞操を奪えって?」


「お前の逃亡を阻止するようにだ!お前は勉学はできるが考えが浅はかだからな。一時の感情で将来を棒に振る行動をするだろうとのことだったが、ご両親のおっしゃるとおりだったな」


 俺は露骨にがっかりする。ちょっと期待しちまったじゃねえか。


「おい!わかりやすくふてくされるな!」


 俺は返す言葉を考えるが、なかなか思いつかない。


 ふてくされている人間にふてくされるなと言われても、ふてくされる以外にできることがないから、ふてくされているわけで…。


 そんなわけでなにか思いつくまでふてくされたままでいたところ、アンジェが根負けして口を開いた。


「王とて不死鳥テイムに国の趨勢をかけるほど暗愚ではないだろう。さらに言えば、すぐに達成される任務とも考えていないはずだ。猶予はある。ひとまず鳥の生態研究から始めてみたらどうだ。不死鳥の生態を暴き、居場所を知る手がかりになるかもしれない。バードテイマーの天職の熟練度向上にもつながる」


 その言葉に俺は光明を見た。


「なるほど。生態研究を理由に可能な限り不死鳥捜索やテイムを先延ばしにする!あわよくば戦争終結で命令の撤回を狙うと、つまりはそういうことだな!?」


「そんなつもりで言ったわけではないが、お前がそれでいいならいい」


 かくして俺は鳥の生態研究に本腰を入れることとした。




「それにしてもアンジェ。両親から俺の監視を頼まれたからといって、よくこんな広大な屋敷で俺を捕まえられたな。一人だと監視できる範囲にも限界があるだろ。やはり愛か?」


「何を言っている。お前、家族や使用人の気を惹こうとして、これでもかと痕跡を残していただろう。ことごとく無視されていたが」


「…」

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