18:火を纏う鳥
※本作に登場する鳥知識はフィクションです。
「火を纏う鳥だと?」
俺は思わず占いババアに確認する。
「そうだ」
占いババアの真剣な表情と真摯な言葉。だが認めたくない俺は抵抗する。
「嘘だ!」
「いや、本当だ」
「いいや。本当なはずがない!火を纏う鳥なんてまるで…」
言いよどむ俺の言葉を引き継ぎアンジェが言った.。
「まるで不死鳥じゃないか」
「嘘だあああああああああ!」
それは俺が避け続けてきた不死鳥の手がかりだった。
鳥小屋の不首尾の精算については占いババアに任せて、俺たちは例のアヒルがいる鳥小屋に来ていた。
床板も鳥小屋の壁も鉄等火耐性の高い材質でできており火災の心配はない。
さらには池までが小屋内に設置されていた。なぜこれをうちの領地によこさない!?と複雑な気持ちになるほど行き届いた鳥小屋だ。
鳥小屋に入ってすぐ、地面に置かれた餌箱のそばに件のアヒルはいた。
一見普通のアヒルに見える。白い羽毛、つぶらで黒い瞳、黄色く柔らかで野性味の感じられないくち嘴、丸くふくよかなフォルム。
火は纏っておらず、人間にとって都合よく飼いならされた普通のアヒルだ。
「こいつが例のアヒルじゃ」
占いババアはそのアヒルを指し示して言った。
すると突然アヒルは翼を広げ、羽の先から火が付き翼全体に燃え広がった。
メラメラ赤く燃焼しその高温によって空間が揺らぐ。
その光景はアヒルとはいえどこか神秘性を感じさせた。
「まさか本当に…」
アンジェがぽつりと零した。言葉はしりすぼみに消えていったが、そのさきは言わずともわかる。
まさか本当に火を纏うとは。まさか本当に不死鳥の手がかりになるのか。
俺とアンジェが言葉なくアヒルを凝視しているとアヒルがこちらに視線を向け、そしてその黄色い嘴を開いた。
『うわっヒトカスやんけ!』
予想だにしない第一声に俺とアンジェは唖然とする。
そういえば人語を喋ると言われていた。そして確かに人語を話している。
だが、なぜだろう。騙されたと感じるのは
俺たちが黙っているとアヒルはまた口を開いた。
『空すら飛べぬ下等生物がまた増えた。神聖なる我に奉仕する権利をくれてやろう。ん?奉仕がわからぬか?養えと言っている』
「…」
『おいそこのヒトカスのオス!』
「おれ?」
『そうだ!童貞くさいお前だ』
「よし殺そう」
俺はあまりの暴言に我を忘れてアヒルに飛びかかる。
「やめろトリガー!不死鳥の手がかりだ!」
「だからだろうが!」
苛立ちの発散ついでに不死鳥の手がかりの隠滅を図る。一石二鳥の名案だ。
「おまえ!それが目的か!?」
俺はアンジェの静止を振り切りアヒルに飛びついた。しかし…。
「うわっち!あちいい!」
『愚かなりヒトカス!』
「火をまとうと言っているだろうが」
火傷を負った俺をアンジェが叱責する。
「だってあいつ俺を童貞って…」
「それは事実だろう?」
「どどど童貞じゃねーし」
「あっこら!暴れるな!」
俺はしばらく癇癪を起こしたがアンジェになだめられる。しかし、気はおさまらない。
「大体なんだてめえは!?鳥風情が生意気言いやがって!火をまとうからなんだってんだ!大体お前ら鳥類は小型の弱っちいトカゲが陸上の生存競争に負けて空へと逃げた敗北者の血筋だろうが!」
『はっ、はあ?それあなたの感想ですよね?証拠でもあるんですかあ?我ら鳥類が敗北者の血筋だという証拠でもあるんですかあ?あったら見せてみろやヒトカスコラ!』
「うは!動揺してるじゃん!図星つかれて動揺してるよこのアヒル!」
『ヒトカスこら!先程から失礼だぞ!大体我には立派な名が…』
占いババアは俺たちの様子に頓着することなく冷めた様子でアヒルの言葉を遮り名を告げた。
「名をヤキトリという」
あまりの名付けに俺はすんと我に返った。
「ふざけてんのか?」
「王の名付けじゃ」
「ぐっ」
「名前から上層部の苛立ちがうかがえるな」
アンジェが眉をしかめて言った。
このアヒル、上層部相手にこの態度を取ったのか。少し笑えるな…。
アヒルが『違う!そのような名ではない』と騒いでいるが無視する。鳥風情に自己命名権はない。
「さて、この鳥をトリガーお前に預ける。不死鳥テイムの手がかりになるはずだ」
「え?」
「王の命令だ。異論は許されぬ。追って正式な通達が届くじゃろう」
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