17:王城とクレームと占いババア
※本作に登場する鳥知識はフィクションです。
お粗末な鳥小屋の件について文句を言うため王城に出向いた俺は周囲に目線を向けながら歩いていた。
「どうしたトリガー。何をキョロキョロしている?」
俺の行動をアンジェが見咎める。
「役職のない下っ端役人を探してる。お偉いさん相手に怒鳴りつけるわけにもいかないだろ」
「下っ端役人相手でもやめてやれ。鳥小屋の不首尾の責があるわけではないだろう」
アンジェは諭すように言った。だが俺にだって常識くらいある。
「連帯責任って知ってる?」
「お前という奴は…」
アンジェは呆れたようにため息を付き、肩を落とした。甚だ心外だ。
そうして仲睦まじく二人連れ立って歩いていると、見知った人影が曲がり角に見えた。
「クソババア!ここであったが百年目!あの鳥小屋はどういうことだあ!?」
「なななっなんじゃ!?」
偶然居合わせたのは占いババア。俺は鬱憤を晴らそうと老体に飛びかかりその肩を激しく揺らす。占いババアは唐突な出来事に目を白黒させている。
「なんじゃじゃねええ!鳥小屋とりかえろおお!!!!」
「ななななんじゃ!?なんじゃ?なんじゃ?」
「おいトリガーやめろ!テスカ様が仰天しておられる!大体テスカ様に言ってどうする!まるで権限のないお方だぞ!」」
「むっ、それもそうか。このくらいで勘弁してやる」
俺はアンジェの言葉を受け、占いババアを解放してやる。占いババアはケホケホと咳き込むとジロリとこちらを睨んだ。
「シタガウル家の恥晒しめ、老体を労ることを知らんのか!」
「知らん!」
「こら!トリガー!テスカ様に謝れ!もういつ昇天してもおかしくないお年なのだぞ!」
「アンジェよ。お前の言い草もかなり辛辣だぞ。儂でなければ傷心している」
占いババアの言葉にアンジェはシュンとして小さくなる。可愛い。
互いに落ち着いたところで、俺たちは飛脚鳥戦争の功績の報奨である鳥小屋が不良品で危うくマスキュール家と同じ状況を招くところだったこととその文句を言いに来たことを占いババアに説明した。
「飛脚鳥の関係は複雑に利権が絡んでおるからの。材木、釘などの金具、職人、輸送業者の何処かに軍閥の関係者がおったのだろうよ。儂から今の話を国王に伝えておこう。床板くらいすぐに調達してくれる」
「ありがとうございますテスカ様」
「お、おう。やけに話がわかるな。不気味だ」
「やっぱ黙っておこうかのぅ」
「すみませんでした。なにとぞよろしくお願いいたします!」
「ふんっ。まあいいわい」
俺が謝罪をすると占いババアは鼻を鳴らし言葉を続けた。
「トリガー、貴様に話がある」
「ほら見ろ!裏があるじゃねえか!やけに素直で協力的だと思ったんだよ!」
「話を聞け」
真剣な様子に俺は気圧され黙り込んだ。
「人語を話す鳥が見つかった」
「オウムかインコのことか?あれはただ音を真似てるだけだぞ」
稀に知性の高い個体が特定の言葉を理解し扱う事例が報告されているが、ほとんどの場合はただの声真似だ。それにこの程度のことは誰でも知っていて、占いババアが深刻になるようなことじゃない。
「アヒルじゃ。明らかに意味を理解して返答する様子がある」
アヒルは家畜化した鴨だ。色が白く、人語を話す声帯を持ち合わせてはいない。人語を話すのであれば確かに不思議なことだ。
だがだから何だというのだろう。どうでもいいことのように思える。占いババアの話への興味が失せてきた。
「それともう一つ特殊な点がある」
「まだあるのか」
俺のうんざりした言葉に反応する様子も見せず、重々しい口調で占いババアは言った。
「そのアヒルは火を纏う」
それは大変だ。
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