14:飛脚鳥と人間の争い3
※本作に登場する鳥知識はフィクションです。
「あっ、死んだわ」
俺は全てを諦めた。
「馬鹿者!しっかりしろ!
迫りくる数千数万の飛脚鳥の軍勢を前に世を儚む俺。そんな俺にアンジェが怒鳴るも、轟く飛脚鳥の足音と雄叫びにかき消された。
あの後すったもんだあって翌日だ。たいした休暇もなく、戦場に駆り出されることとなった。口は災いの元って本当だね
「せやかてアンジェ!見ろよあの数を!あの顔を!」
餓えにあえぐ畜生の相貌は恐ろしい。目に光はなく、口は常に開かれている。まろび出た舌は風圧に震え、よだれが空を舞う。
確かにこりゃテイム大変だわと思わされる。
他のテイマー、同時に10羽もテイムしたの?これを?すげえ。
俺にしては珍しく素直に称賛の念が浮かぶ。
とはいえ10羽だろうが100羽だろうがテイムできたところでこの戦場をどうこうすることは残念ながらできない。
自分の天職の力には自信があるが、流石にここまでの数を相手にテイムを行使したことはない。
牧場にいる飛脚鳥の数は多くてせいぜい数百だ。
「はあ、全く」
アンジェは深い溜息を一つ吐くと、腕を前方に掲げ、唱えた。
「聖なる力 盾」
前方に半円を描くように聖なる力が結集した光の盾が出現した。
何十羽もの飛脚鳥が光の盾に到達し、鉄の盾をも貫く蹴りを放つがキィイインと甲高い音が響くだけで揺るがない。
飛脚鳥は何度か突破しようと蹴りを繰り返すがやがて諦め迂回する。
「これでお前の身は安全だ。だから落ち着いて仕事をしろ」
アンジェが振り向き、俺に向けてそういった。
やだ。かっこいい。アンジェは見た目だけじゃなく、この能力の高さと器の広さからくる包容力も魅力なんだよなあ。ちゅき。
流石にアンジェの働きには応えなければならない。
「熱した石を撒け!」
俺は周囲に命令する。俺の命令に応え、焼かれた石がばらまかれた。
飛脚鳥は熱した石を不意に踏みつけ飛び上がる。行動を阻害し、足止めに成功している。
だが熱した石の目的は足止めだけではない。
飛脚鳥に限らずだが、多くの鳥は歯を持たぬため食事において咀嚼できない。
代わりに奴らは石を複数飲み込み、砂嚢にため、食物をすりつぶし消化しやすくしている。
石は擦り切れ排泄されるから常に呑み込み続ける必要がある。
あいつら本能で石を飲み込んでいるから、熱した石だろうが関係なく呑み込む。
熱した石を呑み込むと内臓が焼け、さしもの飛脚鳥も衰弱死する。
自発的にも呑み込むが、それ以上にテイムで命令して食べさせられることが大きい。
飛脚鳥は知能の低さゆえにテイムすることは簡単だが、代わりに単純な命令しかできない。また、単純な命令であっても「死ね」など本能に逆らう命令を実行させることはかなり難しい。
さらに餓えによって命令がより困難になっているが、熱した石を食べるよう命令するのは本能に凖ずるため比較的難易度が低い。餓えていても命令に従う可能性が高い。
このことによりバードテイマー単独で飛脚鳥を戦闘不能に追い込むことが可能になる。
今まで息の根をを止める役割の者とセットで運用されていたが、より効率的に飛脚鳥を駆除できるようになった。
後は俺がどれだけの数をテイムできるかだ。
俺は口に指を添えて天職の力を使用した。
「鳥笛」
天職の力を乗せた空気の振動が響く。テイムはまず鳥の意識をこちらに向けるところから始まる。
飛脚鳥は知性の代わりに身体能力にステータスを全振りしたような生き物だ。足が早く、生命力が強いだけではなく、目も耳もいい。
俺の視界の外にいる飛脚鳥もこの鳥笛の音を聞きつけ、俺に意識を向けているはずだ。
さて、餓えという極限状態の飛脚鳥に果たして俺の天職はどの程度の効力を発揮するのか
「テイム」
俺がその言葉とともにテイムの力を行使した瞬間、時が止まった。そう錯覚した。
一瞬の静寂とともに視界いっぱいの飛脚鳥達がピタリと動きを止めたのだ。
「え?」
俺とアンジェは思わず言葉を失う。
「もしかして俺の天職の力強すぎ?」
「いや、流石にこれほどの数を…、一人の人間が…、ありえるのか?」
アンジェは疑問を口にする。しかし、俺には確かなテイムの手応えがあった。
現実を呑み込むと、気分が高揚してきた。俺は湧き上がる衝動を表現すべく拳を振り上げ叫ぶ。
「ふはははは!見ろ!これが俺の力だ!バージェス!マスキュール騎士爵!その他俺をバカにしてくれたバカ共!ざまあみろ!」
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