12飛脚鳥と人間の争い
※本作に登場する鳥知識はフィクションです。
大繁殖した飛脚鳥の駆除という王の新たな命令を受け、マスキュール騎士爵家の領地に到着した俺たちはその惨状に唖然とした。
「これはひどいな。同じような荒廃地が広がっているのか…」
穀倉地帯として名をはせた豊穣の土地が見る影もなく荒れ地と化していた。
俺たちは高台にいて、武装した人間達と餓えた飛脚鳥共の大集団同士が遠方で争っているのがうかがえる。
こうした争いはもはや日常と化していると聞いている。
「クォオオクォオオオ」とけたたましい飛脚鳥の鳴き声があたり一面に轟いていている。黒い羽毛を纏い羽を広げて走る様は異様でなかなか迫力がある。目の前に居たらさぞ恐ろしいだろう。
飛脚鳥は無秩序で統率などまるで取れていない烏合の衆だが、目的だけは一つ、食料の獲得だ。餓えにより目の色変えて突進する。
本能の為せる技か、飛脚鳥共は人間の集落に餌があることを知能が低いながら知っていて、そこを目指している。
人間側は自らの食料を奪われないために飛脚鳥と戦っているわけだ。
マスキュール騎士爵家の兵士と思わしき兵士達は息をあわせて矢を放っているが、羽毛が頑丈で、羽毛に覆われていない小さな頭部や細い首に当てないと意味をなしていなかった。
戦闘に関する天職持ちがちらほら目に入るが、飛脚鳥の物量に押され苦戦している
飛脚鳥は嘴に突かれるのも脅威だが、その健脚による蹴りが強烈だ。爪も硬く、鉄の盾を容易に貫く。
そんな身体能力の高い飛脚鳥を相手にするには1羽につき完全武装した兵士が4,5人必要だ。それにも関わらずその総数は飛脚鳥が兵士を大きく上回る。実数はわからないが、遠目で見ても一目瞭然である。
それでも飛脚鳥を抑え込めているのは天職持ちのおかげだ。苦戦しながらも一人で飛脚鳥10羽ほどを一度に抑え込み、倒し続けている。
「ん?おいトリガー、あれはバージェスじゃないか?」
「うえっ、マジ?」
アンジェの言葉に俺は思わず嫌そうな返事を返す。
バージェスの天職、重騎士は重装備のタンク職だ。重装備なうえ、派手な技が多いため目につく。デコイという敵意を自らに集めるスキルを使用し飛脚鳥を集めたところで重量武器を振り回し倒す。
踏み込みにより地揺れを起こすスタンプというスキルを使用して飛脚鳥の動きを阻害し、シールドバッシュという大盾を構えて突進するスキルで飛脚鳥をはね飛ばす。
「ちっ、バージェスは馬鹿のくせに戦闘はちゃんと強いから腹立つんだよな。」
他の戦闘職と比べても頭ひとつ抜きん出た戦闘力があることが傍目からでもわかる。
「まっ、アンジェのほうが強いけどね」
「トリガー、持ち上げてくれるのは嬉しいが、対多数の制圧に関しては流石に重騎士にはかなわないぞ」
「アンジェは謙虚だね。力持つものはこうでなくちゃ!バージェスみたいに強いからって傲慢で横柄な態度をしてちゃいけないよ!」
「お前、以前力ある者が好き放題振る舞うのは当然の権利だとか言ってなかったか?」
「…、そうだっけ?」
俺はすっとぼける。
俺の返答にアンジェは呆れた表情で「お前というやつは…」と呟いた。
俺がアンジェの視線に耐えかね、目を逸らした時だった。
戦場で動きがあった。
「うおっ!?バージェスのシールドが突破されたぞ!?」
飛脚鳥は数に任せてついに重騎士の防御スキルシールドを突破し、バージェスを踏み潰し先へと進んだ。そして一度倒れたら続く飛脚鳥にふまれ続けもはや復帰はかなわない。
「まあ、あいつは頑丈だから死にはしないだろ」
バージェスが飛脚鳥の進行を食い止めている間に兵士たちは飛脚鳥を囲い、行動を狭める道具や罠の準備を完了していた。
なんとか囲い、動きを制限することに成功した…と思いきや
「あ、飛んだ」
飛脚鳥達は罠や囲いを翼を広げ、飛び超えた。
ピンチである。
「わ、私達も加勢したほうが…」
「まあ待ちなよ」
アンジェが義憤にかられ、加勢しようとするのを止める。勝手な友軍の参戦は必ずしも場を好転させるとは限らない。
仮に好転させたとしても、助けてやったはずの奴らから手柄を取られたと逆恨みされかねない。助勢先がそんなことをしないだろうと信用できる相手であれば現場判断で加勢しても良いが今回の相手はそうではない。
なので加勢しない。
それにまだ奥の手は残されているはずだ。
案の定、マスキュール騎士爵家は動いた。
匂いの強い食料をその場に放出し始めたのだ。
食糧の本体を奪われないためにその一部をここで放出する、トカゲの尻尾切りのような逃避技だ
一時しのぎにしかならないが、今はその一時が大事なのだ。
目的通り、飛脚鳥は食糧の匂いにつられて急ターンをし、引き返してきた。
飛脚鳥共が喧嘩しながら食糧を取り合っている隙きにマスキュール騎士爵とその友軍は撤退していった。
「敗色濃厚だね」
「ああ。かなり劣勢のようだ」
「でもあいつらは戦略的撤退だって言って劣勢を認めないだろうなぁ」
「それはまあ、士気にもかかわることだ。必ずしも指揮官の無駄なプライドとも言えない」
「それもそうか」
王命で無理やり俺に敵対している様子の軍閥の領地にきたけれど、正直かなり気は進まなかった。未だに暗殺は怖いし、そうでなくてもアイツラいちいち態度が横柄で傲慢で嫌味っぽいからな。
だがここまで劣勢なら今はどんな人間でも人手がほしいはずだ。あまり無下には扱われないはず。
俺はにっこり笑って言った。
「こいつは恩の売り甲斐があるね」
「こら!やめろ!マスキュール騎士爵は諜報部門の呼び声高いんだ!どこで誰が聞いているかわからないっ!」
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