6◎寄り道
「とにかく」
マテオの菫色に、また陰が薄くさす。
「油断は禁物です。あなたが吸血鬼に変わってしまうきっかけを見つけて、避けなければ」
「そうですねぇ。でも、その小説での吸血鬼は、魂のない化け物って書いてありましたよ」
そもそも、小説のカミラが吸血鬼になったのは、蘇生と同時である。
「今のカミラさんには魂があるから、大丈夫だと?」
「そう思いませんか?」
マテオは、うーんと唸る。
「小説のカミラさんが元々吸血鬼だったなら、今のあなたの魂は、本来違う転生先があったのかもしれません」
それは想像していなかった。
「でも、それを言うならマテオさんもでしょ?黒い糸屑の影響がなければ、普通に現実世界に転生できていたんじゃないですか?」
「確かに、次も人間ですって、判決をいただきました」
私はマテオの眼をまっすぐに見つめる。マテオが赤面した。
「あの、私もです。架空人物行きだとか、架空世界行きだとか、そんなことは聞いていません」
私が気になっていたことを言うと、マテオは軽く俯いてから意見を出した。
「そしたら私たち、次は、元の世界の未来へ人間として転生出来るかもしれませんよ」
「ここにいるのは、寄り道みたいなものでしょうかね?」
私が遠慮しながら言うと、マテオは顔を上げて破顔する。私の体温が一気に上がった。
「そうです!きっとそうですよ!」
「小説のお母君は、小説のカミラさんが小説のお父君に可愛がられても、虐げられておられたのですよね?」
マテオはレモンミントゼリーが1番上の層にある、薄黄色のムースケーキにフォークを入れる。怖い話をしているのに、もごっと口の端がにやけている。このお菓子が大好きなのだ。可愛い。口元を愛でていると、マテオと目が合ってしまった。マテオは気まずそうに目元を赤らめた。
「小説では確かにそうです。小説のカミラは吸血鬼女王なので、魔法伯爵マルケスのことも支配していたのかも知れません」
「その答えに繋がりそうなヒントは、作中にあったのですか?」
「どうでしょう?伏線らしきものは、小説の母が何故か眷属にされなかったこと、聖剣侯爵カサヴェテス様が冷徹な魔法伯爵の唯一心を許す学友だったこと、くらいですかね?」
私は、ついさっき思い出したネットエタ怪奇小説の内容を思い出しながら話す。エタ小説なので、思わせぶりな描写に解答となる背景が用意されていたかどうかなど、謎である。思い付きで書き進めた伏線風のあれこれは、当てにならない。
マテオは真剣な顔で聞きながら、ムースケーキを口に運ぶ。
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続きます