1◎転生
2話以降は毎日20:00pm更新
2022/12/10-12/22
1話1000字強、全13話です
カミラ・ベラ・マルケスは、転生者である。すなわち、私。艶めく黒髪を少女らしく背中に垂らし、母親譲りの黒檀の瞳が神秘的で長身な16歳だ。
前の私は、平凡な人生を全うして、いざ閻魔様のおん前に。浄玻璃の鏡に姿を映した。
「普通の人生、次も人間でよし」
大きな木槌が振り下ろされて、私は長い列に案内された。涅槃には遠いが、地獄行きや虫からやり直しは免れた。まずまずの出来であろう。生前の私、よくやった。
「こちらに並んでお待ちください。順番に呼ばれます」
じわじわと進んで、ふと振り向くと私の後ろにも長い列が出来ていた。
「列、長いですよねー」
後ろの人がのんびりと言った。
「普通の人は1番多そうですからね」
「ですねー」
私はまた前を向く。時々、後ろの人とふたことみこと言葉を交わす。
「お名前、伺っても?」
何度目かの時に聞かれた。
「ええ、あれ?名前?なんだったかな」
「おや?私も、思い出せない」
「普通の人なら、あの世でだいぶ過ごしてから忘れて転生するもんなんじゃないんですかね?」
「そうですよね。お盆に戻らなくていいのかなぁ」
「家族、いる筈ですもんね」
「それも思い出せないけど」
私たちは眉を寄せて考え込む。
「ラーメンは醤油が好きだとか、ハンバーグは目玉焼きを載せたいとか、そういうのは覚えてるんだけど」
後ろの人が言った。この人は食いしん坊なのだろう。なんとなく和む。
「ああ、私もです」
私は、若い頃に読んでいたWeb小説まで覚えていた。なのに、自分の名前や家族のことは霞がかかったようにぼんやりとしている。お盆、どうするのかな。家族かわいそうだな。
「あ、でも、誰も霊感無いような気がするから、向こうには支障ないかも」
「お盆の話ですか」
「お盆の話です」
「忘れちゃうのは寂しいですね」
「そうですね」
後ろの人にも、忘れたくない人がいたのだろう。そういう感覚だけ残っていて、実際にはもう忘れている。私たちは、何とも言えないやるせなさに口をつぐんだ。
またしばらく黙って順番が来るのを待つ。
「お待たせしました。この通路をお進み下さい」
列のあった広間は、幾つかの通路に続いている。それぞれの列の先頭には係員がいて、1人ずつ各通路に入れてゆく。やっと私の番がきた。
「ぎゃっ」
「うわっ」
私は突き飛ばされた。後ろの人も巻き込まれた。なにやら真っ黒な顔をした人が逃げている。顔は塗りつぶされたように黒く、嗄れ声で叫んでいた。
「あのエタ小説が再開するまで死ねないって言ってるだろ!わかれ!」
その人はすぐに取り押さえられた。私たちは列に戻る。私は順番が来ていたので、通路に入ろうとする。
「なんか糸屑みたいなの、ついてますよ」
後ろの人が言った。肩に黒い糸屑が付いていた。
「ほんとだ。あなたにも」
「おや、そうですね。ありがとう」
私たちは糸屑をつまむ。
「取れませんね」
「何でしょうね」
2人でモタモタしていたら、誘導している係員に促された。
「お進みください」
「あ、すいません」
私は通路に入った。
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続きます