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蠱毒の者

記憶喪失の遭難者

今は何も持っていないが全てを失ったわけではない

ザザ~…ン……ザザ~…ン……


 遠い意識のどこかで波の音が聞こえる

 泥に沈んだような意識と共に身体は鉛のように重く他人の身体かそれこそ死体のように動かない

 徐々に意識が覚醒し始めて指先が僅かに動かせるようになったところで顔面に海水がぶっかかった


「っげほぉ!ゲホッゲホッ!おえーっ!ハァハァ……なん、どこだここ!?」


 思いっ切り体を起こして口の中どころか胃にまで溜まっていた海水と砂を胃がひっくり返る勢いで全てを吐き出す

 多少落ち着いてから周囲を確認するといかにも無人島といった熱帯な自然が目の前に広がっていた

 ギラギラ照り付ける太陽の光から逃れるようにのろのろと海水に半分浸かっていた身体を引き摺って木陰に移動する


「遭難ってやつか?……何1つ思い出せねぇ」


 目の前の砂浜には夥しい数の座礁した船の残骸が流れ着いていた

 その全てが木造の船だが種類も大きさも様々だ

 小型の漁船のような物から始まり大型の軍艦のような物までもはや浮く事もできぬ姿で海面から顔を出している


「俺の着てる服は……簡素だし普通の船乗りだったのか?」


 ボロボロになった服とその下から覗く筋肉質な日焼けした身体を見て浮かんだ考えを声に出す

 ポッケには何も入っておらず自分の名前も身元も分からない

 唯一の持ち物は腕に嵌った高価そうな黒金の腕輪だ


 「これは略奪品か?普通の船乗りがこんなもん付けてる訳無いし、海賊の下っ端ってとこか」


 自分以外にも生存者がいないものかと視線を巡らせるが目に付くのは砂浜に埋まりかけている白骨くらいだ

 掘り返してみると腰帯に武器がぶら下がっていたり装飾品を付けている骨もあるので有難く貰っていく

 短銃もいくつか有ったが火薬が湿っていて使い物にならなそうだった


 「さてと、武器はこの海賊剣を持っていくとして他の財宝はどうするか」


 この無人島では使い道は無く水も食料も確保できていない状況では言葉通りのお荷物になる

 どうせ他に人は居ないのだからと木の下に埋めて目印に頭蓋骨を置いておくことにした

 ろくに体力が無いのに金目の物を確保してしまうのは人間の性なのだろうか?


「うっ……眩暈がする。喉も乾いたな、島の外周を歩いて川か水源を見つけないとマズいぞ」


 着ている服のガサガサに乾いた不快な感覚に嫌になりながらゆっくりと歩き始める

 そこそこの大きさの無人島だが日が暮れる前には流れの緩い大きな河を見つけることができた

 服のまま水に入り泳ぎながらごくごくと水を飲んでいると目の前にツルツルした白い生き物が近づいてきた


「なんだこいつ?イルカか?」


 とりあえず腹が減っていたので思いっきり頭めがけて海賊剣を振り下ろした

 まっぷたつに裂けた肉を岸に引き上げるとそれはイルカではなく牙も鱗も無いワニだった

 食べやすいサイズに切り分けて火にかけ焼けるまでの間に近場に草木で寝床を作った


「ふぅ~喰った喰った。いや~ワニも美味いなぁ~」


 結局1匹では足りず3匹目のワニの丸焼きを食べ終えるとやっと生き返ったような心地になる

 すぐに日も暮れて辺りが暗闇に包まれると急激な眠気に襲われて意識が遠のいていく

 なんとか草の寝床に倒れ込み眠りについた

因幡鰐イナバワニ

牙も鱗も無くした柔らかい白ワニ

どんな水辺にでも生息し生でも喰える肉は世界中で食される

その繁殖力と環境適応力は生態系を支えている

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