第7話 【人魔混合兵】
1.魔界-人体研究ラボ-留置室
暇だったので、剣の柄で壁を叩くことにした。
(案外楽しいな。VRで壁を叩く体験なんて、あんまりやらないからな。)
ゲーム内時間で6時間程度、剣の柄で壁を叩いていたら称号スキルが発現した。
《条件を満たしたので、【称号スキル】が付与されます。》
《取得称号スキル:【壁殴り】》
【壁殴り】…壁分類オブジェクトに10000回ダメージを与えた証。壁分類オブジェクトに対するダメージ蓄積が2倍になる。
やったぜ。
壁に開けた穴も、50cmくらい後退した。
このスキルも相まって、次の6時間もやれば脱出できるかもしれない。
もうワンセット!
だが、そのような甘い考えは次の瞬間瓦解することになる。
───よっしゃ!いくぞおおおおお!
「ずいぶんと頑張っているようだな。」
───え…?
4mの直方体な部屋。
俺以外いないと確信する部屋の中で、声は響く。
振り返れば、いた。
身長280cm、ウエストサイズ74.9cm
全身紫色の筋肉隆々な、赤い角のデーモン。
「殊勝なことだ。」
未知の悪魔が、俺の目の前にいた───!
───あんた…俺をこんな所に連れてきて、一体、何をするつもりだ?
俺は剣を腰だめに構えながら悪魔を威嚇する。
(まぁ、こんなに強そうなやつに、俺の攻撃なんか効かないだろうけど…。)
まぁ、うん。
ここがどことか、俺をなんで連れ去ったのかとかの情報を得るには、相手の善意に期待するしかないんだけどさ…。
なんだろう、ロールプレイかなぁ。これ。
幸運なことに、悪魔は俺の問いに答える。
「あんた、とはな。野蛮だね…。まぁいい。」
「私は、世間一般で言う魔物プレイヤー…種としては、最上位悪魔。」
「名前は【ブーン】。」
「君を【人魔混合兵】に改造するために、此処にいる。」
(え、人魔改造兵?)
(俺、闇落ちしちゃうわけ?ちょっとロマンあるなぁ〜。)
───人を改造するのなら、その前に説明を求めたいのだが。
【ブーン】は調子を崩さず続ける。
「もちろん手術の前に、説明がある。」
「今から転移する説明室の中で、ね。」
「【テレポート】。」
(あ、地面に魔法陣…。すごいなこの人、俺も強くなればできるかな。)
推測するなら、これはスキルアビリティだろうな。
地面に白い光で描かれたそれは、視界を塗りつぶすほど眩く光る。
俺はこの部屋から出ることになった。
2.人体研究ラボ-説明室
白い光が収まれば、今度もまた無菌室じみたさっ白い部屋だった。
清潔な印象を抱かせる、新品のような部屋だった。
結構広い、面積としては60m平方ぐらいか?
俺のように魔物プレイヤーを同伴させた人間が20名程度居た。
───俺のような奴が結構いるようだな。
───どういうことだ?【ブーン】。
「…静粛に!」
ブーンに質問したところで、女の声が響いた。
ブーンが言う。
「今に始まるとも。静かに聞いていれば、把握できるはずさ。」
女の声の方に顔を向けると、そこには肌の色が青白い、赤い目をした女がいた。
かなりの長身だ、182cmはあるだろう。
(魔族って身体が大きいのがデフォルトなんかな〜。)
「私の名前は【アビジャン】!」
「貴様らが今存在する、此処、人体研究ラボの所長をしている!」
(うお、物騒な名前の施設だな。痛い目には遭いたくないんだけど…。)
「貴様ら、実験対象者の困惑はもっともだ!」
「なぜ、自分が連れてこられたのか、わかっていないだろう。」
「だからこそ、我々は貴様達に説明をする義務がある!」
そこからは粛々と説明が行われた。
まず、俺たちは【人間プレイヤーと魔物プレイヤーを混ぜ合わせる実験】のために連れてこられたこと。
次に、【実験終了後は魔物プレイヤー達の兵士にさせられる】こと。
最後に、【此処は魔界であり、最早人間界に戻る事は叶わない】ことを説明された。
(ほげ〜。混ぜ物になっても強くなれるならいいけどなぁ。)
「…以上だ!貴様らは今後、【人魔混合兵】として育成される!不服な者はキャラクターをデリートするが良い!」
俺たちをしきりに威圧した後、アビジャンは転移魔法か何かで姿を消した───。