第5話 別れの次にあるもの
1.バゼリ王国-穀倉地帯
【衝撃波】によって薮が刈られ、視界が開けると、そこには───上半身裸の悪魔がいた。
(ボディービルダー顔負けの筋肉…。)
身長280cm、ウエストサイズ(腰回り)74.9cm。
紫色の肌で頭に赤黒い角が2本、蝙蝠羽も生えている筋骨隆々のマッチョマン。
俺は言葉を失った。
(なんだ───こいつ。)
つよすぎる。
身長280cmに勝てるわけがない。
即座に逃走を図るが、そう思った時には腹を槍が貫通していた。
(───え?刺されてる?速すぎだろ。)
背を向けることすらできなかった。
(もしや、初心者狩り、か?)
(でも明らかに人間じゃないし。)
刺さったのは、黒い、フォークのような四つ又槍だ。
紫色の悪魔の顔はよく見えた。
「ふむ。」
悪魔は値踏みをするように俺を見た。
黒い白目に白い黒目。
人間の配色とまるで真逆だ。
「…面倒くさい縁を作ってしまった。」
間違いなく、中身に人間が入っているな。むう…。
(あーそうだ!思い出した!)
確か、キャラメイクの初めに、種族選択なんてものがあったんだ。
コイツは魔族を選択して【ビクトリア】を始めたプレイヤーってことか。
…それにしても、俺を殺しておいて、『面倒くさい縁』などと、なんて言い草だ。
文句の一つでも返してやりたいが、言葉が出ない。
寸分たりとも体を動かすことができない。
なんかこれ、いわゆる麻痺状態みたいなもんになってないか?
「…ラマンダが来るな。」
「……仕方がない。」
知っている名前だ。
ラマンダが来るのか?
まぁそのうち死ぬだろうから関係ない…と、思ったが、全然死ぬ気配がない。
以前死んだ時のような血が流れる感触がない。これはどういうことだろう。
俺は確かに槍に貫かれて、そのまま持ち上げられているのに。
「今回は1人だけにしてやる。」
悪魔は巨大な、黒い穴を空間に展開した。
その中に俺を抱えて入っていく。
俺の視界は、黒く染まった。