第5話 裏
【ビクトリア】は魔力に属性を付与することができる。
属性を付与することができるのは、6種類。
炎、水、風、土、光、闇。
それぞれの属性は互いに相性がある。
例として出せば、光と闇の魔力は打ち消し合う。
人族は魔力に対し、光属性の付与がしやすく、反対に、魔族は闇属性の付与がしやすい。
1.最果て-情報出力プラント-データベース部
「俺たちと戦え。勝って先へ進め。」
「強引だが、我々も職務をこなさなければならないのだよ。───覚悟したまえ。」
ステンドグラスから、淡い光りがこちらを照らす。
β版、【ビクトリア】の───頂上。
彼ら、トップランカーがアーサーの前に立ち塞がっていた。
距離は3mといったところか。
アーサーはすかさずバックステップ。
(攻略法───不明。相手の力量───不明…。全部、未知。)
そして、おそらく、目の前の敵は【ボス】に分類される者達だ───。
《 warning! warning! 》
《 【STORY BOSS】『星』 》
《 【STORY BOSS】『世界』 》
警告のアナウンスが鳴り響く。
ダトムから貰った片手剣を後方へ飛びながら構えた。
今までの経験でなんとか魔力を込めるコツは覚えられている。
ある程度の形状変化はできるようなので、なんとかこれで敵の不意を打っていきたい。
しかし、まずは距離をとって相手の動向を見なければ、始まらないだろう───。
「【攻性防壁】。」
【攻性防壁】…魔力の壁を変形させ、敵を攻撃するスキルアビリティ。魔力を使う一部の上位職業が習得できる。
「【轟撃】ッッ!」
【轟撃】…攻撃の際、筋力値が2.5倍される。一部の上位職業が習得できる。
暴風。
目の前の威容は、それに形容するのが正しい。
さらに、暴風の裏から、薄紫の魔力壁が針のようになってこちらへ進撃する…!
(───形状変化させて不意つくとか、言ってる場合じゃないんだけど…!)
ザスターが魔力壁の針をこちらへ向け、ザワルドのランスがアーサーへと向けて放たれた。
ザワルドは槍持つ腕を捻り、捻り、捻り。
最大限のねじりを解放した槍より、螺旋の大竜巻がアーサーを飲み込まんと進む。
(速いぞ───!無理じゃねーか…!?これ!?)
アーサーは飛びながら思考する。
幸いにして、【轟撃】の方は衝撃波のみ。
大幅に威力は減衰している───しかし、状況は油断を許さない。
ザスターの、【攻性防壁】だ。
視界の端を進む【攻性防壁】が、あろうことか、差し迫る暴風の速さを超えていた。
コマ回しのような速度で、一瞬の思考の間に、既にこちらへと届かんとしているのだ。
(セット。【剛撃】…。いや、だめだ。【剛撃】だけじゃ防げねぇ…。)
集中力が加速する。
視界に映る状況に追いつくように。
(なんとかして防ぐ方法は───。)
脳裏に蘇るのは、【ブーン】が実演していた【アビリティコネクト】。
そして、ダトムから受け取った片手剣、その性質───形状変化。
(【魔法剣】───【剛撃】───アビリティコネクト───。)
思考のタイムリミットが迫る。
首元に【攻性防壁】の針が刺さる。
ガラス片のようなそれは、幾許の猶予なく、アーサーの首を刈り取るだろう。
掛け合わせるのは、【剛撃】と、あと───。
───【魔法剣:光撃】。
【極光】…自身のものである、光属性の魔力で出来た武器を持った証。魔力操作に補正がかかり、光属性のスキルアビリティのダメージが1.2倍される。
(そう、光属性のスキルアビリティのダメージが1.2倍される。)
【魔法剣:光撃】は、おそらく光属性だ。
(おそらく、打ち勝てる筈だ───!)
【剛撃】…攻撃の際、筋力値が1.5倍される。
【魔法剣:光撃】…悪魔系へのダメージが1.2倍へと上がる。光属性の魔力を剣に纏わせる。
意思を決めたアーサーの目の前に、表示が現れる。
名を呼べ。
【それ】を、発動しろ、と。
成熟した大人が、こんなことを叫ぶのは少し毛恥ずかしいけども───。
───【断暗光】ォォォォ!!
それが、リミッターを切るスイッチであれば、躊躇いはない。
その時、ようやく、地に足がついた。
【断暗光】…【剛撃】×【魔法剣:光撃】のアビリティコネクト。
光属性の、筋力値を3倍にした強力な一撃を放つ。
言葉を放った瞬間、身体は制御を失う。
有り余る筋力が、ただただ剣を振りかざす。
瞬時に、首元を掻き切ろうとする【攻性防壁】を断ち切った。
(それだけでは、だめだ。)
アーサーは踏ん張って剣に宿る魔力をコントロールする。
より大きく、より鋭く───破壊力を最大限まで上げるため。
剣は膨張する。
質量を上げながら、風船のように膨らんでいく。
瞬き一つしないうちに、片手剣は大剣へ、大剣はさらに巨大へ。
───ッッラァ!!!
横凪に、振り抜いた。
大質量による、圧倒的な破壊力。
アビリティコネクトによる筋力値の加算がなければ、とても振り抜けない重さを、アーサーは振り抜いた。
故に、暴風はかき消される。
【攻性防壁】は片々となって掻き消える。
「───!俺の【轟撃】を…!」
故に、防壁は破壊される。
(まだ、だ。)
(できるはずなんだ。システム的に…!)
現在の剣の長さは2m。
アーサーとザスター達の距離は3m以上。
まだ届かない。
ならばこそ、研ぎ澄ます───。
(伸びろ。)
(伸びろ。)
(細く───伸びろーーッッ!!)
祈る。
願いを、込める。
「【攻性防壁】───抉れ。」
胸に鈍い痛み。
おおかた、伸びた剣で砕ききれなかった【攻性防壁】がこちらに攻撃を仕掛けているのだろう。
すぐに心臓が壊されるはずだ。
だが、目線を下げることはできない。
ザワルドの槍。
彼の槍には、まだ【轟撃】の影響でとてつもない破壊力が残っている。
その槍と、この剣がかち合えば、間違いなく、こちらの剣が破壊されるだろう。
それでは意味がない。勝ちを拾えない。
チャンスは一度だけ。
ここを逃せば───2度目の、アビリティコネクトはできない。
死ねば、魔界からの復活だ───此処に、また、偶然で来れるとは思えない。
───あたれェェーーッ!!
「剣が伸びるだとッ!?まずいッ!」
幸運にも───祈りは通じた。
剣はザワルドの槍に当たらず、周囲にある様々な機械ごと、ザワルド、ザスター両名の胴を抉り取った。
彼らは間違いなく、破壊力、技術面においてアーサーより格上であったが、室内という逃げ場がない状況と、瞬間的な魔力操作による刀身のコントロールをアーサーがやって見せたが故に、なすすべなく敗北したのであった。
【攻性防壁】が主人の死亡と共に制御を失う。
勢いを失い、地に落ちる。
アーサーの胸元から、血が垂れ始める。
「まずった。」
「技の後隙を狙われたね。次は精進するとしよう。」
ザスター達の肉体が、断面から血を噴き出しながら、バランスを失って倒れ込む。
「初手でアビリティコネクトはずるいでしょ。俺もβの時はよくやってたけど。」
「【ビクトリア】には無敵技があまりないから、むしろ効率的であろうに。情けないぞ、ザワルド。」
ザスター達は胴が両断された状態でも平静を保っている。
アーサーは火属性の【魔法弾】を使って胸を止血した。
───…ふぅ、死ぬかと…思った…。
アーサーは集中力を使った代償か、ふらふらしていた。
長く伸びた剣の尺を元の片手剣のサイズに戻し、ザスター達へと接近する。
───ボスってのは、やっぱりその。殺した方がいいのか?
「トドメを刺さないとドロップアイテムが出ないぞ。」
───じゃあ殺すわ…。
「ぐわーーーッ!?」
ザワルドはザクザクと剣で刺され、死亡。
───ザスター、言い残すことは?
「特にないが、強いて言うのなら我々は万全でない。【ワールドアイテム】を持っていないし、なんならレベルも下げられている。権能の行使だってしてはいない。つまり、私たちを倒したと言うことで強さが証明されたわけではないのだよ。君、油断してるとおそらく近いうちに狩られると思うがね。気をつけたまえ。」
───言い残せって言っといてなんだけど、むかつく…。
「ぐわーーーッ!?」
ザスターは死に目になけなしの魔力で【攻性防壁】を張ったが、薄かったので普通に剣で刺されて死亡した。
《 congratulation! 》
《 【STORY BOSS】『星』の撃破! 》
《 【STORY BOSS】『世界』の撃破! 》
目の前に表示が現れるのと同時期に、ザスター、ザワルド両名の死体が粒子となって消滅する。
《 アーサーさんのレベルが82に上がりました! 》
《 取得スキルアビリティ:【光陰正視】、【瞬間強化】、【不滅】、【騎士の誓い】 》
お、おおーっ!?
一気に増えたな!スキルアビリティ!どれどれ…。
【光陰正視】…自身の俊敏値を1.2 倍、動体視力、思考速度を5倍にする。
【瞬間強化】…自身が強化したい数値を、一定時間(8秒)の間、3倍にする。使用後、1分間のクールダウンが必要。
【不滅】…【不滅の魔神王】の力を解放し、自分が受けるダメージ量の80%をカットする。
【騎士の誓い】…一定範囲内の魔法攻撃を自身へと誘導することができる。発動中は魔法のダメージ量を50%カットする。
す、すげー。
上位職業のスキルアビリティって感じがするなぁ。
とくに、【瞬間強化】がやばい。
一度発動させれば、スキルアビリティを切り替えても強化は続くみたいだから、【瞬間強化】のバフが乗った状態で【剛撃】を放つことができる。
【不滅】は…【ビクトリア】だと、ダメージカットとか、あんまり期待できないんだよな…。破格の性能のように見えるけど。
(まぁ、不意打ち対策にはなるか。)
常にこいつをセットしておけば、後ろからアンブッシュされても多少は生き残れるかもしれない。
…これからは、今までとはかなり違った戦い方になりそうだ…!
《 報酬を得ました! 》
───お、報酬か。ザワルドが言ってた、ボスのドロップアイテムってやつだな。
《 アビリティジェム【星】 》
《 アビリティジェム【世界】 》
二人の死体の跡には、赤く輝く宝石が転がっていた。
《 【アビリティジェム】についての説明が必要ですか? 》
目の前に青い光でできたウィンドウが表示された。
《 はい/いいえ 》
当然ながら、はい、をタップする。
《 【アビリティジェム】は【アルカナ】など、特殊なボスを撃破した際に貰えるアイテムです。 》
《 一つだけ装備することが可能で、装備している間は倒したボスの特徴を得ることができます。 》
《 以上で説明を終わります。再度説明を聞きたい場合は、【メニュー】にある【ヘルプ】をお開きください 》
へー。
なるほどな。強化アイテムってことか。
この文章の中だと、【アルカナ】ってのが少しよくわからんな…。
【星】と【世界】は確かに、沢山あるアルカナの中の一つではあるけど。
俺は2人のジェムを拾う。
《 条件を満たしたので、称号スキルが付与されます。 》
えっ?なになに?
《 取得称号スキル:【アルカナ殺し】 》
《 【アルカナ殺し】…【アルカナ】の役割を持つボスを倒した証。アルカナを発見した際、専用の表示が出るようになる。 》
もしかしたら…いや、もしかしなくても、ザスター、ザワルドは【アルカナ】ってやつか?
俺が【アルカナ】である、ザワルド達を倒したから、このスキルが付与されたってことか。
効果としては【アルカナ】が誰なのかわかるみたいだな。
【アビリティジェム】を探していくのなら、重宝しそうだ。
アビリティジェムを懐にしまった視界の端に、ステンドグラスの光が映る。
首を持ち上げて、それを仰ぎ見た。
色とりどりの光が、あるものを形作っている。
六対の煤けた翼を持つ、美しい天使。
顔はのっぺらぼうのように、何も描かれていなかったが、それ故に神々しさが増しているように思えた。
《 イベントを進行します 》
《 よろしいですか? 》
《 はい/いいえ 》
もちろんだが、『はい』のパネルをタップする。
青い電子板は海の泡の如く消え失せた。
またしても、視界にノイズが走る。
「辿り着きし者よ。」
「何故だ。」
「何故ここに来た。」
「我が子よ。」
雄々しい父のような声であったか、それとも、全てを包み込む母のようであったか、
その声は、2つの声が重なっていた。
「ここは貴様達の世界だ。」
声の方向へと振り向いてみても、そこには誰もいない。
気味が悪かった。
「ここは【彼ら】の世界ではない。」
「【宇宙】を飛ぶ者達の故郷だ。」
「なのに何故だ。」
「譲り渡そうというのか?」
「1000年の航行を経て、ようやく見つけられた楽園を。」
声は、建物全体から響いていた。
この部屋のあらゆるところから、その声は響いていた。
「星間航行装置、バベルへと行くがいい。」
「望むのなら、外へ行け。」
《 【浮遊大陸アスガルド】への転移に応じますか? 》
《 はい/いいえ 》
えっ。
ここで選択肢かよ。
それにしても、星間航行装置?
随分と未来的な装置だな。
剣と魔法のファンタジーかと思いきや、SFものじゃねーか。
…うーん。
なんか展開が早すぎるから、まだアスガルドとかには行きたくないな。
【古代遺跡、ミドガルズ】とかのストーリークエストを攻略しとこうかなって思ってたとこなのに。
俺は『いいえ』をタップした。
《 決定に、間違いはないですか? 》
《 はい/いいえ 》
うん。
俺は『はい』をタップした。
「そうか。」
「自分を含めた宇宙飛びの血を、この地より滅そうというのだな。」
えっ。
そんなこと言ってない。
[ 現在この施設に滞在している全職員に警告します ]
無機質な電子音声が、終わりを告げる。
「危険な思想故、改めて因子を作り直すとしよう。」
「正当な権利を理解できるように。」
[ この施設に、現時刻から惑星環境開拓機能の5%を適用します ]
「我が子にふさわしいように、厳選しよう。」
「世の笑顔を、人の暮らしを、宇宙飛びの歴史を途絶えさせるわけにはいかない。」
[ 現地解体を行います。振動に注意してください。 ]
地面が震え出した…!
「ああ、尊くは空の骸。」
「───故に、この地は、我らのものだ。縄で繋がれし獣よ。」
[ 一部機能の収納を行います。職員は活動マニュアルに沿って行動してください ]
チューブが、ケーブルが、振動に耐えきれずにあえなく千切れていく…!
《 warning! warning! 》
施設全体を捻り切るような振動に、立つことは叶わない。
《 WORLD BOSS 『Primitive regression』 》
原始の獣が如く、四の足で地に傅くのみ。
[ 機能の適用が完了いたしました。現地の解体作業が終了するまで、職員は振動などに気をつけて活動してください。 ]
壁に備え付けられた緊急用の明かりが点く。
揺れが止まる。
アーサーはあまりの出来事に、しばし呆然としていた───。




