第1話 はじまりと、死
1.バゼリ王国-酒場
白色の背景が、塗り変わっていく。
視界は、木造の酒場の中を映していた。
薄暗いがそこそこ広くて活気があるな。
酒飲みのNPCが場を盛り上げている。
文字がびっしり書き込まれた羊皮紙が、中世風の背広を身につけた受付嬢に抜き取られた。
「はい。これで、冒険者登録の手続きは完了です!」
ふむ、なるほど。彼女は掲示板を指差した。
「依頼を受ける際は、あちらの掲示板の張り紙をこちらまでお持ちください!それでは!良い冒険者生活を!」
どうやら冒険者とやらになった体で導入が終わったようだ。まずは、兎にも角にも情報収集。
俺は席を立つと、ギルドの掲示板をガン無視して外へと探索に出ることにした。
2.バゼリ王国-街内
【ビクトリア】は、つい四週間前に最終βテストを終え、先週、販売に至ったVRMMOゲームだ。
このゲームのキャッチコピーとしては、広大なビクトリアを解き明かせ!とのこと。
【ビクトリア】の何処かにある謎を解き明かすのがプレイヤーの目的だ。
(まー知ったこっちゃないんだが)
俺がやりたいのは戦闘と育成、それとロールプレイだ。子供の頃から、物語の中の騎士に憧れていた。他者を守る強者、いわゆるノブレス・オブリージュ。VRゲームでは、それを体現する者になりたいのだ。
…VRMMOでは俺のようなリアルで運動不足の不健康マンにもイケメンの顔とガタイを用意してくれるし、なんなら、バク転だってできる。
バク転だぞバク転。現実じゃあ絶対真似できない動きもVRならできる。VRの良いところだなー。早く戦闘がしてみたいぜ。
…情報収集がてら、街を練り歩く道中で、路地裏に入り込んでみると…。
「そこの兄ちゃん、失礼!」
俺は突然背後から切り裂かれ、粒子と化して死んだ。
(え?一撃で死ぬの?このゲーム…。)